文章はここで途切れている。
「まぁ安心してよ。尋問したんだけど勇者は別に恨んでないって、死を恨むのは弱者だけだってさ」
賢者が適当な事を言ってやがる。が、檻の中の少女は俺ばっかり見てるし瞳孔も開ききってる。
題名をつけるならマジで殺す3秒前だ。人を殺す寸前の魔物が似たような顔をしていた。
檻に近づいて話しかける。
「まさか俺を恨んでないのか?」
「・・・」
ガン無視だった。
まぁ、恨んでないです。とか言われても困る。仮にただの少女だろうと保護するなんて俺は御免だ。
後ろに顔を向ける。
「テメェ、本当に尋問したのかよ」
「もちろん。すごく苛々しながら答えてくれたよ」
シュールだな。魔王の娘に事情聴取かよ。
「そもそもだ、なんで王様はこんな馬鹿を言い始めた?」
「いやさぁ、非常に不本意な話なんだけど魔王が死んだか分からないと言いまして」
なるほど。まぁ、分からんでもない。魔王出現で相当参っていたらしいし。
あっさり倒されて、はいそうですか。と信用できないような都市伝説が流布していた。不死身だとか三回生き返るとか。
「それで?」
「万が一、復活した時のために娘を人質にしたいんだと」
ふーむ。色々言いたいことがあるなァ・・・。まずは──
「これから保護するガキの前で言うセリフかよ、間抜けが」
子供に罪はないからとか言っとけっ。そこが人間の良さだろうが!
手間を増やすな。
「ごめんごめん。でも後々発覚したら面倒だと思って」
「つーか、それなら一生ここに閉じ込めとけや、カス共」
「ひどいなぁ、もう彼ら限界なんだよ。今動けるのこの十人だけ。しかも三日寝てない」
黙々とした詠唱が聞こえる。
いつもハツラツと呪文を詠唱してた王国魔術師どもがお通夜くらいに暗いのはそういうワケか。
おそらく魔法封じの呪文で、それを三日。そりゃ俺だってうんざりするわ。
「いや、そんな役目を俺一人の押し付けんな」
「適材適所だよ!魔王の娘を管理できるのは、君しかいないんだ!」
「知るか!救国の英雄様だぞ、少しは休ませろ」
「どうぞどうぞ、二人でゆっくり休んでください。遊園地とかどうです?」
「こんなヤツ連れてったら血の海になるだろうが」
「いやいや、勇者様が居れば大丈夫ですって」
適当に太鼓持つな。逆効果だから。
だが分かったことがある。我らがオーサマは俺の事を使い潰すつもりらしい。
逃げ出すか?・・・大国に目をつけられると色々面倒なんだよなぁ。
「はぁ・・・」
魔王の娘──アヤカ・アップホワイド。そんな名前だった筈だ。
実力的には魔王の方が百倍強い。それにコイツのお守りをやっとけばそれ以上の面倒をかけさせられる事も、おそらく無い。
檻の前でしゃがんで目を合わせる。虹彩異色症はコイツが魔王の系譜である証だ。黒と銀の瞳が俺を射抜いた。
「なんか言ってみろ」
目線は動かない。そして緩慢に口を動かした。
「『キル・サンダ』」
即死魔法だ。もちろん発動しなかったし、魔力をちゃんと扱える奴には効かない。そしてコイツもそれは分かってる。
あの時だってそうだった。魔王を殺した俺に勝てる筈はないが、マジで攻撃してきた。
「アヤカ。だったな?」
「『イレイス』」
「腹減ってんだろ」
「減ってる」
即答。一瞬詠唱かと思った。変わらない鋭い目つきだった。
「今日からは毎日飯食わせてやるから大人しくできるか?」
「うん」
「よし、出せ」
「了解!」
賢者が檻を開いた。魔術師どもの詠唱が止んで、俺は牢屋に入った。
アヤカが俺を指し示す。魔力の変化が感覚でわかった。
当然にも魔法で攻撃するつもりらしい。指し示したのは、対象を明確化すると魔法の精度が上がるって小技だ。
どうやら魔王は教育熱心だったようだ。
「『死の華』」
と、詠唱を始めたが、俺はスムーズに近づいてその手を掴んだ。
収束しかけた魔力が拡散する。魔法封じの一種。相手の魔力を操作して魔法を妨害する。この方法は技術さえ身につければ寝てようが関係ない。
手で触れてるならさっさと殺すべきってのが唯一の問題点だったが物は使いようってのは本当らしい。
アヤカが目を僅かに見開いた。俺を見ていたので再び目線を合わせた。澄み切った青い瞳が彼女を貫いているだろう。
「今日からはこれで生活だからな」
気狂いじみたプロポーズだった。
やる時は徹底的に。諦める時はスパッと。それが俺のモットーだ。
アヤカはうんざりした顔をして手首を極めてくる。
初めて怒ってるトコ以外を見た。
が、どうやらコイツにはさっきみたいな顔が似合ってるらしい。
『親殺し』と『親殺され』 大入道雲 @harakiri_girl
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