『親殺し』と『親殺され』
大入道雲
諸々の導入部
勇者が無事に魔王を討伐した。彼は女神に与えられた力からは解放されたし、世界は祝福ムードに包まれていた。
それから一ヶ月後。
俺は王城の地下に来ていた。文字がびっしりと書かれた鉄格子の檻には少女が居て、部屋に入ってきた俺を睨んでいる。
牢獄を取り囲む十人の魔術師がブツブツと詠唱をしていてホラーな雰囲気だった。
隣には、俺を呼んだ張本人が立っている。金が掛かっていそうな派手な服を着た男だった。
「勇者、頼みたい事というのはコレの事だ」
「コレ、ね」
男が指し示した少女に目を向ける。親譲りの漆黒の髪、鋭い目つき、こんな状況でさえ攻撃的に勇者様を睨むイカれた神経。
「魔王の娘をどうしろと?殺すのを止めたのはそっちだろ」
そう、コイツは魔王の一人娘だ。名前は忘れた。
俺が魔王を殺した直後に不意打ちで極大魔法を撃ち込んで来る、猪のようなガキだ。
反撃で殺そうとした俺を、旅に同行した賢者であるコイツが止めた。理由はよく分からない。
散々魔族を殺戮しておいて、少女の見た目をしてたから同情でもしたのか?とにかく魔王の娘は賢者によって王城の地下に拉致されていたらしい。
「それは王命だったんだ。僕だって馬鹿な真似だと思ってる」
「だったらやめた方がいい。それか賢者って称号を辞退するか」
「僕には神の加護なんてないんだ。世の中は世知辛いし、綺麗事じゃ生きていけない」
皮肉か?皮肉だろうな。コイツは性格が悪いから。
賢者は自嘲気味な笑みを浮かべて続ける。
「さらに馬鹿な事を言うけど、この娘を保護してもらいたいんだ」
「は?」
賢者の顔にはニヤけ顔が張り付いている。それはつまり、コイツが真面目だって証だ。
穴が開くほど睨みつけてから魔王の娘をチラ見する。
殺意が篭った目で俺を見ている。
「魔王の娘を保護?」
「うん」
「魔王を殺した俺が?」
「そう」
「勇者が魔王の娘を?」
「その通り」
「断ったら?」
「言わせないでよ。まだ仲間で居たいじゃん?」
世界なんて滅びれば良い。俺は何千回目かの祈りを捧げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます