日常
ある朝ニュースを目にした。どこかの大学生が、猫を殺して捕まったらしい。
ネットでは批判の嵐が渦巻いており、大学生の実家や親戚の個人情報など、特定作業が鬼のような速度で進んでいるようだった。そういった行き過ぎた行動はともかくとして、大学生の犯した罪は到底許されるものではないだろう。その行動にどんな意味があったかは、無論我々の知るところではない。けどどんな理由に基づいたものでも、彼の行動は最低最悪で下劣だ。間違いない。
*
──我々は、命をどう捉えているのだろうか
──事故で一般人が大勢死んだとして、果たして我々はそれを気に留めるだろうか
──知らない場所の知らない誰かが死んだだけなら、きっと一瞥するのみだろう
──まだ猫が死んだ方が、我々は気分を害する筈だ
*
……別に、それがどうしたって話だ。
主観的に見れば、命の価値は可変だ。今更言うことでもない。
名も知らない誰かの命と、かわいい猫の命、価値には差がつくこともある。
そんなこと馬鹿でも知っているだろう。
*
──でも、僕らは時に忘れる
「命は平等」なんて言葉を吐く。
まるで命の価値について、答えがあるかのように話しはじめる。
死刑制度、尊厳死、反出生主義。
論争に決着は付かないだろう、「命は平等」なんて妄想を抱いてる限りは。
死刑囚の命と聖人の命は平等か?
末期の病人と健康な人間、自己の命に対する認識は同一か?
生まれてくる命は全て等しく価値あるものか?
わかるはずない、僕たちは愚かだから。
答えを出すには「割り切る」しかない。
根拠も乏しいまま断言するしかない。
己の罪を自覚するしかない。
命の価値を定めた罪を。
──或いは誰か、いないだろうか
──どうか愚かな我々に、命の価値を教えてくれ
*
僕は朝食を口に流し込んだ。もうすぐ出発の時間だ、急がなければ。
そうして僕は忙しなく朝の用事を片づけると、着替えを済ませて家を出た。
「少しゆっくりしすぎたな。急がないと」
僕は駆け足で、いつも通りのバス停へと向かった。
猫のことなんて、もう覚えちゃいない。
盲猫 蒼己翠 @aokimidori
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