アンチといじめと〇〇

まれ

第1話

 ここは紅菜くな高校の一教室。一の六。

 紅菜高校は現在一学年二百四十人、計六百九十九人の生徒が通う。

 計算が合わないって?

 一年生からはまだ出ていないが毎年数人退学者がいるそう。

 退学理由はさまざま。進級できなかったからだったり。事件だったり。

 あくまで噂であり、実情を知るものはほとんどいない。

 上が隠ぺいでもしているのか。はたまた脅されているのか消されているのか。

 私も入学して初めてその噂を聞いた。

 それほど、この学校の悪い話は世間には出ない。



 私は今朝登校してから、ある画面をみている。

 日課のSNSいじりである。そのSNSの名前はWhisper。

 世界中の人と繋がることのできるアプリケーションでささやく(投稿する)ことで個人の気持ちを発信することができる。

 私の日課はこれで終わりではない。

 気に食わない内容の投稿をリプ欄で思ったことを『ぶらあか』名義でそのまま書き投稿する。世間ではアンチコメントばかりしているからか『ぶらあかが来るぞ』ってリプに書かれている人が増えた。まあ当然行って書きに行きますよ。ここまでが私、蔓木茜かぶらきあかねの日課である。




「おいお前ら席に着け!」

 私は「うるさい担任がきた 毎朝やめろよ」とさっそくWhisperに書き込んだ。

 そしてすぐに私の投稿にそれなと同意してくれるフォロワーがたくさんいる。

 お前ら暇人かよ。

「先週退学した片桐のことはまだ覚えてるか?えーあれから五日経ったわけだが、このクラスに新しく転校生が来た。みんな仲良くしろよ」

 なんとこのクラスに転校生が来るなんて珍しい。そもそも高校でこういうことが起こること自体少ない。っていうか退学者いたんだ。早いな。まだ数か月しか経っていないぞ。

「入りなさい」

 担任の声と同時に一人の女子生徒が教室に入ってきた。

 軽く紫がかった白髪色でストレートロングの女子生徒だった。

 あまりみることのない髪色だからかどこかでみたことがあるような気がした。

 まあ気のせいだろうけど。

竜胆橉りんどうりんといいます!ぜひ、りんりんと呼んでください」

 教室中がわーわーと騒ぎ出した。私以外の全員がだ。これにはもちろん担任も含まれている。

「りんりんだってまじかよ!写真よりめっちゃ可愛いぞ!」

「だよなー。俺狙っちゃおうかな?」

「はあ?お前なんかが釣り合うわけないだろ?」

 少し耳を傾けたところこのような男子のしょうもない会話が聞こえてきた。

 まあ、確かにかわいいとは思うがこういうのはたいてい自覚してやっているので性格が悪い。関わらないのが一番だ。幸い私はクラスではぼっちな上に教室の隅で影の薄い人間である。勝った。




「じゃあ、竜胆の席は片桐のところで悪いがあそこの席でよろしく」

 担任は担任らしく話を収束させるべくりんりんこと竜胆を席に着かせた。

「先生!りんりんって呼んでくださいよ?」

 なんだこいつ。あざといというかなんというかウザい?先生が呼ぶわけないだろ。

「悪い。りんりん」

 呼んだーー‼学校の先生がましてや担任が。そりゃ、絶対やっちゃだめだろ。

 画面をみるためにちょうど下を向いていたとき、席の前で止まる足と影が見えた。

 見上げると、彼女がこっちを見ていた。

「よろしくお願いします!えっとー」

「蔓木……です」

 私は遠慮ぎみに名前をその転校生に言った。

 すると彼女はよろしくねと言ってさっさと前の席に座った。

 っというかそこの席、片桐とかいうのの席だったんだ。

 そこからしばらく担任が朝の連絡事項があった。

 当然どうでもいいものがほとんどなのでまた画面を見ていた。

 内容はこんな感じ。



 こんな時期に転校生来たんだけどww

 ちょっと紫髪で明るくて人気物ですオーラキモイw

 関わらないに越したことはないな



 すぐに同意の反応を見せてくれる私のフォロワーたち。

 瞬く間にその数一万にのぼる。




 DMが一件来た。

『その人ってりんりん?』

 衝撃だった。

 まさか身バレでもしたのだろうか?と当然の疑問を抱きつつも同時に危機を感じていた。

 私は学校と家を毎日往復しているだけの友達もいない教室の隅っこで下を向いている暗い少女である。誰とも話さないし興味もない。私のこの性格がバレるわけがない。

 続いてもう一件。

 同じ人からである。

 見てみると画像が添付されていた。

 そこには。



 今日は前言ってた通り新しい学校に来ました!



 と書かれた投稿文と紫白髪の少女が映ったスクリーンショットだった。

 よく見ると、背景はうちの高校の職員室前の廊下の壁だった。

 私はりんりんこと竜胆のアカウントを検索した。

 フォロワー数二十万人。

 とんでもない人数だ。

 見ての通りうちの学校は規則が緩い。

 授業中であっても何も教師は言わない。

 だが、さすがに彼女ほどの人気のある人間がSNSに学校の壁を背景に投稿すれば彼女のファンが特定し押し寄せてくるかもしれない。

 そうなればさすがに学校も迷惑だ。




 話を戻そう。

 私はDMにこう返した。

 『あなたは誰?』と。

 すると、帰ってきたのは『秘密』の一言だった。

 そのあとは特に何も変わらないいつも通りの一日だった。

 ただ一つ違ったのは、よくわからない存在が接触してきたことの不安さがあったこと。



 転校生の竜胆がクラスになじみ始めたある日の朝。

 それが始まった。

 すなわち、彼女へのクラスのアンチ行動。

 わかりやすくいえば『いじめ』。

 私が登校すると教室内では彼女の席付近が広く空間が空いていた。

 そして一人浮いていた。

 何があったのかそこらへんにいた女子に尋ねた。

「竜胆何かあったのか?」

 彼女は楽しそうに語った。


「なんかー。昨日、ストーカー被害にあったらしいよ?で、それでねー。そのストーカーさんに対して攻撃したらしいの!でねでね!そのストーカーさん、救急車に運ばれて入院したんだって。やばくない?やっぱ、有名人って大変だね!あーこわいこわい」


 私はこの話を聞いてストーカーをした人の自業自得だと思った。竜胆は正しいことをした。そう思ってもこの場では言えない。

 私は彼女に関わらないそう決めたのだから。

 それから数日経っても彼女のアンチは増える一方だった。

 この学校の異常さはまさにこれだった。

 しかもこのことが世間に一切漏れない。




 翌日、授業の間に竜胆がいなくなった。

 いつも一人だから居場所わかるだろ?と教師に竜胆を探しに行かされた。

 ちなみに、私の出欠は出席にしてくれるらしい。

 私は授業がサボれるならと探しに教室を出た。

 廊下には誰もいない。

 教室の壁の防音性能が高いのか扉を閉めると授業の雑音は聞こえなくなった。

 無音の廊下をしばらく歩いた。

 最初に向かったのは体育倉庫。

 理由は単純。

 前の授業が体育だったからだ。

 もしかしたら閉じ込められて動けなくなっているのではと思った。

 鍵がかかっていても確かめる方法は一応ある。

 格子状の窓が少し高いところにある。

 そこから覗くと中がほとんど死角なしで見渡せる。

 んしょっと。

 近くのブロック塀から上り中を見た。

「うーん……」

 多少乱雑にしまってあるが中には誰も居なさそうであった。

 次の場所へ向かうことにした。



 来たのは、お決まりというかよく行方不明いなくなるときにいそうな場所。

 そう、屋上だ。

 うちの学校の屋上は職員室のある校舎の五階にある。

 普段は四階から五階へ行く階段が飛び越えようと思えば誰でもできるほどの立ち入り禁止の棒が塞いでいる。

 だが、今日は折られていた。

 間違いなく誰かが来たことを意味していた。

 私は折れたそれを跨ぎ、日中なのに少し薄暗い階段を上った。

 コツンコツンと私の足跡だけが響く。

 屋上のドアの前まで来た。

 ドアには壊れていない鍵がかかっていた。

 しかし、よく見るとドアノブが平行より下の位置に傾いていた。

 つまり、その誰かが鍵を壊せずドアノブをガチャガチャして開けようとしたんだろう。

 そして、諦めた。

 じゃあ、彼女はどこにいるのだろうか。

 それは、地下室だ。

 ここまで来たらそれしかもう考えられない。

 紅菜高校には地下室がある。

 場所はこの職員室のあるこの棟とは別の理科室のある研究棟の地下一階。

 いくつか教室があり、主な用途は実験で使う薬品の原液を保管している。

 理科準備室などと考えてもらえれば良いだろう。

 その一角に一つだけ空き教室がある。

 そこは鍵が壊れていて実質誰でも入ることができる。

 日の入らない地下なので、少し汚く薄暗い。

 そのため、昔からいじめの現場であることは校内では有名だった。

 一般生徒はこれを知っていて巻き込まれないように近づくことはほとんどない。

 今回は事情が違う特別だ。私だってこんなところには来たくはない。

 今もしここで私が襲われ、声をあげたとしても地上にいる人には一切聞こえないだろう。

 そう思うと身体が少し震える。

 とりあえず、この廊下には誰もいないようだ。

 再び、私の足音だけがこの廊下に響く。

 例の地下室の前に着いた。

 ガラガラと建付けの悪いドアを開けた。

 そこに広がっていた光景は目に余るものだった。

 教室にいたのは二人の男子生徒と一人の女子生徒。

 女子生徒の方は椅子に括り付けられ身動きが出来ないようだった。

 服は少しはだけ、どこのかわからない水を被り、カビたボロ雑巾にまみれるりんりんこと竜胆橉の姿があった。

「お前ら、ちょっとやりすぎなんじゃないの?別にいじめるなというわけじゃないけど」

 この場ではいじめを肯定しておかないとこっちがターゲットになってしまう。

「かぶ……らき……さん?」

 竜胆はまだ意識がかろうじてあるらしい。

「なんだお前。俺たちはな、こいつに被害をもたらされた被害者なんだよ!なんか文句あんのか」

 被害者ねぇ。

「どんな被害受けたの?彼女に」

「俺たちはな。こいつのファンだったんだよ。もう一人含めて、三人でりんりんのファンだった。つい一昨日まではな!ここにはいないもう一人の仲間、進志しんじがこいつに病院送りにされたんだ」

 あー、こいつらがねぇ。ファンからアンチにね。ようこそ、こちらの世界へ。

 まあ、さっさと出て行ってもらうけど。

「ねぇ、あんたたち名前は?あ、もちろんフルネームで。ああ、それとそのしんじくんとやらも」

「お前に言ったところでどうってこたないしな。いいぜ。俺は石川健。こっちは」

松魚かつお克太っす」

「で、進志は田中進志」

 おけおけ。準備完了。 


 リーク情報流すヨ。

 高校生の石川健と鰹勝太と田中しんじが竜胆橉のファンだったらしいんだけど、そのうちひとり田中しんじがストーカーして返りうちにされてブチギレてるらしいww

 みんなこいつらのことどう思う?みんなの意見聞かせて

 #竜胆橉 #りんりん


 私はぶらあか名義でWhisperに投稿した。

 本物のアンチ勢として。

 早速リプが大量に来た。

 内容を軽く目を通すと、

  最低。ありえない。こんなのファンじゃない。

  逆ギレとかダサ

  名前晒されてんの草

 とまあこんな感じだった。

 それを見て思わず笑ってしまった。

「おい何笑ってんだよ」

「ごめん、これがおもしろくてつい」

 そう言って私は先ほどの投稿内容が見えるようにWhisperの画面を見せた。

「は?お前何やってくれてんだ。だがな、ここは紅菜高校。バレるわけがねえ」

 それはどうだろうね。

「ってか、克太の字間違ってね?」

「言うなっす」

「え、そうなの?どんな字?」

「植物の松に魚でかつお、かつたのかつは数字の十の下に兄のやつ」

「どもども」

 こりゃあ、やらかした。

「何言ってるんすか。せっかく良すと思ってたす」

「道連れだ馬鹿」

 その言い合いをよそに私はWhisperに投稿した。


 ごめん‼さっきの名前漢字間違えていたみたい。

 正しくは松魚(かつおって読むんだって)克太くん

 失礼失礼

 では、また。


「これで大丈夫?」

「ああ。ってかこのアカウントってあの最凶アンチ垢ぶらあか……」

「え?」

 ずっと放置されていた竜胆の声が微かに漏れた。

「バレちまったか。てへぺろ」

 認めた瞬間、二人はごめんなさいと言いながら逃げて行った。

 自分の正体がバレたのはアレだったけど、まあいいか。

 竜胆はブルブル震えていた。

「蔓木さんがぶらあか?ってどういうことなの?」

 ん?ああ知らないのかな?

「私の名前、蔓木茜。略してぶらあか。どお?」

「なんで、そんなことしてるの?」

「スルーか。そんなの楽しいだからに決まってんじゃん」

 まだ、彼女は震えている。

「とりあえず、ここから出ない?私がいじめたみたいになってるし」

 そう言って、ひとまず教室に戻ることにした。

 気まずさのあまり二人とも口を開くことなく教室に辿り着いた。

 別れ際に何とかしようと思わずこんなことを言ってしまっていた。

「shape交換しない?」

 Shapeとは一対一でもグループでも気軽に関係の形を作れるメッセージトークアプリだ。

 それを今この女、竜胆に対して言った。

 ただでさえ登録数の少ない私があの有名人である竜胆橉に。

 どこからそんな感情が出たのか不思議でたまらなかった。

 竜胆の返事はというと。

「うん!もちろん、OKだよ!よろしくね茜ちゃん!」

 教室の前だからか転校してきた当時と同じテンションで返ってきた。

 普段は明るく人気者のりんりんというみんなが知る性格。先ほどの暗く怯えた人間と同一人物だと思えないほどに雰囲気が違った。



 その日の放課後。

 いつもすぐに帰ろうとするとファンに出待ちされてるらしく、竜胆と空き教室でしゃべることになった。

 ちなみに、ちゃんと毎日帰る時間変えてるらしい。

「ごめんね茜ちゃん、付き合ってもらっちゃって」

「いいよ全然。暇だし。有名人も大変だね」

「いやいや、茜ちゃんも十分有名人でしょ」

「いやいや私はSNSでキャラが有名になってるだけだし」

 私は思ったことを素直に彼女に言った。

 そもそも、実際出待ちされたことないし出待ちされてんのも今回が初めてだし。

「それに、ぶらあかの素顔と本名知ってるの竜胆さんだけだし」

「え、そうなの?」

 私は竜胆の問いに対して首を少し縦に振ることで肯定した。

「というか、茜ちゃん。りんりんって呼んでよ!」

 竜胆は少しうるっとした瞳で私にりんりん呼びを強要してきた。

「もしかして、誰かのことそういう風に呼んだことなくて恥ずかしいのかな?」

 顔がかぁっと熱くなった気がした。

 夕方、茜色に染まった空と西日が私たちのいる空き教室に射した。

 そう顔が今熱いのはこの西日のせいだと思いながら、竜胆を見た。

 すると彼女はニヤついた顔で言った。

「かっわいい!!」




 あれから数日が経った。

 あの事件と言っていいのかわからないがあの出来事以来、私はりんりんと学校生活を共に過ごすことが多くなった。

 それほどに私たちは仲良くなった。

 ぶらあかの投稿が影響し、彼女に対するストーカーやいじめなどがここ数日ピタリと止んだ。

 リプは大方、ありえないとかかわいそう、何被害者ずらしてんだよ!被害者はりんりんだとかそういうものだった。

 私はニュースをあまり見ない人間だから知らなかったが報道番組でも取り上げられたんだとか。それによって、ぶらあかの知名度も上がりなぜか正義の執行者とか断罪の女神とかなんとか呼ばれ始めた。

 そして、フォロワー数も増えた。

「ねぇ、りんりん」

「なあに、茜ちゃん」

 さらに、なんのためらいもなくりんりんと呼ぶことができるようにもなった。

 だが、まだ問題は解決していなかった。

 もしかしたらもしかするかもと思ってりんりんにも訊いたが違った。

 何が?ってそりゃもちろん、りんりん転校初日にきたDMの相手が誰かってこと。

 これがまだ私にとっての脅威になるかもしれない問題だった。

 理由は単純。

 私のクラスに転校してきた生徒がりんりんだということを知っていた。それはまだいい。ぶらあかが私だと認識してDMをしてきた可能性があるということ。たとえ、そうじゃなかったとしても私がこの学校に通っていることがバレている。これは確実だと思う。




「ねぇ、茜ちゃん。この前言ってた人見つかった?」

 この前言っていた人ってのは例のDMの人だ。

「いや、全然」

「そっかー、私にできることがあればいつでも言ってね!」

「ありがとう、りんりん」

 彼女はこう言ってるけど本当は心配でもっと頼ってほしいのだろう。

 本当は今の段階でかなり頼りたいのはあるがどうしても先日のあの光景がちらつく。

 朝っぱらからクラス全員に噂を誇張され、一人浮いているあの光景が。

 彼女に危険がある人物でないことがわかるまではできれば頼りたくない。

 でもそうわかってる。

 それはすなわち一人で探すということ。誰の手借りずに。

 一旦整理しよう。

 まず、DMの内容から私のクラスに来た転校生がりんりんであることを知っていることから同じ学校の生徒であることはほぼ間違いない。下手したら同じクラスかもしれない。

 まずって言ったけど他なんかあるかな。

 やっぱり一人だと限度あるな。うーん。ジレンマだ。

 ちなみにあれから何度DM送ってるけど反応はない。

「本当に困ってない?茜ちゃん?」

 私の視界にわざわざ入ってきて言った。

 私は咄嗟に目をそらしてしまった。

 これでは余計に疑われてしまうだろう。

 きっと今、私の目は泳いでるに違いない。

「茜ちゃん」

 と、そこでチャイムが都合よく鳴ってくれた。

 ナイスチャイムナイス時間設定。

「もう授業始まっちゃうね。またあとでね」

 本当は授業が始まったとしても席は前後なのだから喋れる。でも、彼女のポリシーで授業中はちゃんと受けるって決めてるらしい。それが世間の普通なのかもしれないけどあいにくこの学校は普通じゃない。授業中にしゃべろうが寝ていようが先生は怒りも注意もしない。生徒に興味がなく目の前でいじめがあったとしても何もしない。多分、できないの方が正しいけど。校内で事件が起きてもPTAが割り込んでも噂程度のネタ話にしかならないし一切校外に話が漏れない。

 だが、この前のあのWhisperに投稿したことで発覚した部分もあった。

 もっともネットニュースではりんりんがストーカー被害にあったことだけ。

 いじめのことはしっかりと隠ぺいされたままだ。

 そこに一通のDMが来た。



 りんりんに気をつけろあいつは

 昔を思い出せ



 驚いた。手掛かりが欲しかったところに情報が転がってきたのだから。

 すぐに返信した。



 あなたは誰?

 私のこと知ってるの?

 りんりん?どういうこと?

 昔っていつ?



 少し質問攻めのように感じたがそんなことはまあいいだろう。

 そんな私に返ってきたのはこれだけ。



 俺は田中

 この前の投稿文お前らしくない

 本当の敵は



 それ以降返信が返ってくることはなかった。

 この会話によってわかったことは三つある。

 一つ目。DMの主の名前は田中。

 二つ目。私をある程度知っているということ。

 三つ目。何かが起こっていて黒幕がいるということ。

 

 ん?一つ目の田中ってまさかあのときの田中⁉

 そう思って自分の投稿を見返した。

 履歴からさかのぼり二つ目にその投稿があった。

「そういえば最近投稿してなかったなぁー」

 そう独り言をこぼした。

 すると、前のほうから折られた紙切れが落ちてきた。私の目の前に。

 その紙切れを開くと前席の彼女からだった。


 どうしたの?独り言するなんて


 どうやら聞こえていたらしい。

 少し恥ずかしい気持ちになった。おそらく顔を多少赤くなってるだろう。

 彼女には同じようにあとで話すと書き折って彼女の右肩の上あたりから落とした。

 話を戻すと、相手は田中しんじだとわかった。

 しかもさっき点呼のときに名前呼ばれてた気がする。それで誰かが田中は入院してるって先生に言っていた。状況は当てはまっている。クラスメイトだった。なんでぶらあかの主と知っていたのかはわからないが。

 とりあえず、DMの相手の正体はわかった。

 これで以前の問題は解決した。

 でもすっきりはしなかった。

 田中が正体と引き換えに新しい問題を持ってきやがったからだ。

 あいつぶっ潰す!ああすでに死にかけてたか。くそっ。

 三つ目のわかったことの何か起きてて黒幕がいるという話。

 それに昔って……。

 話を聞こうにも病院知らないし、あの二人不登校になってるらしいし、家知らないし。

 うーんと唸りながら考えていると授業が終わる合図のチャイムが鳴った。

「茜ちゃん、どうしたの?」

 私はさっき授業中にあのDMの相手から返信が来たこと相手が誰かわかったこと何かが起きてることその黒幕がいることを順にりんりんに話した。一瞬黒幕という単語を聞いて怖い顔をした気がしたが特にそれについて私が指摘することはなかった。

 それとりんりんに気をつけろの意味はわかってないがこの事は本人には知られてはいけない気がした。


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アンチといじめと〇〇 まれ @mare9887

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