たまげた

古木しき

たまげた

 夜、友人と三年ぶりに偶然居酒屋の前で再会し、そのまま長々と談笑していた。


「エイプリルフールに彼女にフラれちゃってね」


「いったい、どんな嘘をついたんだい」


「いやァ、まァ、嘘というよりはちょっとしたイタズラだね」


 友人は恥ずかしそうな情けなさそうな顔をして話し出した。


「彼女を家に呼び出しておいて、俺は玄関で素っ裸にマントを羽織った露出狂の真似ごとをして、驚かそうとずっと待機していたわけよ。でもそれがもう、大失敗。彼女がいつものようにピンポンと鳴らしてドアを開けた。俺はそこで勢いよくマントを広げて大文字になった。俺の予想だったら、彼女はキャアっと叫ぶけど、すぐに気付いていやぁもう! とか言って笑ってくれると思っていた。


 しかし、その時の彼女の機嫌は悪かった。来る途中の電車内でチカンにあったらしかったけど、そんなことを俺が知るわけがない。


 彼女は俺の予想していた以上のどでかい叫び声をあげて走って逃げ帰ってしまった」


「ハハハ、馬鹿なことをするからそりゃあフラれるのもしょうがないね」


「笑いごとじゃない! 彼女はそのときに叫びながら、思いっきり右足で大文字になっている俺の真ん中を蹴り上げた。俺はたまげたし、その後の激痛にも魂が飛んでいくような思いだったけれども、もっとたまげたのはそのあと」


 私は呆れてなかなか声が出なかった。


「……いくら今日がエイプリルフールだからって、玉消(たまげ)ていたとか、そんなくだらないギャグはやめてくれよ」


「それが本当なんだから、もう。これは去年の話で、最初から最後まで嘘偽りなしよ」


 私はふと、腕時計を見た。


 時計の針は午前0時を三十分も過ぎていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たまげた 古木しき @furukishiki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ