012_Twitter断食一週間目、ネットに依存する精神の動きについての観察結果とその分析
ツイッターを封印してからちょうど一週間が経とうとしている。だいたいこういう記録は、ツイッターを封印したことでこんなことができたとか、こんないいことがあったとかを報告できることが「成功」になると思う。そういう意味では今回のツイッター断食、および各種SNSサービスの封印は明らかに失敗してしまった。
SNSを封印して3日ほど経ったあたりから、禁断症状のようなものが出始めた。ツイッター以外で、とにかくなんでもいいから情報刺激が欲しくなった。そして私は、ブラウザを開いて昔はよく見ていた2chのまとめサイトなどを徘徊した。この結果、ツイッターをしないことで得られたはずの、「有効活用するはずだった時間」はすべてネットの海に霧散してしまった。非常にもったいないことをした。
一応言い訳をするなら、今回私はツイッターをやめること自体を目的としていたわけではない。闇雲に、衝動的な変身願望に突き動かされてツイッターやSNS、動画サービスなどを封印して成功したことがあっただろうか。ほとんどの人は成功しないと思う。私も両手の指で数え切れないくらいにはSNSの封印にチャレンジしていた。そしてその全てに失敗した。
今回は、なぜSNSに依存してしまうのか、そもそも依存することによって何を失っているのか。逆にプラスの影響はないのか。SNSのどの要素が依存性を持っているのか、などを自分の心身で実験してみたかった。
ここからは、ツイッターなどの各種サービスを封印しながら、自分で自分の精神について考えてみて思ったことを書く。私には心理学や脳科学の素養はない。だからすべての人に通ずるものを引き出すことができたとは思わない。また、私の精神は他の人に比べて弱い。だから私の精神で起こっているであろう情けない現象は、他の人には起こっていない可能性も十分にある。これから書く記述を見て、自分の普段の行動を否定されていると感じた場合、つまりそんな低俗な考えでSNSを触っているのではないと思った人は、私より強い精神を持っている。ここに書いていることは関係ないと考えていただいて構わない。
だが、私と同じくらい精神が弱く外部の影響を受けやすい人は、もしかしたら参考にしてもらえるかもしれない。私はそんな弱くて、そして苦しんでいる人のために書いてみようと思う。
ツイッターから離れることがそんなに大事なことなのだろうか。そういう疑問も浮かぶ。新しい情報は得られるし、考えるべきテーマもたくさん発掘できる。素敵な創作者の方々と交流することもできる。それでも私はツイッターの負の側面のほうがここ数年は特に強くなっているのではないかと感じている。
実際のところ、SNS依存(特に私の場合はツイッター)とはなんであろうか。というより、私は何から逃れたくて自分をSNS依存であると断定したのであろうか。最もわかりやすいのは、ツイッターの見すぎで他のことに時間を使えなくなってしまったということだ。ではどんな使い方をしてそうなっているのだろうか。FFとのやりとりに没頭しているわけではない。延々とツイートをし続けているというわけでもない。私がやっているのは「ホーム」をひたすら更新することと、特定のワードで検索してそれについての意見を探し続けるというものだ。
ツイッターの情報はトゲトゲしているという表現を以前した。これは少し間違っているのかもしれない。正しくは、ツイッターの情報は私の精神をトゲトゲさせるのかもしれない。私は自分のトゲによって傷ついて疲弊しているような気がする。
私は何かのニュースや主張を見て、「これは間違っている!」と判断する瞬間に起こる精神的現象に依存している。同時に「この意見は正しい!」と判断するときの精神的現象にも依存している。どういうことか順番に説明したい。
まず、私は「間違い」を探す。それは誰かの不祥事かもしれないし、問題発言かもしれないし、どこかの企業が行った間違ったプロモーションかもしれない。あるいは偶然バズってしまったただの一般人のツイートかもしれない。とにかくそれに対して私は「間違い」を見出す。
実験用ラットがスイッチを押すかのように、SNSや動画サービスのホームやおすすめを更新し続けていれば、それは簡単に見つけることができる。そしてこの「間違い」に複数寄せられている他の人の「正しい」意見を見て快感に似た刺激を得ている。
このとき私は、「間違い」を見て自分で考えて自分の意見を確立するようなことはしない。自分の立場を明確にしてから寄せられている他の人の意見を確認するのではない。そうではなく、「間違い」を見た瞬間に私は直感的に不快感を抱く。なぜ不快感を抱くのかを自分で考えるのではなく、寄せられている他人の意見からその理由を得ようとする。そしてそれが不快感の理由たりうるものであればその時「正しい」と感じる。
このとき、それが本当に正しいのかどうかは関係がない、というより知りようがない。社会的に正しいと言われる意見で「正しい」と感じてその刺激に依存することもあれば、社会的には間違っていると判断されるであろう意見を見て「正しい」と感じてその刺激に依存することもある。これは内容の話ではない。脳内で何が起こっているかの話である。
ツイッターを封印したとき、私はブラウザで2chのまとめサイトを巡回するようになった。そうした2chサイトはよくないと思いそれらも閲覧制限をかけた。その結果としていくつか本を読んだりアニメを見たりと、文化的な楽しみに時間を使うことができた。だがその後、その本やアニメの感想をネット上に探し求めた。ツイッターをわざわざブラウザから見たり、アマゾンや読書メータのレビューなども漁った。結局私は時間を有意義に使えたのか使えなかったのか、よくわからない状態になってしまった。
このことから、上の説明をもう少し拡張することができるかもしれない。
私は何かを見たとき「直感的な感想」を抱く。ここでいう感想とは、感動したとか不快だとか傷ついたとか面白いとか、とにかく言葉で理論的に説明するまえの心の動きのことを指している。辞書的な意味での感想よりも広い意味で使っている。
この直感的な感想がなぜ起こっているのかについての「説明」を求める。そして、より納得できる説明を求めてひたすらそれを探し続ける。ここで重要なのは、私の中に自分なりの説明があり、それとぴったり合うものを探しているわけではないということだ。私は説明を持っていない。持つ前から自分にあう説明を外部に求める。そして私はいつの間にか、自分で説明を用意していなかったことを忘れてしまう。
自分では説明を用意していないのに、自分の説明に合う他の人の説明を探し求める。自分では説明を用意していないが、私はどこから持ち込んできたのか既に自分なりの説明を手に持っている。それが元から自分のものだったのか、外から持ってきたものそのままなのか、自分なりにアレンジしたものなのか、外から持ってきないろいろなものが合体して起源がわからなくなってしまっているのか、それを知ることはできない。いつそれを手に持ったのかわからないし、これから先別の説明とすり替えられたとしてもそのことに気づくことはできない。
わかることは、私はそんな「戸籍のない説明」とぴったり合う他の説明を常に探し求めているということだ。数学で習う双曲線のグラフが漸近線とどこまでいっても延々に交わることがないのと同じように、この探し求めは終わることがない。
この「感想」を最初に説明した「間違い」に、そして「説明」を「正しい」に置き換えることもできる。
私は誰かの不祥事や問題発言やツイートに対して、それは間違いであるという「感想」を抱く。繰り返しになるが、こうした間違いはツイッターのホームを更新し続けたり特定のワードで検索をかければ簡単に見つけることができる。だが私はその感想を抱く理由を自分で説明することはない。それをする前から、私は自分が正しいと感じるために他の人の「説明」を求め始める。引用リツートやリプライ欄をタップすればそうした説明が満ち溢れているだろう。それでも満足できなければまた検索すればよい。
月並な表現になるが、これまで述べたことを簡潔に表すなら、私は自分の意見がわからないまま自分を納得させてくれる説明を探し続けるのだ。だが、そのプレセスは思いの外入り組んでいるため簡単に抜け出すことはできない。
こうした精神の働きがあるから、SNSは怖いのだ……という話で結論を出そうと思っていた。
だがよく考えると、人は自分で言語化できない感想を抱いてしまったとき、こうした上記のような対応をして救われることがある。
新しい説明、新しい概念と出会うことで世界が開けるときもある。あるいはそれこそが「勉強」と呼ばれる行為かもしれないのだ。自分が受け取るすべてのものを自分の力で言語化することなどできない。私は他者の正しいと思える意見を吸収していきながら、少しずつ世界を広げていく。だからそれ自体は悪いことではないのだと思う。
人が生きて成長していく限り、つまり世界を広げていく方向性を持っている限り、SNSへの依存を完全になくすことはできないのだと思う。生物が生きるために進化の過程で獲得した性質が、まったく別の病気を呼び込んでしまうのと同じように、人が成長するための能力そのものが、SNSへの依存を呼び込んでしまっているのだと思う。
2023年2月23日
文章を書く練習をする場 丸井零 @marui9
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