第19話 約束


 正直、自分がもうすぐ通う美波中学より通い慣れてしまった美波高校の裏庭に向かう。

 もう時間は夕方で、大地くんは「お前だけだと迷子になるから俺もいく」って言ってくれたけど、断った。

 なんとなく、ひとりで来たかったから。

 だってここは修一さんが死んでしまったところだ。

 やっぱり何度も来たい場所じゃ、ないんじゃないかな。


 修一さんと何度も来たから、もう完全に覚えてしまった裏庭。

 木の根のある場所。

 それをぴょんぴょんと跳び越えて歩く。

 私が覚えてるのに、通っていた菜乃花さんが覚えてないの、面白すぎる。


 ずっとミサンガを探していた辺りで立ち止まって周りを見てみる。

 修一さんはいない。 

 実は探しているときから気が付いていた……美波高校には十人くらいのおばけがいる。

 七人が自殺で、三人が違うひと。

 でも修一さんと話して分かったのは、ほかのおばけ同士は見えないってこと。

 違う人もいるかも知れないけど、聞いても答えてくれないと思う。

 裏庭をよく見ると、私が葉っぱを片づけたり、石をどかしたりしたから、すこし変わってしまった。

 勝手に動かした石を戻すと重たくて……これをしていた時に修一さんが横で「がんばれ」って応援してくれたのを思い出した。


 私はそこから体育倉庫裏に移動した。

 ここは少し高台にあって、海がよく見える。

 前にきたときも夕方だったけど、今も夕日がおちていくのが見えてきれい。

 濡れない謎のスポットは、あんな土砂降りの雨だったのに、やっぱり濡れてないみたいでサラリとしていた。

 ほんとうに謎。


「……修一さん」


 小さな声で呼びかけてみる。

 でも修一さんは出てこない。

 ここにもいない。じゃあ屋上かな……と少し思ったけど、なんだかいない気がした。

 何個も残したことがあるから、簡単に成仏できないな……って言ってたけど……。

 私はあれから何度も、菜乃花さんが言っていた言葉を思い出している。


 死んだって居なかったことにはならない。


 ずっとずっと、菜乃花さんは修一さんを好きで、きっとずっと好きなんだ。

 だから修一さんは、死んじゃったけど、生きてるんだって思った。

 菜乃花さんから聞かされたけど、ミサンガと鍵を捨てて……もう永遠に開けられない宝箱は、また同じようにあのネモフィラの場所に埋めたと言っていた。

 そうだ、あそこかも知れない!

 私は自転車を走らせてネモフィラのじゅうたんも、宝箱の場所も見に行ったけど、修一さんはいなかった。



「ただいま」

「おかえりなさい」


 帰るとお母さんも幸次郎おじさんも、大地くんもいて、私を待っていてくれた。

 四人で一緒にたべる夜ご飯はいつも楽しくて、幸次郎おじさんとお母さんはすごく仲がよくて、見ていてうれしい。

 食事を終えて部屋に戻ると、壁に制服がかけてあった。


「!! 美波中学校の制服だ」


 私は制服の採寸をしたのが、ここに引っ越してからだったので、制服が届くのが入学式の数日前……今日になってしまった。

 美波中学校の制服はセーラー服で、リボンが大きくてかわいい。

 それにスカートのすそにラインが入っていて、そこもいいと思う。

 小学校の時は制服なんてなかったから、すごく楽しみ。


「……立夏ちゃんに似合いそうだ」


 声に振り向くと修一さんが居た。


「修一さん!!」


 私は思わず叫んで、飛びつけないけど、飛びついてしまった。

 この街にきて不安で、それでも修一さんといることで少しずつこの街に慣れていった。

 修一さんがいなかったら、私は大地くんと話せるようになっていたか、わからない。


「成仏しちゃったかと思って……今日色々探しに行ったんですよ」

「ちょっとひとっ走りして、大地と立夏ちゃんが通うサッカークラブを見に行ってきたんだ。うん、いいところだね」

「えっ?! それを知って……」

「窓の外で聞いてたんだ。ありがとう。大地からは言い出せなかったと思う」


 私は静かに首をふる。


「ほんとうに……私が同じ年の子たちと、スポーツがしたいって思ってたんです。なるべくたくさんの子と。ずっとひとりだったから」

「そうか。嬉しいよ。それが嬉しくて、見に行ってた。いや、ぷかぷか浮いていくのは結構遠いね。正直歩くのと同じ速度だからな。車とか電車に乗れるのかな。今度試してみるよ」

「修一さんっ……!」


 私は思わず涙ぐんでしまった。

 修一さんは苦笑する。


「菜乃花がミサンガを隠してくれた時『ありがとう……俺は成仏できそうだ……』って消えるかなと思ったけど、消えないのな。あれれ? って思ったよ。大地と立夏ちゃんのことが気になってるからかな? それとも菜乃花のことかな。分からないけど……もう少しここにいてもいいかな?」

「もちろんです! あっ……本当は成仏したほうが生まれ変わったりできるのかな? 私、そういうの全然わかりません」


 修一さんは静かに首をふって、


「ここにいたい。死んでるけど、ここに居たい。ありがとう、立夏ちゃん。これからもよろしくね」

「はい! それでですね、私は今から制服を試着したいので、出て行ってください!」

「あっ、はい、了解です」


 笑顔で出て行った修一さんを見て、私はドアをしめた。

 うれしくて顔がニコニコしてきてしまう。

 修一さん……いなくならなくて良かった。

 あっ、ダメなのかな? でもうれしい。

 もう死んじゃってるけど、何でも相談できそうなすごく大切なお兄ちゃんだと思う。

 少しだけ不安だった新しい生活が、安心に変わっていく。

 私は制服をハンガーから外して着てみた。

 サイズはかなり大きめにしたから、ブカブカだけど……スカートなんて持ち上げれば大丈夫! すっごくかわいい。

 我慢できなくて、そのまま隣の大地くんの部屋に飛び込むと、なんと大地くんも制服を試着していた。

 私はそれを見て黙る。


「……ブレザー……ちょっといくらなんでも大きくない?」

「!! 俺も父さんにそう言ったけど、すぐ小さくなるからって言われて、こんなデケーのになったんだよ!!」

「ロボットみたい。手に何か付いてるロボットみたい」

「なんなんだそれは!! 立夏だって上も下もでかすぎるだろ、変だろ!!」

「そんなことないもん。可愛い?! ねえ、ロボさん可愛い?!」

「俺はロボじゃない!!」


 私たちは大きすぎる制服を着て部屋ではしゃいだ。

 もうすぐ入学式、楽しみ!




 

 

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ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

9万字以下完結設定が必要なようなので、ここで一度切ります。

しかしなんとまあ立夏ちゃんまだ入学もしてません、そんな……!

実は応募には9万字以上が必要だと読み間違えていて(本当は9万字以下です…)

15万字くらいで構成してました。

入学から落ち着く所まで書くと12万字で文字数オーバー……なんてこった。

ここで終われないし作者は大地くんをとても気に入っているので②も書きます。

この先はもう少し楽しく明るいおばけラブコメ(?)になると思います。

もしよかったら読みに来てください。

9月に入ったらオタク同僚2.5の更新をして、それが落ち着いたらかな。

一言感想を頂けると嬉しいです!


コイル

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