現実

それから私は中学高校と必死に勉強をした。

親から勉強しろと言われていたのもあるが、一番の理由は遠い街で大学に入って、この街から出て香梨から逃げたかったからだ。

大学を選ばなければ、ここまで必死に勉強する必要も無かったが、出来ることなら国立に入って学費を少しでも浮かしたかった。

大学に入ったら親の援助を受けるつもりもなかったし、学費や引越しする時の費用などは高校時代にバイトで得た給料を少しづつだが貯めていた。


無事、遠い街の大学に合格し、卒業することも出来てそこそこいい会社に就職することが出来た。

最初は地元よりも圧倒的に大きい駅で迷ってしまったり、標準語に慣れなくて、地元の方言が馬鹿にされたり、その他にも色々苦悩はあったが、地元にいるよりは断然マシだ。


高校卒業してから地元には戻ってないが、香梨は親から放任されているみたいだ。

中学高校でも家にいたりいなかったりしてて親も若干呆れているのではないか。

私に勉強しろと言うことはあっても、香梨に言うことは無かった。

今はどうなっているか知りたくもないし、知る術も無い。

今はもう都会であるこの街にも慣れて、結婚を前提に付き合っている人もいて。

仕事もまだ全然だけれど、少しづつ出来ることが増えてきた。

今は夢に思い描いていた生活に変わりつつある。

でも、心のどこかでは明日香梨が突然目の前に現れて、その生活を潰してしまうんじゃないかと考える事がある。

私が必死で実現させたこの生活を潰されたくはない。

今私の目の前に香梨が出てこなければ何もかもが上手くいく。

そう思っていた。


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泣いて月を求める 永瀬 伊織 @dkdlflchae

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