疑問

ようやく授業が終わった。

私は、早く香梨に聞かなければと、教室から逃げるように学校を出て、自宅へと走った。

香梨に今日の出来事を話して、明日ちゃんと誤解を解いてもらうように話すんだ。

今日は少し辛かった。誰とも話せないし、休み時間もずっと1人だったから。

でも明日からはそんな事ならないはず。香梨なら私の事をちゃんと考えて、誤解が解けるように話してくれると思う。

疑う気持ちを何も持たずに家について、ランドセルを置くよりも、手を洗うよりも早く、香梨が寝ているはずの寝室へと向かった。


寝室に入ると香梨がベッドで本を読んでいた。

読書は2人の共通の趣味であり、いつも最近読んだ本の話などしていた。

今香梨が読んでいる本が気になったが、それよりも先に学校の事を聞くことにする。

私よりも先に香梨が口を開いた。

「汐梨おかえり。凄い息がきれてるけどどうしたの?」

「ただいま。体調は大丈夫?」

「うん、朝よりずっとましになったみたい。」

そう聞いて少し安心した。明日は一緒に行けるだろう。

「それなら良かった。」

「ありがとう。明日は一緒に行こうね。」

それを聞いて、聞かなければならない事を思い出す。

「そうだ、香梨。昨日友達と遊んでたよね?」

「うん。遊んでたよ。」

やっぱり誤解でよかった。

「今日ね、友達が昨日遊んでたのは汐梨だって言ってて、それと私が昨日酷い事をしたって言ってて。」

そう言うと香梨の顔つきが変わった。

少し口角を上げて、まるで私を嘲笑するかのような表情だ。

それを見て少し怖くなった。

「ああ、もうバレたんだ。」

と薄ら笑いながら香梨は言った。

「え?バレたってどういう事?」

汐梨の頭の中は疑問しか生まれなかった。

「昨日ね、私は汐梨のふりをして友達と遊んでたんだ。その時に、少し友達に嫌がらせしちゃった。」

香梨は無邪気に笑いながらそう言った。

私は香梨が何を言っているか分からず

「どうして?嫌がらせって何?何で私のふりをしたの?」

そう捲し立てるように聞いた。

「どうしてか…。私がそうしたかったからしただけだよ。」

と当たり前かのように香梨は答える。

私はその香梨の態度や発言を聞いて動揺する。

香梨はそうしたかったからしたと言ったが、そのしたかったという理由もよく分からなかった。

何より、香梨が意図的にそうしたという事実を受け止めきれなかった。

私はそこからの記憶は全くない。

気づいたら香梨と同じ部屋にあるベッドに寝かされていた。


*******


私はそれから卒業するまでずっと1人ぼっちで過ごした。

香梨が誤解を解いてはくれなかったからだ。

誤解を解いてくれないどころか、その後もずっと私のふりをして色んな悪行を働いた。

同じクラスの子の持ち物をゴミ箱に捨てたり、落書きしたり。

時には誰かに暴力を振るったこともあった。

その度、私が怒られていた。

汐梨が私のふりをしてその悪行を働き続けるから。

私は怒られる度に

「私じゃない。香梨がやった。私じゃ無いんだって。」

と否定していた。

でも誰一人も信じてくれなかった。


そのうち、親と担任の先生に病院に連れてこられた。

病院に連れてこられる度に、病院の先生に色んな質問をされた。

どうしてそんな事をするのかとか、昔の話とか。

私は

「何もしてない。全部香梨がやった。」

と言うと

親も担任の先生も病院の先生も

「大丈夫だからね。心配することは何も無いよ。」

と言った。

私はそんなこと言ってもらいたいんじゃなかった。

私は病人じゃない。どこも悪くない。

全部全部香梨なのに。香梨が悪いのに。

ただ、信じて欲しかっただけなのに。


********


どこかの誰かがTVの中で言っていた。

信用とは期待の押し付けだと。理想を押し付けて満足して、それが裏切られたら、信用してたのにと言ってるだけなんだと。

それを聞いて深く共感した。


それから私は信じて貰おうとも、誰かを信じようとも思わなくなった。

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