第5話 人の助けとなりなさい

「お母さん……僕のこの魔法が役に立つなんて考えられないよ! だって、みんなこの魔法を見て怖がるんだよ!?」


「確かにそう。見た目の色も不気味だから。でもね、それは見た目だけで決めつけているだけ。本当は分からないじゃない。トネリコだってそう思わない?」


「――――分からないよ」


「まあ、まだトネリコがその魔法を全部知ってるわけじゃないから分からないに決まってる。でも、その魔法を完全に自分のものに出来たら……今度はみんなを助けられるようにどう使えば良いかを考えなさい。もちろん、わたしも一緒に考えるから!」


「――――! お、お母さん!」


「ん、よしよし」


 僕は泣き出してしまった。

何故かは分からないけど、何か僕の中にあったものがスッとなくなった感じがした。

多分、楽になったからなのかもしれない。

 僕はお母さんに抱きしめられたまま夕ご飯を食べるまで、涙が枯れるくらい泣き続けた。









◇◇◇









 次の日……僕は朝起きてご飯を食べ終わった瞬間、すぐに森の中へ行った。

実はあの後、お母さんにまた住む場所を変えようと言われた。

でも、僕はすぐに嫌と言った。

 嫌なことを確実にされるのは分かってる。

でも、僕はある1人の友達と離れたくなかった。

それは、僕と同い年の女の子、ワラダちゃん。

そう、僕の本当の姿を見た途端、すぐに泣き出して逃げて行っちゃったあの女の子。

 ワラダちゃんとは小さい時からずっと仲良しだから、どうしても離れたくなかった。

あの時は突然だったし、ちゃんとワラダちゃんに言ってなかったから逃げて行っちゃったんだと思う。

 僕のお母さんとワラダちゃんのお母さんは仲が良いから、僕のお母さんはあの後ちゃんと僕のことを言ってくれたみたい。

だから、多分ワラダちゃんも分かってくれると思う。

またワラダちゃんと遊びたいな!


「じゃあ……練習始めよう!」


 でも、今はワラダちゃんはワラダちゃんのお母さんと一緒にお買い物に出かけるみたいだから会えない。

だから、今日は魔法の練習をするんだ!


「『ウパンガワ・クーザー』!」


 僕が最初に出せるようになった魔法をやってみる。

僕が魔法の名前を言うと、手の平から気持ち悪い色をした細い剣が出来ていく。

これが魔法剣というやつ。


「一応手から離せるんだよね?」


 試しに手をパッと開いてみた。

でも、僕の手にくっついたまま。


「もしかして、離れないの!? は、離れて! 離れてー!」


 僕は焦って叫びながら手を振ると、ボロンと僕の手から魔法剣が離れた。

カランとかドスンとかそんな音を全然立てないで、ペタンと地面に倒れた。


「――――もう一回試してみよう」


 僕は魔法剣を手に取ると、今度は『離れて』と心の中で思ってみた。

すると、魔法剣は僕の言ったことを分かってくれたように、僕の手から離れて倒れた。


「――――! で、出来た!」


 魔法剣を手から離すだけだけど、それでも出来なかったものが出来るようになって、僕はとても嬉しくなった。

恥ずかしいけど――――でも誰も居ないから……ジャンプして喜んだみた。


「なるほど、喋らなくても心の中で思っていれば魔法は出来るんだね! ということは……」


 僕は心の中で『消えて』と心の中で言う。

すると、魔法剣はやっぱり僕の言う通りにパッと消えた。


「す、凄い! 魔法ってこんなに便利なんだね! よーし!」


 次に僕は魔法の名前を心の中で言ってみた。

『ウパンガワ・クーザー』と心の中で言うと……僕の手の平にまた魔法剣が出てきた。

もう、楽しくて仕方がなかった!


「じゃあじゃあ!」


 僕は魔法剣の形を変えてみることにした。

出す、消えるが出来るのなら、長くしたり短くしたりすることも出来るんじゃないかな?


『剣を長く!』


 心の中で僕が言ってみると、魔法剣が伸び始めた。


「すごい――――ってちょっと! ストップストップ!」


 魔法剣はどんどん伸びていって……気づけば僕の身長よりもっと高くなった。

ちゃんと言ってあげないとどんどん伸びちゃうんだ……。

どのくらいの長さがちょうど良いのかな?

 色々試してみて、僕なりにちょうど良い長さを探してみた。

でも、思ってたよりも難しい……。


「――――ああ伸びすぎ伸びすぎ! ああ小さくなりすぎなりすぎ!」


 すごい、すごい頑張った。

僕は体の力が抜けて倒れてしまった。


「できなかった……。思ってたよりも難しいんだね……」


 色々やってみたけど、何回も伸びすぎたり小さくなりすぎちゃったり……。

この魔法剣を使えるようになるには、もっとやらなくちゃいけないのかも。

よーし、また明日もチャレンジしてみよう!


「――――お腹減ったなぁ。お家帰ろう」


 僕のお腹が大きく鳴った。

気づいたらお昼になってたみたい。

お母さんにまた怒られちゃうから、もう帰らないと。


「よいしょっと! ご飯ご飯!」


 僕はお家まで走った。

いつもより今日は楽しいかも!

 森の中を走って、走って、走って……!

背の高い草が見えてきたら村に出てくる!


「きゃあっ!?」


「わあっ!?」


 草を抜けた瞬間、僕の目の前に急に人が出てきた。

危なかった……!

ぶつかるところだった……。


「もしかして……と、トネリコくん!?」


「えっ――――わ、ワラダちゃん!?」


 僕の目の前の女の子、ワラダちゃんだった。

わあっ、久しぶりに見たよ!

あ、でも……大丈夫かな……。


「――――」


 ワラダちゃんの体が震えている。

まだ僕のことを怖がっているのかも。


「ワラダちゃん、大丈夫だよ。ほら、何でもないでしょ?」


 僕はワラダちゃんの手を握った。

最初はびっくりしたみたいでビクッとなった。


「――――! ほ、本当に大丈夫……?」


「うん、だって僕が触ってもワラダちゃんはなんともないでしょ? 僕は大丈夫。ワラダちゃんあの時はごめんね……。怖かった、よね……」


「ううん、わたしも急に逃げちゃったりしてごめんね……。お母さんからトネリコくんの目のこと聞いた。だからもう怖がったりしないよ。 わたし、トネリコくんと遊びたい!」


「ワラダちゃん……。うん!」


 良かったぁ……!

ワラダちゃんが僕のこと嫌いになってたらどうしようって思ってたけど、これからも遊ぼうって約束できた!

お母さんありがとう、僕いまにも泣きそうだよ……。


「あ、トネリコくん」


「ん、どうしたの?」


「その……お母さんから聞いたんだけど、トネリコくんって魔法が使えるようになって、いま訓練してるんだよね?」


 お母さん、そこまで言ってたんだ。

なら、わざわざもっと細かいことまで言わなくても大丈夫そうだね。


「うん、そうだよ。朝にやってる。お母さんに言われたんだ。人の役に立てるようになりなさいってね。本当は怖いものなのかもしれないけど、もしかしたら人の役に立てるかもしれない。だから今はあの森の中で練習してるんだ!」


「そうなんだ! じゃあ、わたしにも見せてよ!」


「えっ?」


「わたし見てみたい! トネリコくんの魔法、わたしも見てみたい!」


 えっ、僕の魔法剣をワラダちゃんに見せるの……?

――――だ、大丈夫、なのかな……?

ワラダちゃんが見たいって言うなら見せてあげたい。

でも、ワラダちゃんに何かあったら……。


「うーん……。見せるのは良いけど、すごい危ないよ。まだ使えるわけじゃないから何があるか分からないし……。だから行かないほうが良いよ」


「え〜? でも、わたしがトネリコくんから離れて見てれば大丈夫でしょ? ね? 良いでしょ?」


「――――ま、まあ……。離れていれば大丈夫だとは思う……」


「本当!? じゃあ、明日の朝に集合ね! わたし、広場で待ってるから! バイバイ!」


「う、うん! バイバイ……」


 ワラダちゃんがどんどん僕に近づいてくるから、思わず大丈夫って言っちゃったけど……。

本当に大丈夫なのかな……。

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ずっと気になっていた木の実を食べてみた うまチャン @issu18

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