第4話 地獄の日々
僕の変わってしまった姿をみんなに見られてしまった以降、僕は苦しい生活を続けることになった。
もちろん仲が良かったみんなからも避けられるようになった。
声をかけても、みんなは気持ち悪がって逃げていく……。
それは分かる気もするけど、特にひどかったのは引っ越してきたばかりのあの子。
あれがあってから、僕をいじり始めた。
僕に悪口を言ってみんなを巻き込んで同じ考えにさせようとしたり、ひどい時は僕を蹴ったりもした。
「トネリコ……お母さんはここから離れたって良いのよ?」
「ううん、僕はこの村のみんなが好きだから離れたくないんだ」
「そう……。なら、この村の領地の中で人がいないところに行かない? それならこの村に居られるし……」
お母さんは僕を守ろうと色んな提案をしてくれた。
僕のために必死に考えてくれているのはとても感謝してるけど、それでも僕は反対した。
そんな簡単に友達から離れたくなかったから。
確かに僕から避けているのは分かるけど、いつかは僕に話しかけてくれるだろう。
そうしたら、またあの時のように仲良くお話できたり一緒に遊んだりすることも出来るようになるだろう。
そう考えていた。
だけど、その考えは甘かった。
日が経つにつれ、さらに僕へのいじめは激しくなっていった。
蹴りや殴りだけでなく、僕の批判が村のみんな全員に知れ渡っていた。
それも、嘘だらけの噂だった……。
『トネリコくん、わたしの娘を好き勝手したらしいわ! いい子だと思っていたのに……』
僕の友達のお母さんの会話を通りすがりに盗み聞きしてみると、やっぱり僕のことを話題にする。
ちらっと見ると、明らかに嫌な顔をしていた。
「トネリコ……。本当に無理しないでほしいのよ」
「ううん、僕はまだ大丈夫」
毎日僕のことを心配するお母さんはそうやって話しかけてくれたけど……僕はまだ大丈夫、なんとかなると言い聞かせていた。
でも、それはいつしか限界を迎えた。
誰も僕に話しかけてくれない、遊んでもくれなくなってしまった。
完全に独りぼっちになってしまった僕は、ある日1人ふらふらと森の中へ行った。
そう、僕が興味本位で食べたあの木のところ。
「なんで……なんで食べただけなのに僕はこんなに変わってしまったの?」
――――。
「なんで……ここに生えているの?」
――――。
「ねえ答えてよ! ただ実を食べただけなのに、なんで僕はこんなに変わっちゃったのか教えてよ!」
――――。
僕はその場に崩れ落ちて、涙が溢れた。
そんな僕を知らんぷりするように、木は黙ったまま。
「――――っ!」
この時の僕はどうかしていた。
明らかに欲求を満たしたいという考えだけだった。
みんなはよく耳にしたことがあると思う。
人はストレスを溜めすぎると家に引き籠もりがちになったり、何かの依存症になったり……。
僕は怒りのままにその木の実をもぎ取り、そして齧りついた。
「はぐっ! むぐっ! かはっ!?」
怒りに任せて食べて喉を詰まらせたんじゃない。
木の実の効果が、前回に比べて強烈に体を苦しめる。
僕は左胸を抑えたまま地面に倒れてもがき苦しんだ。
そして苦しみを耐えることは出来ず……僕はまたあの時と同じように意識を失った。
◇◇◇
どのくらい経ったのだろう。
僕は突然目が覚め、重たい瞼を開けた。
ゆっくりと体を起こすと周りを見渡すと……特に変化はない。
良かった、僕が意識がなくなっている時に何かがあったわけではなかったみたい。
空はもう紫色になりかけている。
そろそろ戻らないと、またお母さんに怒られちゃう!
僕はさっさと体を起こして、家へと向かって走った。
あの木から僕の家まではそんなに遠いわけじゃない。
行って帰って来れるくらいだから走っても大丈夫。
「ただいま!」
「ちょっと! こんな時間までどこ行ってたの!?」
「ご、ごめんなさい……」
「――――まあ良いわ。疲れた顔してるみたいだし、そこにお菓子あるからそれ食べなさい」
「うん、ありがとう」
あれ?
今回は怒られなかった。
僕は首を傾げながらも家に上がり、テーブルに置いてあるお菓子を摘む。
そして、お母さんは正面に座ってそのお菓子を一口食べた。
「ねえトネリコ」
「なに?」
「お母さんが今から真剣な話をするから、ちゃんと聞いてね」
「うん、分かった」
真剣な話ってなんだろう?
とりあえず、僕は座り直してお母さんの話をちゃんと聞くことに。
多分説教なんだろうな……。
「トネリコ、わたしはね……トネリコが突然出来るようになったその力にちょっと興味があるの」
「――――えっ?」
「トネリコに色んな魔法を見せてもらったけど、確かにどれも恐ろしいものばかり。危ないものも結構あるよね」
「うん」
「でもね、お母さんはこう考えてみたの。『その力で人の役に立てる』んじゃないかなってね」
「人の役に、立てる……」
最初は意味が分からなかった。
だって、誰もが怖がってしまうこの魔法を人の役に立てる感じが全くしなかったから。
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