湊はその古い鈴を手に持ちながら、白羽神社の赤い鳥居の前をあとにした。

 帰り道で小さな橋の上を歩いているときに、制服のポケットの中で湊のスマートフォンが鳴った。表示を確認してみると、それは白山千里からだった。

「もしもし」湊は電話に出る。

「あ、もしもし。先輩ですか?」元気そうな千里の声が聞こえる。

 それから湊は千里との会話に集中した。手に持っていた菘からもらった古い鈴は制服のポケットの中に押し込んだ。

「……そういえば白山さん。今、この近くでお祭りってやっている?」なんとなくそんなことを湊は言った。

「お祭りですか? いいえ、まだどこもやってませんよ」千里は答える。

「あ、でもお祭りいいですね。白羽神社のお祭り、今度二人でいきましょう、先輩。そのときに私の友達も紹介しますから。すっごく可愛くて、すっごくいい子なんですよ。名前は松野菘ちゃんていうんですけどね。戦隊もののヒーローが大好きっていう変わった趣味があって、猫が好きで、それで……」

 そんな会話を、もう暗くなり始めた空と、橋の下に流れる川を見ながら、柏葉湊は白山千里としていた。

 橋の上に暖かい風が吹いた。

 そのなんだか懐かしい風を感じて、もう夏だな、と湊は思った。


 あなたを好きになる。 


 つばさをください 終わり

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