5
「じゃあ、さようなら。先輩」
赤い鳥居をくぐったところで、菘が言った。
「うん。また。白山さんにもよろしく言っておいて」と湊は言った。
そして二人は赤い鳥居の前で別れた。
途中までおくっていくと言ったのだけど、「大丈夫です」と言われてしまった。(もしかしたら、小柄でひ弱な湊は男性として頼りにされていないのかもしれない)
でも、湊が赤い鳥居の前で、元気よく歩き出した菘の後ろ姿を(ちょうど二人の帰る方向は正反対の方向だった)なんとなく見送っていると、ぴたっと菘が立ち止まって、それから急ぎ足で、まだ赤い鳥居の前にいる湊のところまで戻ってきた。
「すみません。大事な用事を忘れてました」照れ隠しのように小さく笑って菘が言った。
「? 大事な用事ってなに?」湊は言う。
「これです」
そう言って菘は黒色の東高の制服のスカートのポケットから、手のぎゅっと握って、なにかを取り出して、それを湊の前で開いて見せた。
すると、そこには『小さな古い鈴』があった。
「これを柏葉先輩に渡しそびれてました」菘は言う。
「これを僕にくれるの?」湊は言う。
「はい」
菘は言う。
それから菘はその古い鈴を湊に手渡した。
湊はその古い鈴を自分の手のひらの上に置いてじっと眺める。……それはなんだか不思議な魅力のある鈴だった。
「ありがとう」菘を見て湊は言った。
菘はなにも言わずに、にっこりと笑顔を湊に返した。
「でも、どうしてこれを僕にくれるの?」
「先輩が買った白い羽のお守りは千里にプレゼントするんですよね?」菘は言う。きっと、千里がそんなようなことを菘に言ったのだとは思うけど、菘は本当になんでもお見通しなんだな、と湊は思った。
「うん。そうだよ」と湊は言う。
「だから、そのお礼です。それと、お守りが千里の手に渡ってしまうと、柏葉先輩の分がなくなっちゃうから、その意味もあります」と菘は言った。
どうやら菘は千里だけではなくて、(出会ったばかりの)湊のことも、気にかけてくれているようだった。
きっと、菘は子供のころから、(頭の後ろつけているお面のヒーローみたいに)すごく優しい子なのだろうと湊は思った。
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