絶望に抗う子供達

オリジン

第1話

 ダダダダダダッ。

「山川がやられたぞッ!」

「おい!こっちにも弾薬よこせッ!」

「こっちも切れかけだッ!」

「クソッ!何でこんな世界になっちまったんだ!」

そう言いながら目標に向けて銃を乱射する男達の前には巨大な化け物がいた。巨大な8つの目をぎょろぎょろさせながら8つの足で爆走する10mを超える巨大な蜘蛛だ。その姿を妖怪を知る者が見れば土蜘蛛だと思っただろう。

「グギャアー!」

そう叫びながら土蜘蛛は男達に襲い掛かった。

「たった助け・・ギャアッ!」

「許し・・グエッ!」

「かっ母ちゃ・・ウワアアァ!」

「嫌、嫌だ・・ギャアアアアア!」

そう言いながらも男達は土蜘蛛に食われていった。

「クソッこの化け物め!くたばりやがれ!」

最後に残った男がそう叫んでランチャーの引き金を引いた。

男が放ったミサイルは寸分違わず土蜘蛛の横っ腹に突き刺さり爆炎を上げた。

「ギャアアアアア!」

土蜘蛛の叫び声が聞こえ仄かに温かい体液が降り注いだ。

「やったか?」

男が視線を外した次の瞬間、

「ギャオオオ!」

そう聞こえたかと思うと男は上から落ちてきた土蜘蛛に飲み込まれた。最後の獲物を食った土蜘蛛は自分の傷を忌々しそうに見てから、新たなる獲物を探して何処かへと去っていった。

 ここは魑魅魍魎の支配する世界、世界中の伝承の存在が現実に現れ人々を殺し続ける、そんな世界。今日も人は化け物と殺し合う。


「りゅうきおにーちゃん、おなかへったー。」

「すまないな、葵。最近補給に行けてないからな。今日の食料はこれだけだ。」

とある倉庫の中には十人ほどの子供がいた。大半は4、5歳ほどだが中には15歳ごろの少年少女も数人いた。

「それにしてもごめんな鈴。子供達の世話任せちまって。」

「いいよいいよ龍輝くん。それより龍輝君こそいつも食料集めありがとう!」

神垣龍輝と神楽鈴の幼じみコンビの二人が見つめあっていると、

「ケッ。仲がいいこって。さっさとくっついちまえよクソが!」

「そんなこと言わないの、清水。でも恋仲になっておいた方がいいとは私も思うわよ。」

清水優斗と御倉楓の二人がなかなかなコメントを入れた。

「にゃ、にゃにを言ってるの楓ちゃん!?」

「何テンパってんのよ鈴。今はこんな世界なんだし後悔のないようにしておいた方がいいわよ?」

「おい、お前ら何言って・・・」

「おい、龍輝。お前まさか枯れてるってことないよな?」

「なっ優斗!?何言ってんだお前!ちゃんと健全男子じゃボケエ!」

「いや、だったらすぐ抱けよ。このご時世いつ死ぬかわからないからな。つか、毎日毎日毎日んな初恋中学生カップルみたいにされてたらこっちが気になってくるんだよ!見せつけやがって!リア充爆ぜろ!クソが!」

「清水、お前なんかやさぐれてないか?」

「そりゃあいつまで経っても彼女できないことほぼ確定で友人が相性抜群のやついんのに一切何もしないの見たらこうもなるわっ!」

「はいはい、今はそこまで。それじゃあ食料探しに行くわよ。そろそろ切れそうだしね。」

「おう!」

「わかったよ!クソッタレ!」

そう言いながらも仲の良い三人は自分たちの住む倉庫から出ていった。

「頑張ってきてね〜!」

そんな鈴の声を聞きながら。


「はあはあ。」

龍輝は逃げていた。口が裂け、血を滴らせた草刈りを持った女から。それを見れば大抵の人は口裂け女を連想するだろう。

「まあああてえええええ!その首よこせえええええ!」

そう言いながら口裂け女は龍輝を殺すために爆走していた。

「クソッ死んでたまるかあああああ!」

そう言いながら龍輝も全身全霊で走っていた。

ことの始まりは十分前に遡る。龍輝達は食料を調達するために拠点から化物の蔓延る町に繰り出していった。そしてそれぞれ別々に分かれて食料を探した。龍輝は偶然発見した廃屋の屋内にべっこう飴が大量にあったためそれを袋に詰めれるだけ詰めて隠れ家に帰ろうと外に出た所で口裂け女とばったり会った。しばらく見つめあったのち、

「すいませんでしたああああ!お邪魔しましたあああああ!」

龍輝は口裂け女が来た方向とは反対の方向に爆走した。口裂け女は少年の持った袋から落ちたべっこう飴を見て一言。

「コロスッッ!」

そう言って龍輝に向かって走り出した。そして今に至る。

そうやって龍輝と口裂け女の必死の追いかけっこがしばらく続いた後、龍輝は血の水溜まりの広がった場所に出た。そこには様々な武器が散らばっていた。

「やるしかねえッッ!」

そう言って龍輝は近くにあったアサルトライフルを構えた。

「追いついたぞおおおおおお!」

そう言って口裂け女が角から飛び出した所で、

「うおおおおおおお!」

そう叫びながら口裂け女に銃弾を乱射した。

ダダダダダダッ。

「ギャアアアアア!」

弾丸は口裂け女を襲い全身に穴を開けた。

「や、やったか?」

龍輝が口裂け女を見ると、

「この程度で死ぬかあああああ!」

そう言って口裂け女が起き上がってきた。傷口はすでに塞がっていた。それを見た龍輝は

「うっそだろ!こいつ不死身かよ!?」

そう言って近くにあったグレネードを投げまくった。

ドゴオオン!

「ギャアアアアア!」

口裂け女は爆発に巻き込まれ、綺麗な放物線を描いて空を舞った。

「今度こそ死んだだろ。」

煙が晴れるとそこにはッッ、なんだか色々ボロボロになった口裂け女が立っていた。

「しっ死ぬ!だがッッこの程度ではッッ死なないいいいいッッ!」

それを見た龍輝は、

「くぁwせdrftgtyふじこlp!?」

ムンクの叫びのような顔をして、言葉にならない叫び声を上げながらミサイルランチャーをぶっ放した。そして発射された大量の誘導ミサイルが口裂け女に殺到した。

プシュ!ヒュウウウウウウ‥‥ドガアアアアン!

「ちょっちょっとまっ‥グギャアアアアアア!」

全弾口裂け女に直撃し、口裂け女は空中に打ち上げられ、少し離れたところにボトッと落ちた。

「これで死なないとおかしいぞ!?」

そう言いながら龍輝は落ちてきた口裂け女を確認しにいった。口裂け女はもはや布切れと化した服を辛うじて着た状態でピクピクと痙攣しながら倒れていた。龍輝が死んでいるかどうか棒で突いて確認しようとすると、

「‥すみ‥‥‥した」

と言う声が聞こえた。

「え?」

「殺しに行ってすいませんでしたああああああ!許してくださいいいいいい!そして殺さないでくださいいいいい!」

「え、えええええ!?」

口裂け女が急に立ち上がったかと思うとがほぼ全裸で土下座しながら謝ってきたため、龍輝は驚いて叫び声を上げた。

「え、えっととりあえず顔を上げてくれ!」

「ッ!はいっ!わかりました!」

そう言ってぎりぎり隠せている状態の布切れを着た口裂け女が居住まいを正した。

「えっと、まず質問だがお前はさっき俺がぶちのめした口裂け女なのか?」

「はい!私がさっきあなたに殺されかけた口裂け女の白坂桜です!」

「お、おう。お前らって名前あったんだな。」

「そりゃあ名前なんて誰にでもありますよ。」

「質問がある。」

「はい。何でしょう?」

「お前らって一体なんなんだ?」

「それについてですか。私達はもともと人々の伝承の中に生きる存在だったんです。私たちは世界の様々な場所に存在していて、一部の力ある存在や特殊な存在を除いて決して現実世界に干渉することはできなかったんですよ。しかし、ある時声が響いたんです。」

「はっ?声?」

「はい、声です。その声はこう言ったんです。『我は邪なる神であり外なる神でもあるディスクラディエスである。其方らにこれより使命を与える。人類を殲滅せよ。達成した者の願いはいかなる願いでも叶えよう。』その声が聞こえた後に伝承の存在は殲滅派、静観派、共存派の三派に分かれて争ったんですよ。ちなみに私は共存派に所属していました。そうして争いを始めてしばらくするとまた声が聞こえたんです。『愚かなる者どもよ。其方らには幻滅した。罰としてそなたらの自我を上書きする。敵対者として人類と永久に戦い続けるが良い。』そうして私達は人類の敵対者になったんです。そして私はあなたにこれでもかと言うほどボコボコにされて何故か正気を取り戻したと言うわけなんです。」

「なるほど。まあこれ以降の質問は拠点に戻ってからにしよう。そういえばお前運転はできるか?」

「ええ、一応できますけど、どうしてですか?」

「ここにある武器を拠点に持って帰ろうと思ってな。後緊急時の防御手段と移動手段は持っておいた方がいい。」

「なるほど!それだったら明日私の住居にいきましょう!詳しいことは秘密ですが現状の打開策になるかもしれません!」

そうして龍輝と桜は周囲に散らばった武器や携帯食料、医療機器、その他諸々をトラックに積み込めるだけ積み込んでから拠点に向かって移動し出した。


龍輝が拠点に戻った時には夕方になりかけていた。

「ここが俺たちの拠点だ。」

そう言って龍輝が桜に見せたのは破棄された工場だった。

「ここ、まだ動くんですか?」

「ああ、電気も自家発電していたらしくてな。今もその設備が生きているんだ。だからチビ達も暮らせてる。」

「えっ子供がいるんですか?」

「ああ、と言っても俺たちの子供じゃなくて俺たちの保護者達が守った子供だけれどな。」

「そうなんですか。」

そう話しながら龍輝は近くにあった電話からどこかに話しかけた。

「おう、俺だ。龍輝だ。今帰った。」

「龍輝くううん!龍輝君のこと思うと鈴は鈴はあああ!」

「ちょっおい鈴うるさい!泣くな!」

「優斗はデリカシーが無いわね。お帰りなさい龍輝。それで?何かあったの?」

「大量の武器や食料、医療器具なんかを確保できた。」

「それ本当?」

「おう、マジだぞ!」

「すごいじゃない!これでしばらくは食糧の心配も要らなそうね。」

「後客人を1人連れてきた。」

「客人?どんな方なの?」

「とびっきりのだ。驚くなよ?」

そう言いながら龍輝はシャッターが開くのを待った。それからしばらくするとシャッターが開かれたため、桜に指示してトラックを工場の中に入れた。

「りゅうにいちゃんおかえり〜」

「おう葵、帰ったぞ!」

そう言って走ってきた葵を龍輝は抱き上げた。

そして葵を追ってきたのか、楓が走りながらやってきた。

「おかえりなさい、龍輝。それにしてもどうしたの?こんなに遅くに帰ってくるなんて。何かあったの?」

「ああ、それは後で話す。」

「それと気になったんだけどそのトラックの中にいるマスクをした女性は誰なの?」

「それも後で話すから取り敢えずトラックの中にあるものを下ろすの手伝ってくれ。」

「まあ良いわ、それじゃあ二人を呼んでくるわね。」

そう言って楓は葵を連れて鈴と優斗の二人を呼びに行った。

しばらくすると楓が大泣きしている鈴とめんどくさそうに鈴をあやしている優斗を伴ってやってきた。

「りゅうぎぐううううんおがえりいいいいいい!」

「チョッ、うるせえぞ鈴!龍輝!このめんどくせえのをなんとかしてくれ!」

「おう、鈴、優斗、ただいまだ!」

そういって龍輝は手を降った。

「それで?龍輝、こんな遅くまで何やってたんだ?」

「それは今から説明する。ちょうど年少組もいないことだしな。おーい、桜ちょっと来てくれ。」

そういって龍輝は桜を呼んだ。

桜は車から降りて龍輝たちの前へやってきた。そしてマスクを外していった。

「始めまして、私は口裂け女の白坂桜と申します。どうぞよろしくおねがいします。」

その姿を見た次の瞬間、三人は緊急用の武器を構えた。

「ちょっと、龍輝!?あなたなんてもの連れてきたの!」

「鈴!楓!ここは俺が相手する先に逃げろ!」

「龍輝くん!死ぬなら一緒に‥‥‥」

などパニックに陥ったため、龍輝は手を上げながら

「あ〜、三人共落ち着け。」

「何?龍輝?あなたこの状況で落ち着けっていうの?化け物が目の前にいる状況で?」

「化け物‥‥私が化け物‥‥‥」

そう言って落ち込みだした桜を無視して龍輝はいった。

「それじゃあなんでその化け物が今の今まで襲ってこないんだ?あってから結構時間が経ったぞ?」

「「「あっ」」」

それから落ち着きを取り戻した楓が聞いた。

「うん。私が悪かったわ、龍輝。それで?貴方、その子に何をしたの?」

そう聞かれたため龍輝はこれまでにあったことを話した。

それを聞いて楓はため息を吐きながら言った。

「はあ〜。龍輝、貴方ね。なんでその状況でそんなに動けるのよ。私達だったら普通に死んでいるわよ。」

「そうだぞ、龍輝!俺もそんな事できねえよ。つかおまえどのぐらいの速度で何分ぐらい走ってたんだよ。」

「う〜ん、あの時は時間間隔が抜け落ちてたからな〜。」

「私の自我は薄くなっていましたけど存在はしていたので興味を持って測っていましたけど大体一時間位でしたね。更に言うと私の走りでの最高速度は一二〇ほどですね。」

「化け物じゃねえか。」

「それを言うと人間なのに彼女相手に一時間以上逃げ回れる龍輝は更に化け物だけれどね。」

「そうだな、こいついつから人間やめたんだ?どう考えてもおかしくないか?」

「そうですね。今考えると完全に人間としての領域を完全に逸脱しています。明らかに私達の領域に踏み込んでますね。」

「龍輝くん?なにか心当たりない?」

「心当たりか?あるとすれば前に腹が減ったから空にいた龍っぽいやつから落ちてきた肉を食ったとか、川にいた不気味な人魚っぽいやつの肉を食ったとか、のどが渇いたから山にいた燃える鳥っぽいやつの血を飲んだとか、空から落ちてきた七色の水を飲んだとかしかないぞ。」

「それだね。」

「確実にそれね。」

「絶対にそれですね。」

「つか、龍輝。お前よくそんなもん食ったり飲んだりしたなあ。」

そう言れたため、龍輝は不満そうな顔をしていった。

「あのなあ、高々そんなもん食ったり飲んだりした程度で人外になるわけねえだろ。」

「いえ、龍輝さん貴方は大きな勘違いをしていそうなのでよく聞いてください。私達は伝承が形を取った存在です。そして様々な伝承に基づいた様々な個体がいますがどれもに言えることは一つ。それは伝承に基づいた存在であると言うことです。そのため、食べたり飲んだりに冠する伝承があればそれと同等の効果を得ることができるわけです。私は一度ある幻獣の肉を食べたため不死となっています。が、龍輝さんのそれは私とは比較になりません。良いですか?龍輝さんの食べたものの効果を説明しますよ?まず龍ですが、竜の血肉には膨大な霊力が宿っています。そのためその尿を飲むだけで仙人になるという効能があるほどに。そんな存在の血肉を食らったんですから効果は想像を絶しています。私もそれだけでどこまで強化されるかわかりません。次に人魚ですが人魚の肉には食べたものを不老不死にする効果があります。それを食べたということは龍輝さんはおそらく不老不死になっています。更に燃える鳥ですがおそらくこれは不死鳥です。不死鳥の血には飲んだ者を不死にする効果があります。竜の血肉に人魚の肉、不死鳥の血、こんなもの食べたら普通に肉体が変質します。おそらく龍輝さんはこれを食べた時点で天仙の領域まで至っているでしょう。最後に七色の水ですがこれは推測でしか有りませんがそれは神界の物体だと思われます。詳しいことはわかりませんがこれだけはいえます。絶対ヤバイと。神界は外神が影響を与える前からあなた方の世界に影響を与えることができましたから。そんなものを飲んだらどんなことになるか想像すらできませんよ。」

そう言われたため龍輝は驚いて言った。

「うそだろ!?」

「いえ、本当です。というかそんな物を一つでも食べた人、私は数人しか知りませんよ?最後のに至っては論外です。普通一生の内で見ることすらできませんからね?そこのところよく覚えておいてください。というかそれで人生の幸運使い切ったと考えてください。」

「マジか。」

「ええ、マジです。」

そう言って見つめ合う二人に禍々しいオーラを立ち上らせた鈴がやってきた。

「りゅーうーきーくーん?」

「な、なんだ?鈴?どうして起こってるんだ?」

「ちょっと鈴?貴方から何か禍々しいオーラが立ち上ってるんだけど?」

「えー?なんでかってー?だってー、龍輝くんがー、全く知らない人とー、見つめ合ってるんだからねー、怒らないほうがおかしいよねー?」

「ちょちょっと待て鈴。ちょっと落ち着け。」

「そうよ、鈴!落ち着きなさい!」

「つか、こいつもなにかヤバイもん食ったんじゃねえか?」

「あははーそんなものはー、一回しかないよー?」

「まあ、そんな訳‥‥って、あるかよ!?」

「何を食べたの、鈴!教えなさい!」

「何食った鈴!ホントに何食った!」

「えっとねー、数ヶ月前に少し散歩した時に禍々しい黒い木になってた黒いナニカ?食べようとしたら死ねー、殺せーとか聞こえたけどねー、ムカついたからガブッと一口で食べたんだよねー。その後からたまに殺せーとか滅ぼせーとか聞こえるようになったけどねー。あははー。おかしいねー?」

「やべえ、こいつ頭おかしいモン食ってやがる。」

「鈴、貴方どこか病んでない?いえ、確実に病んでるわね。普通はそんな物あっても食べないから。」

「おい、鈴、今度精神診断しような?異常がないか見てやるから。」

「多分それクトゥルフ神話か何かに由来するものですね。そんな物食べているとかこの人も人間やめてますね。確実に。というかそれ多分極度の精神汚染が起こると思うんですけどなんでこの人無事なんでしょう?不思議です。」

「まあそれはそれとしてー、龍輝くーん?私じゃ不満なのー?というか、いつになったら抱いてくれるのー?」

それを聞いて龍輝が吹き出した。

「ちょっ、おま、鈴、気にしないようにしてたのにいきなり言うなや。おい。」

「だってー、こんな長い間一緒にいるのにー、一向に手を出してこないんだからー。バカー、アホー、ヘタレー。」

「ヘタレ言うなや。」

「ヘタレをヘタレッて言って何が悪いの?」

「ウッ、正論で言い返せない。」

「そもそもさー、こんな世界が状況でー、好きな人とー、結ばれずにー、死ぬっていうのもねー、嫌なんだよねー、だったらさー、ここでー、龍輝くんをー、捕まえてー、無理矢理やっちゃった方が良いよねー?」

そう鈴が言ったかと思うと鈴が放出していたオーラーが龍輝に襲いかかってきた!

「うおっ!?やべえ!」

「ちょっと鈴!?貴方何やってるの!龍輝を殺す気!?」

「うん、龍輝くん私のものになるんだったらわたし何でもするよ?優斗くん、楓ちゃん、ジャマシナイデネ?」

「やべえ、こいつも完全に人間やめてやがる。」

「鈴ってヤンデレの気質あったけど今になってそれが開花したのね。」

「龍輝さん、冥福をお祈りします。」

「お前ら俺に対して冷たくないか!?後優斗!お前後で覚えてろ!」

「なんで俺だけだよ!」

「みんな?邪魔しちゃダメダヨ?」

「「「アッ、ハイ。」」」

「裏切り者おおおおおおお!」

そう言いながら龍輝は素手で鈴の攻撃を捌いていった。

「よっしゃ、これならなんとな‥‥」

「油断大敵だよ?龍輝くんっ!」

「えっ?」

そう言われたため龍輝が足元を見ると自分の足に黒い何かが巻き付いていた。

「龍輝くーん、こっちに来てねー?」

「うおおおおおお!」

そうして龍輝は黒い何かを纏った鈴に引きずられてどこかに連れて行かれた。

「えーっと、あれ助けなくてよかったんですかね?」

「まあ大丈夫だろ。鈴は龍輝大好きだけど殺したりはしないだろうし。」

「そうね、下手に関わると私達の身の安全が脅かされるわ。それじゃあ二人が帰ってくるまで龍輝が持って帰ってきたものの整理でもしてましょう。」

「そうだな。気にしても無駄だろうし。」

「それもそうですね。」

そう言って三人は龍輝と桜が持って帰ってくるまで車の中のものの整理を始めた。

「これ全部かなり高性能な物だぞ。弾薬も質がいい。」

「これは高品質の携帯食料ね!しかもこんなに沢山!それに肉に魚に野菜も!これで小さい子達がたくさん食べられるわ。」

「それ以外にも日用雑貨が山程ありますね。」

そうやって整理を続けていると、

「只今〜いやー良かったよー。」

「優斗、楓、桜、ただいま。死にそう。」

ヤケに肌がつやつやした鈴と今にも死にそうな程げっそりとした龍輝が帰ってきた。

ちなみにオーラは出ていなかった。

「どうだったんだ鈴?ちゃんとやったのか?」

「うん、優斗くん!龍輝くんが最初は逃げようとしたんだけどオーラで押さえつけて無理やりね?」

「あー、わかったわ。龍輝、おつかれ。」

「優斗、そう言うぐらいなら俺と変わってくれ。死にそう。」

「えっと、なにがあったんだ?」

「こっちがもうでないって言ってるのにオーラとか色々使って強制的に絞りよってくるんだ。それと鈴は妊娠した!!」

「どういうことだよ!?つかなんでこんな短時間で分かんだよ!」

「こいつ、自由自在に様々な事象を操る能力を持っているらしくてな。色々な事象に干渉して可能性を改変して強制的に妊娠しやがった!!」

「あー、色々言いたいことあるが取り敢えずおめでとう、鈴。」

「私からも、おめでとうね、鈴。」

「ありがとう!優斗くん!楓ちゃん!」

「私からも言わせてください。おめでとうございます、龍輝さん、鈴さん、末長くお幸せにお過ごしください。」

「ありがとう!桜さん!」

「ありがとなっ!桜!」

「後、この子一週間くらいで生まれさせることもできるけどどうする?」

「ファッ?」

「こいつ何言ってんだ?」

「どういうこと?鈴?説明しなさい!」

「私も気になります。説明お願いします、鈴さん。」

「えっ、だってそんなの時に干渉すれば簡単だよ?」

それを聞いて四人は頭を抱えた。

「やべえ、こいつ人外街道爆走してやがる。」

「龍輝も大概だけどこの子もやばいわね。」

「鈴、お前どこに行こうとしてるんだ?」

「確実に神の領域に片足踏み入れてますね。この人。」

「えへへ、そんなに褒められると照れるよ〜。」

「「「「褒めてないから」」」」

「うん?おーい、チビどもが腹すかした顔してこちらを見てるぞ〜。さっさと片付けねえとやばいんじゃねえか?」

鈴に対して頭を抱えていた龍輝にそう言われたため、扉の方を見ると子供達がジーッと五人を見ていた。

楓はそれを見て言った。

「それもそうね、よしっ!それじゃあさっさと整理するわよ!」

そう楓が言ったため龍輝達は大量の物資を整理して倉庫に持って行った。そして大量の食料を使って豪華な料理を用意して久々に全員が満腹になるまで食べた。そして風呂に入って寝た。全員が久々に満足に寝れた日だった。


次の日、少しお腹の大きくなった鈴を連れて五人は車で桜の家を目指していた。

「桜さんって龍騎と会うまでどうやって生活していたの?」

「そうですね、起きたら着替えて街に出て獲物を探して彷徨い歩く。獲物を見つけたら追い回して殺す。獲物が見つからなかったら八時ごろに帰ってご飯食べて寝る。そのサイクルを延々と繰り返してましたね。」

「ひどいよお、この人思っていたよりもひどい生活送っていたよお。」

「ある意味俺たちよりひどい生活送ってなかったか?」

「食料はどうしてたんですか?」

「えっ?それは殺した獲物を料理して食べてましたよ?」

「半端ねえな。」

「俺もどうやってもその生活は送りたくねえよ。」

「私も同じね。」

そうやって話しているうちに龍輝達は龍騎が桜と出会った廃屋に来ていた。

「ここが桜さんが住んでた廃屋?どう見ても心霊スポットじゃ無い!」

「つかよくこんなところ探索しようと思ったな、龍輝。」

「龍輝くん幽霊出そうで怖いよ〜。」

「俺は幽霊より鈴の方が怖‥‥グギャア!?」

「リューウーキークーン?今なんて言ったの〜?私が幽霊より怖いわけないじゃ無い〜?」

「いや、お前はある意味幽霊よりヤバ‥‥ブゲッ!?」

「OK龍輝くんあちらでお話ししようか?それじゃちょっと行ってくるね〜。」

そう言って鈴はオーラを出して龍輝を引きずって行った。

しばらくすると奥から「龍輝くん怖く無いからこちらへおいで〜?」だの「いや、お前明らかに殺す気じゃねえか!今オーラが壁に突き刺さったし!おまえは一体どこに向かってるんだよ!」だの「捕まえた〜。さあ覚悟してね〜。」だの「覚悟って何するつもりだっ!?アッそこは、ちょっ待っ、あああああ!」だの聞こえてきたが頑張って無視した。

「鈴のやつ加速度的に病んでいってないか?」

「私もそう思うわ。龍輝死なないかしら?」

「私は完全に人間やめてる二人からどのような子供が生まれるかも気になるところですね。」

そうやってしばらく話しているとやけにツヤツヤした鈴とげっそりして今にも倒れそうな龍輝が戻ってきた。

「も、戻った。俺は生きてるぞおおおお!」

「いやお前らの中で何があったんだよ!」

「それはな、奥に連れて行かれた後にボコボコにされてオーラで作ったくらい部屋に連れて行かれたんだ。そこは時間が外より百倍早く経過するらしくてな。そこで色々やられた後にこいつ自分を吸血鬼化して俺の血を飲んだんだよ!もうやだよ!」

「お腹の中の子供はどうしたの?鈴?」

「ああそれは進む時間を通常と同じ速度にしてたから大丈夫だよ。楓ちゃん。」

「こいつヤンデレとしての度合いがかなりやばくなってないか?」

「それよりも鈴さん。聞き逃せない言葉があったんですけど?自分を吸血鬼化して龍輝さんの血を飲んだって本当ですか?龍輝さんの血肉は龍に近くなっているので何らかの効能があるはずですが、何か体に変化はありませんか?」

「あはは全部ホントだよ〜?後体に変化はないかな〜?」

「鈴、あなた少し考えなさい。自分の体のこととか龍輝のこととか。」

「考えとく〜。」

「はあ、これは治りそうに無いわね。」

「そういえば龍輝、お前どんだけの量血ぃ吸われたんだ?」

「バケツ一杯以上吸われたよ。」

「鈴う!お前どんだけ飲んでんだよ!龍輝を殺す気か!」

「えへへ〜。いつかお肉も食べたいな〜。」

「おいいい!鈴!?嘘だよな?嘘だと言ってくれええええ!」

そうやって話しながら廃屋を進んでいくといつの間にかまだ真新しい様に見える部屋にいた。

「ここは一体?」

そう言って四人が周りを見渡していると桜が壁に近づいていった。そして壁をスライドさせるとやけにメカメカしい物体が出てきた。それを桜が迷いなく操作していき、しばらくすると操作を終えたのか桜が壁から離れた。そして壁が立体的に動き出した。そしてしばらくすると通路が現れた。そして五人が中へ入っていくと扉が自動的に閉まった。

「ようこそ。私の隠れ家へ。」

そう桜がいうと照明がついた。よく見るとそこはSF感が漂う場所だった。

「えっと‥‥ここは?」

「確か、何かの物語で出てきた宇宙戦艦の残骸だったはずですけど。」

「おい待て。宇宙戦艦って。」

「あ、宇宙移動用の動力機関が完全に死んでるので恒星間移動などはできませんよ。エネルギー源であるジェネレーターや自動整備などの機能は生きているのでそれ以外の設備などは大丈夫ですけどね。さらに言うとさっき通ったのはゲートで基地からはかなり離れていますよ?」

「凄い所だなここは。それで?なんでここに連れてきたんだ?」

「ここでは食糧から兵器まであらゆるものが自動的に生産されています。これを飛ばして拠点にすれば子供達の安全を守ったり学校よりも高度な教育を受けさせられるかと思ったので。」

「なるほど、それは良いわね。それで?私たちは何をすれば良いの?」

「皆さんにはこの船の警護を依頼したいと思います。」

「はっ?警護?」

「そうです。今からこの船で生産されている中でも最高の装備をお渡しします。その装備を使ってあなた達の倉庫まで移動する間の護送をお願いしたいんです。」

「そもそも動くのか?これ。」

「先ほど言ったように宇宙移動用の動力機関は完全に死んでいますが、地上を移動するための機関は生きているので大丈夫です。定期的にメンテナンスも行っていますしね。」

「そうだな、どうする皆?」

「いいんじゃない?引き受けてもこちらに損は無いんだし。」

「俺もそう思う。」

「私は龍輝くんがいいんだったらどんなことでも大丈夫だよ。」

「ありがとうございます。皆さん。皆さん個人に最も合う戦闘用品を用意します。そのために身体スキャンなどの様々な検査をするのでこちらにきてください。」

そう桜に言われて連れて行かれた先で地獄のような計測を行った。

後に優斗はこう語った。

「あれは地獄だった。龍輝と鈴は分かってたけど楓も十分人外だった。俺はもう二度とあの地獄を経験したく無い。というか三人はどうしてあれを普段から行いたいと思ったんだろう。そこに狂気を感じた。」と。

そうして計測をした結果優斗は総合型強化スーツと同じく総合型強化外骨格、総合型アシストツール、レーザーキャノン、サブでレーザーブレードを、楓は刀剣戦闘特化型強化スーツ『神通』と刀剣アシストツール『久遠』、日本刀型超高周波ブレード『神断』を、鈴は特殊能力特化型スーツ『イリガール』に特殊能力アシストツール『ネオ』、携帯型レーザーガンを、そして龍輝には総合型超強化スーツ『イリア』、対神型外骨格『デウスエクスマキナ』、対神用アシストツール『アポトーシス』、対伝承存在専用武器『アーク』、対龍用決戦兵器『龍滅刃』、対神用最終兵器『ラグナロク』を装備した。

全員が装着した装備を見て

「いや、なんか俺だけしょぼくね?」

と優斗が言った。

そして自分達の装備について話し合っていると、サクラから通信が届いた。

「装着しましたね?それでは、これより戦艦『ティータン』の発進を管理AIに申請します。総員アシストツールの誘導に従って待機場所についてください。」

「ちょっとー、桜さーん?」

「はい、なんですか?優斗さん?」

「なんか俺の装備だけ三人に比べてしょぼい気がするんですけど。」

「そうですか?データを確認します。‥‥すいません、優斗さん、あなたの装備がしょぼいのではなくて他の三人の装備が異常なだけです。楓さんの装備は刀剣類の扱いに異常な適性を持ち、尚且つ身体能力が一定以上の場合にのみ装備できる特殊装備です。鈴さんの装備は特殊能力値が一定以上の存在のみが装備できる異能装備です。そして龍輝さんの装備ですが‥‥これはあらゆる面において人外級の素質を持ち、尚且つ神を殺す因子を持った存在のみが装備できる。最終兵器の様です。これ全部人間逸脱してないと無理なレベルの装備ですね。因みに優斗さんのも身体能力が優秀な者のみ装備可能な物なので決してしょぼくありません。」

「楓えええええ!お前は仲間だと思ってたのにお前も人外枠かよおおおおお!」

「私そんなに異常かしら?」

「それじゃあ聞くけどよお。お前百メートルどんぐらいで走れるんだ?」

「そうね、四秒くらいかしら?」

「完全に人間やめてるじゃねえかよおおおお!」

「そんなに異常か?俺十歳の時に二百メートルを三秒で走り切ってたんだが。」

「私も龍輝くんほどじゃないけど百メートル六秒くらいで走り切ってたよ?」

「お前ら完全に人間やめてるだろおおおおおおおお!なんなんだよおおおおおお前らあああああ!」

「「「普通の人間だけど?」」」

「お前らみたいなのが普通にいてたまるかあああああ!」

「優斗さん、私も同意します。この人達人間やめてますよ完全に。」

そうしている内に周りのスピーカーから声が聞こえてきた。

「機体のスキャン完了。機体のスキャン完了。これより発進する五・四・三・二・発進!」

そう聞こえたかと思うと機体が動き出した。

「桜、こっから俺たちの倉庫までどんぐらい掛かるんだ?」

「そうですね。大体一時間ぐらいかと。」

「そんなに時間掛けて大丈夫なのか?」

「今から座標を指定した後でゲートを開けて倉庫にいる皆さんをお連れしようと思ってたんですが‥‥」

「警告、警告、進路上二五キロメートル先に巨大なエネルギー反応が突如出現。進行を一時中断する。総員戦闘準備せよ。繰り返す、総員戦闘準備せよ。」

「どうした!一体何があったんだ?」

「前方に突如エネルギー反応が確認されました。今詳細を確認します。ッッ!これは!皆さん!戦闘に備えてください!出現したのはダンタリオン!七十二柱の魔神の一柱です!心を操り、幻を見せてきます!またあらゆる学術にも精通している他、格闘術にも精通している化け物です!気をつけてください!」

それを聞いた龍輝達四人は大急ぎで船内を移動した。

「桜!会敵まであとどれくらいかかるんだ!」

「あとも五分もかかりません!」

「こっから船の先端までどれくらいかる!」

「一分ほどです!」

「それじゃあこっちが着くまで砲撃で牽制してくれっ!」

「分かりました!みなさん気をつけてください!」

そうやって会話をした後龍輝達は全速力で船内を駆け抜け、看板に到達した。

「よしっ!それじゃあ戦闘開始だ!」

そう言って龍輝達は看板から空中に飛び出した。

「すげえなこれ!どうなってるんだ?」

「私も詳しいことは知りませんが今はどうでも良いです!戦闘の邪魔をしないためにこれから砲撃を中止します!そうすると急速にこちらに向かってくるはずです!急いで下さい!」

「おう!」

そうやって会話をした後、龍輝達はダンタリオンの元へ一直線に駆け出した。


そうしてしばらく移動すると一人の男が宙に浮いていた。その男は貴族の様な服を着ていた。

「お前がダンタリオンか?」

「いかにも。我が其方らを殺すために送られた刺客にして、七十二柱の魔神が一柱であるダンタリオンである。命を差し出せば其方らの守護する子羊には手を出さぬと誓うが其方らの返答は?」

「なんでチビどもについて知っているんだ!」

「それは我が全知の存在だからである。」

「まあ良い、お前を殺せばこのクソッタレな世の中も少しはマシになるだろうからな。殺させてもらう!」

「やれる者ならばやってみるが良い!狂った神に運命を狂わされた哀れな子羊達よ!」

そう言って龍輝達とダンタリオンは激突した。

「オラアッ!」

パシ。

「ッッ!」

龍騎の人外の域に達した一撃をダンタリオンは易々と受けた。

「ほう!なかなかに鋭い一撃だな!」

「片手で受け止めてるくせによくゆうぜクソッタレ!」

そうやって龍輝が連撃を繰り出していると不意にダンタリオンの声が横から聞こえた。

「我は此処だぞ?」

「ッッ!?」

龍輝が驚いて横を向くとダンタリオンが初めて一撃を繰り出してきた。

ドゴンッ!

「グッ!」

「ほう!我の一撃を受けて倒れぬとは!これは久方ぶりの楽しい時間になりそうだな!」

そう言ってダンタリオンは龍輝に次々と攻撃を繰り出してきた。

「龍輝!不味い、援護するわよ二人とも!」

「うん!」

「おう!」

そう言って三人が龍輝の援護に入ろうとすると、

「久方ぶりの心躍る戦いに無粋な邪魔を入れるでは無いわっ!」

そうダンタリオンが言ったかと思うと無数の化物が三人の前に現れた。

「突っ切るぞ!」

そう言って優斗が突っ込もうとしたところに魔獣が手を振りかぶった。

「ッ!不味い!」

そう言って楓が優斗を追い越すのと同時に魔獣の腕を叩き切った。

ザシュッ!

「グギャアアアッッ!」

そう魔獣が叫び声を上げると血飛沫が噴き出した。その血飛沫がついた場所からは強い酸性の匂いが漂った。

「どう言うことだっ!あれは幻覚じゃ無いのか?」

「いいえ、あれは本物よ。ただしアイツが召喚したね。」

「どう言うことだ?」

「おそらくアイツは世界にゲートを開いて膨大な数の魔獣を無限に召喚したのよ。」

「それじゃあこう言うことか?龍輝がダンタリオンを倒すまで俺たちは無限に湧き出す魔獣を倒さないといけないってことか?」

「ええ、そう言うことよ。」

そうやって話している内に膨大な数の魔獣達が一斉に三人に襲いかかってきた。


一方、龍輝とダンタリオンの一騎打ちは加速度的に激しくなっていっていた。

ドガッ!バギッ!ボク!ドゴンッ!

「オラアアアアアッッ!」

「どうした?少年よ!攻撃のキレが無くなってきているぞ?」

「クソがあああああああ!」

そう言って龍輝が攻撃を繰り出し続けるものの超常の武術を持つダンタリオンはまるで子供の相手をするかの様に龍輝の攻撃をいなしていた。

「ここまで我の攻撃を耐えられる者はこれまでいなかった!誇れ!人間!すでに其方は並の悪魔以上につ強いぞ!」

「そうですか。それはありがとうございます喰らえボケエエ!」

ドガアアアアン!

「グッ!?」

それは初めて龍輝の攻撃がダンタリオンに命中した瞬間だった。

「ゴフッ!く、クハハハハハッ!まさか!まさか我に人が一撃を喰らわせようとは!誇れ人間!其方は我に攻撃を喰らわせた最初の人間だ!」

「ああ誇るぞ。お前を倒してからなあ!」

「来るがいい。我の全力を持って相手してやろう!」

そうして二人の戦闘はさらに加速していった。


 ザシュッ!

「はあはあ、これで何体目かしら?」

ジュッジュッ、ジュバッッ!

「さあな?そういえば鈴はどこに行ったんだ?」

「さあ、どこかしらね!」

そう言って優斗と楓が満身創痍の体を動かしながらも魔獣を倒していると、不意に魔獣の動きが止まった。

「ッ?」

「これは‥どう言うことかしら?」

そう言って二人が周囲を見渡していると、

「もう大丈夫だよ、二人とも。」

何か神々しいオーラを出した鈴がいた。

「えっと‥‥鈴、よね?」

「そうだよ?楓ちゃん。」

「えっとあなた何やったの?」

「オーラの解放ができる様になったんだよ!」

「えっと今まで解放してなかったてことかしら?」

「うん!今まで漏れ出した僅かな量を制御していただけだったんだけど意図的にオーラを解放することができる様になったんだ!まだ一%分ぐらいだけどね。」

「えっ?これで、一%?」

「うん、そうだよ?」

「貴方、どこへ行く気なの?」

「楓ちゃん、どう言うこと?」

「何でも無いわ。それで?任せてしまって大丈夫なの?」

「うん!どんとこいだよ!」

「それじゃあお願いするわね、優斗!ここを離れるわよ!」

「どう言うことだよ!」

「多分ここにいると鈴の邪魔になるからよ!ほらっ!行くわよ!」 

「ちょっ、掴むな!」

そうして二人が離れていったのを見て鈴は意識を止まっている魔獣達に向けた。

「それじゃあ龍輝くんを助けるために、死んで?」

そう言ったかと思うと魔獣達が一斉に弾け飛んだ。

それを無視して鈴が進もうとするとまた魔獣達が湧き出してきた。

「早く龍輝君を助けに行きたいのに〜。全滅するまで殺し続ければいつかは出てこなくなるでしょ?」

そう言って鈴は笑うと魔獣達に向かって攻撃を繰り出した。


「ムッ?」

「はあはあ、どうしたんだ?」

「この気配は‥‥なぜ地上に?」

「どう言うことだ?」

「すまんな人間よ。其方との楽しい時間を急いで終わらせなければならなくなってしまった。」

「はあ?どう言うことだ?」

「其方が気にすることでは無い。ただ、これで終わらせるのも味気が悪い。そこでだ、人間よ。我の本気に耐えてみよ。十分間耐え切れたら仲間共々見逃してやろう!」

「どう言う風の吹き回しだ?」

「我の求めるものの気配がした故に。それで、受けるか?」

「このまま延々と戦っても俺が死ぬだけだよな。よっしゃ、受けてたってやる!」

「よしそれでは、死ぬなよ?」

「ッッ!」

バギッ!ボゴッ!ドガッ!ボグッ!ドガアアアアン!

「グッ、グウウウウッッ!」

ドスッ!バキッ!ボグッ!ドゴン!バガアアアアン!

「ハハハッ、良いぞ!少年よ!我の全身全霊の攻撃をここまで受けてくれるのは72柱を除いて其方のみだ!それでは褒美をくれてやるっ!食らうが良い!『幻魔無限掌』!!」

その瞬間無数の手が現れ龍輝に襲いかかった!

ドガガガガガガガガガガガガ‥‥

「うおおおおおおおおおお!」

ガガガガガガガガガガガガガ‥‥

「グハッ、グオオオオオッッ!」

ドガアアアアン!

「グアアアアアアア!」

龍輝は大地に叩きつけられそのまま血反吐を吐いて倒れた。

「やはりこれには耐えられなかったか‥‥強き戦士よ。ここで眠るが良い。」

そう言ってダンタリオンは鈴の方へと向かっていった。


「うん、ここは?」

気がつくと龍輝は全てが白い空間にいた。そして龍輝が周りを見渡すと目の前に白いフードを被った白い人型のナニカがいることに気づいた。龍輝が驚いているとナニカが話しかけてきた。

「君は力が欲しいかい?」

「どういうことだ?」

「あの悪魔に勝てる力が欲しいかと聞いているんだ。」

「どうしてそんなことを聞くんだ?」

「君はあの悪魔に殺されて死んだんだ。そこで僕が君にあの悪魔に勝てる力を与えて生き返らせてあげようと言っているんだよ。どうする?受けるかい?」

「いらん!すまんが断らせてもらう。」

「ほう、どうしてかな?」

「てめえみたいな怪しい奴からの力なんて誰が受け取るか!」

「怪しいやつか、ハハハッ!」

「何がおかしいんだよ。」

「いや、こんな風に断られることなんて初めてだったからね。」

「そうか、悪いな。」

「よしっ。僕を面白がらせたご褒美に君の封印を解いてあげよう。」

「はあ?どういうことだよ。」

「今は気にしなくていいさ。」

「嫌、気になるがな。」

「まあ、それじゃあね。」

「おいいいい!最後に聞かせろ!お前は誰だっ!」

「あははは!いつかまた会えるよ。その時にね〜」

「おい、まてええええ!」

「それじゃあね〜」

白い人がそう言うと次の瞬間龍輝は白い空間からいなくなった。


一方その頃

ドゴッ!バキッ!グサッ!ドスッ!

「我にその力を差し出せ!人間!その力は人間には過ぎた代物だ!」

「嫌だッ!それよりもそこをどけ!クソ悪魔!龍輝くんの治療をさせろ!」

「それならば、その力を我に差し出せ!そうすればあやつを蘇らせてやろう!」

「約束を守りそうにないからやだ!」

「そうか‥‥ならば力で奪い取るのみ!」

そう言いながらも鈴とダンタリオンの戦闘は周囲に甚大な被害を齎ながら続いていた。戦いの余波で山は砕かれ、海は割れ、大地は悲鳴を上げていた。

「ウッソだろおい!ダンタリオンってあんな化け物だったのかよ!」

「それと互角以上に渡り合っている鈴は更に化け物だけれどね!」

「クソッ!彼奴等周りのこと考えてねえ!このままじゃこの辺り一帯吹き飛ぶぞ!」

「そうは言っても戦闘は激化する一方だしどうすれば良いのかしら?」

「そうだな‥‥うん?なんだ?この気配は?」

「優斗?貴方って気配がわかるの?」

「ああ、いつも使ってるしな。それにしても何の気配だこれ?敵対するような意志は感じないし、ってゆうかこの位置って!」

「そうね、龍輝とダンタリオンが戦っていた場所ね。でもどうしてそこから気配がするのかしら?」

「さあ、でもどんどん強くなっていってないか?」

二人の視線の先では鈴とダンタリオンも争いの手を止めて気配の出処を探っていた。

「龍輝くん?」

「ふむ?なぜあの人間の気配がここでするのだ?やつは死んだのではないのか?」

「なんだろう?この気配は?龍輝くん以外にもう一つ気配が混じってる?」

そう鈴が言っているのに対してダンタリオンは非常に焦ったように声を上げた。

「なぜだ!なぜ奴の気配がする!奴は死んだのではないのか!」

「どういうこと?奴って誰なの?」

「貴様が知る必要はない!くそっ、これは皆に報告する必要があるぞ!」

そう言っている内に龍輝の体のあるはずの位置から光が漏れ出した。

「なんだろう?この光は?」

「これは龍の纏う霊力に似ている。だが、違う。一体これは何だっ!」

そう言っている内に光は段々と強くなっていき、一際輝いたかと思うと消えて無くなった。

「何だったんだ?今のは。」

「優斗!あれを見て!」

「何だ?一体‥ッッあれは!」

二人の視線の先には今まで見たこともない様な存在がいた。それは龍の角と龍の尾、不死鳥の羽、そして神々しいまでの光を放っていた。

「何なんだ!奴は一体何なんだ!」

ダンタリオンがそう叫んでいるとそれは空中に浮かんだ。そして気づいた時にはダンタリオンの目の前にいた。

「なっ、グオッ!」

次の瞬間、ダンタリオンはぶん殴られ遥か彼方へ吹き飛んでいった。

吹き飛んだダンタリオンを見ていたそれに鈴は驚いた様に声を上げた。

「龍輝くん?」

するとそれはおかしそうに笑って鈴に声をかけてきた。

「おう、鈴。ただいま。」

「龍輝くん、龍輝くん、龍輝くん。」

「龍輝?何があったの?と言うかその姿は何?」

「おう楓、それは後で話す。今はアイツをぶっ倒してくる。」

「いってらっしゃい龍輝くん。」

「おう、鈴、行ってくるな!」

そう言って龍輝はダンタリオンの飛ばされた方向に飛んで行った。

「はあー、後であの姿のこと聞かないとね。」

「そうだね、楓ちゃん。」

「龍輝くん勝てるかな?」

「勝つわよ、きっとね。」

そう言って二人は龍騎の飛んでいった方向に目を向けた。

その頃、ダンタリオンは衝撃を殺して何とか空中に浮いていた。

「はあはあ、何だったんだ?アイツは。」

そうして元の場所に移動しようとした。すると目の前に先程の化け物が現れた。

「何なんだ、お前は。」

「俺か、俺は龍輝だ。お前は?」

「そうか、では改めて名乗ろう。我はダンタリオン。七十二柱の魔神が一柱にして地獄の公爵であるダンタリオンだ。」

そうして二人は向き合った。

「それじゃあ、」

「では尋常に、」

「「勝負!」」

そう言って二人は激突した。

「オラアッッ!」

ドゴンッ!

「はああああッッ!」

バギッ!

ドゴン!バギ!ドガン!ボゴン!ボガアアン!

二人の攻防はこの世界で起きた戦闘の中でも最大級の戦闘だった。空は割れ、大地が吹き飛び、海は荒れ狂い、その余波で新たな火山が生まれた。

「はああああ!『龍撃掌』」

龍輝が膨大な量の霊気を腕に纏わせ、一気に放った。

「甘いわ!『魔神砲』」

龍輝の『龍撃星』に対抗する様にダンタリオンが放った『魔神砲』がぶつかり合った。それは触れ合うと同時に大爆発を起こし地上に巨大なクレーターを作り出した。

「どこだ?」

「ここだよ!オラアアアアア!」

「ッッ!」

ドガアアアアンッッ!

ダンタリオンが龍輝の気配を探ろうとした瞬間、龍輝はダンタリオンの目前に移動してダンタリオンをぶん殴った!ダンタリオンはそれをまともに受けて吹き飛ばされた。

「はあはあ、やったか?」

そうして龍輝がダンタリオンの飛ばされた方を見ていると、ダンタリオンがゆっくりと浮上してきた。そして警戒する龍輝に対してダンタリオンは声を上げて笑った。

「ふ、ふふ、フハハハハ!」

「どうした!何がおかしい!」

「ここまで楽しい時を過ごせたことに感謝しているのだよ。人間、いや、龍輝よ。お互いにそろそろ限界ではないか?」

「そうだな。」

「では、次で最後にしようではないか。こちらは全身全霊の一撃を繰り出す。其方も今出来る最高の一撃を繰り出すが良い!」

「おう、それじゃあ行くぞ。」

「こい!我に打ち勝ってみよ!」

そうして一拍置いたのち

「『龍神滅星』」

「『極魔神撃』」

そして二人は激突した。お互いの技が触れ合った瞬間、辺りは真っ白に染まった。


遠くからその様子を見ていた三人は嫌な予感を覚えて、大急ぎで龍輝の元へと向かっていった。そして三人が見たものは地面に倒れ伏した龍輝だった。

「龍輝くん!」

そう言って鈴が駆け寄った。

「おう、鈴か。」

「龍輝くん、大丈夫?」

「大丈夫じゃねえが、とりあえず生きてるぞ。」

そうやって話をしている内にふと前を見るとボロボロになったダンタリオンが立っていた。鈴が急いで龍輝を庇うように移動しようとするとダンタリオンは言った。

「よせ、我はもう其方らを害するつもりはない。」

「どう言うこと?」

「我が死ぬからだ。」

「だったら何で立ってるの?」

「この者と少し話しようと思ってな。」

「おう、何だ。」

「其方は我を打ち破った。これは紛れもない事実だ。これは賞賛に値する事だ。だが、これで終わりと思うな。我を倒したことはすぐに地獄に広まるだろう。そうすると我とは比較にすらならない化け物がお前を殺しにくるだろう。もしかすると外なる神が直接殺しにくるやもしれん。それを退ける覚悟があるかどうか。答えはいかに。」

「全てぶっ倒して守るに決まってるだろう。」

「それは辛く苦しい道のりになるぞ。それでもやろうと言うのか?」

「ああ、この命に賭けて。」

「その答えが聞きたかった!最後に忠告を送ろう。その女の持つ力に気をつけよ。それは単なる力ではない。世界を変える可能性を持った力だ。その者と共に歩むのならば常にそのことを心に留めておくが良い。では、さらばだ!」

そうダンタリオンが言うとダンタリオンの肉体が崩れ落ち塵と化した。

「ああ、俺の魂が果てるまで、その事を永遠に心にめておこう。」

龍輝はダンタリオンがいた虚空を見つめて言った。そうしてしばらく虚空を見つめていると二人を呼ぶ声が聞こえた。そちらを見ると空を飛ぶ船が見えた。

「これからどうなるんだろうな。」

「さあ、でも悪くはならないでしょ。」

「そうだな、それじゃあ行くか、みんなの所へ。」

そう言って二人は船へと進んでいった。


それから一週間ほど経ったある日、龍輝は船の医務室の前を行ったり来たりしていた。

「いや、龍輝、少し落ち着けよ。」

「うるせえ優斗、落ち着いてられるかあ。」

そう言って龍輝と優斗がギャアギャア言い合っていると医務室から鳴き声が聞こえてきた。

「鈴ッ!」

そう言って龍輝が医務室に飛び込むと赤ちゃんを抱いた鈴がいた。

「龍輝くん!生まれたよっ!」

「そうか、よかったああ〜。」

そう言って龍輝が床にへたり込むと鈴が言った。

「そういえば男の子だったけど名前どうする?」

「そうだな、新輝でどうだ。」

「新輝かあ、いいんじゃないかな。」

「よしっ、それじゃあこの子の名前は新輝だ!」

そう龍輝が言うと新輝はこれ以上ない笑顔で笑った。

ここは絶望が支配する世界、人が死に続ける死の世界、でも希望は確かにそこにある。

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絶望に抗う子供達 オリジン @aporicapusu

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