第5夜 ねことコンクリート
「今夜はずいぶんとたくさん集まっているね」
「ここの所雨続きだったけれど、今夜は久しぶりに晴れたものね。みんな退屈してたのよ」
「朗報!朗報!」
「なになに。どうしたの?」
「この空地のずっと先に平屋建ての建物が並んでるでしょ?」
「うん、あるね」
「知ってる知ってる。」
「日当たりのいい、縁側付きの家がたくさん並んでるよね」
「一番手前の家でね、今日の午後、お庭に穴掘って、あのねずみ色の泥を流し込んでた」
「それって、人間達が『コンクリート』って呼んでいるヤツだよね」
「あれはさ、カチコチに固まっちゃう少し前に踏むと面白いよね」
「そうそう、歩いた後の足跡がくっきりと残るんだよ」
「足が汚れちゃうのがちょっと嫌だけど。でも、足跡が残るのは面白いよね」
「足形ってさ、取っておくと良いらしいよ。うちにいる人間の赤ちゃんだって、足の裏に墨汁をぬられて、色紙に足跡を残してたよ。成長のしるしになるって、人間のとーちゃんが云ってた」
「それって絶対、僕たちも残した方が良いよね」
「うん、そうだよね」
「こんな機会はなかなか無いものね」
「あれ、きみは足の裏が汚れているね。もしかして」
「実はぼく、もうやってきちゃった」
「ええ!早いなあ」
「じゃあ、おれも家に帰る途中にその場所通るから『成長のシルシ』やろうかな」
「だけどみんな、足が汚れちゃうから、やった後はちゃんと洗った方がいいよ」
「分かった」
「了解」
「家の人はもう寝てるかもしれないから、あんまりうるさくしちゃいけないよ」
「大丈夫。静かにやるよ」
「早くしないとコンクリートが固まっちゃうだろうから、もう行こうと思う。今日は良い情報を聞けて本当に良かったよ。ありがとう」
「いやいや、気を付けてね。ああ、他の足跡と重ならないようにつけてね」
「分かった。任せて」
ねこたちの井戸端会議録 一之森 一悟朗 @obake_dr
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