第4夜 ねこと石油ストーブ
「今日は、みんなに知らせておきたいことがある」
「なになに?」
「珍しいね。かしこまって」
「飼い主が高齢の人間である場合には、特に気を付けてほしい」
「うちのばあちゃん、この前『米寿』っていうのでお祝いされてた」
「うちは、じいちゃんとおれだけで暮らしてるよ。じいちゃん、最近は耳が遠くなったから、大声で鳴かないとおれの声、聞こえないみたい」
「うむ。そのような家は特に注意が必要だ。うちのおばあさんとおじいさんも人間の年齢でいえば70歳を超えていて耳も遠くなってきている。先日我が家で起こった事件について話そう」
「我が家ではな、毎年冬になると、石油式のストーブを物置から出してきて使うのだ。今年の秋は急に朝晩が冷え込む日が続いただろう。だからいつもより少し早く石油ストーブを出して使っていた」
「石油ストーブって、あったかくて気持ちがいいけど、近づくと怒られるやつ?」
「わし、知らぬ間に近づきすぎて、しっぽの先が焦げたことがあるぞ。若いもんは気を付けた方がよいぞ」
「よくさ、じいちゃんがスルメとか上に乗っけて焼いてるやつだよね」
「ああ、あれかあ。ぼく、ストーブの上で焼いてたスルメを取ろうとしたらヒゲが焦げちゃったことがある」
「そう。諸君が毛やヒゲを焦がしたというそのストーブである。我が家では、いつも水を入れたやかんを石油ストーブの上に置いていたのだよ。お湯が沸くから、おばあさんがお茶を淹れて飲めるし、蒸気で部屋も加湿されるし、いいことづくめだろう?」
「でも、その石油ストーブについて、ぼくたちは何に気を付けたらいいの?」
「うむ。それなのだが。我が家ではもうずっと、おじいさんが寝る前に石油ストーブを消す役割を担っておった。だが先日の夜中、私は異様な音に目が覚またので、音のする方へ行ってみた。するとストーブの火が消されておらず、やかんが空焚き状態になっておった」
「それは危ないね。火事になっちゃう」
「火事ってなあに?」
「ちびねこ達は知らぬよのぅ。火がついて全部燃えてしまうのよ。逃げ遅れて死んでしまった猫も人間もいるんだよ」
「怖いねえ。火事」
「まあ、異変に気が付いた猫の私が大声で泣き叫んでおじいさんとおばあさんを起こしてストーブの前まで誘導したので、事なきを得たのだ」
「猫が人間を助けた話、ってやつだね」
「なんか誇らしい気持ちになるね」
「ぼくたち、いつも人間の役に立ってるよね」
「そうだそうだ。もっとうまいご飯くれ」
「ウォッホン、よいかね、猫諸君。飼い主の命も君たちのおいしい食事も、安心できる居心地のよい寝床も、全てを守ることができるかどうかは、きみたち猫による日々の見回り活動にかかっている。異変に気が付いた時にはすぐに飼い主に知らせるように。特にこれからの季節は空気が乾燥する。各自が家の中の見回りを強化して、火の元には十分気を付けるように」
「了解です」
「了解!」
「了解です。ぼく頑張る」
「うちの飼い主、すごく寝起きが悪いんだけど、ぼく、ちゃんと起こせるかなあ。ちょっと心配だなぁ」
「とにかく人間は足も遅いし、ツメだって出し入れ出来ないしね。それに何より感覚が鈍いからさ、ぼくたちが守ってあげないとね」
「うむ。よろしく頼むぞ。それでは皆、気を付けて帰るように」
「さよなら」
「またね。ぼく達、頑張ろうね」
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