この世界の悪役《ヴィラン》


「あああああ逃したあああ!!」

「ど、どんまいやで雫」


「分かってたのに! 分かってたのに! 落とし穴!」

「してやられたなぁ」


「なんであんな冷静に置けるんだよ! クソがぁッ!」

「サンドバッグはいかがですか」

「落ち着け雫、アレドMが来たで」



プラチナレッグ。

三人組に逃げられ、チームメンバーが途方に暮れる中。


彼女は昔を思い出す。



「……罠士、か。『S4』でもそう言われとったな」



The Trapper罠士”。

海外の掲示板では、『クロス』はその名で呼ばれていた。


罠でしかキルを取らない異常さ。

その罠を駆使したあらゆる戦法。


calamity厄災”なんて呼ばれていた事もあるとか。



「……あのチームにはピッタリやん」



それを知らずに付けたのであれば、恐ろしい偶然だ。



「――リーダー、これそこに落ちてましたけど……」

「ん? うわっ何やこの汚い字……多分やけど『RIN』のやな」



そんな中。

チームメンバーのうちの一人がそれを見つける。

旅の記録を千切って、殴り書きした様な文字が書かれている。



「『RIN』ってあのナイファーの?」

「そうや。雫はOGでやり合った事まだないやろけど……あの雰囲気は間違えへん。“リン”カやしな」


「リンカねぇ。こっちじゃ弓士になってたのかぁ。意外」

「恐ろしい戦闘センスや。ステータスはうちらより低いはずなんやけどな」

「獣だよ獣! 猛獣! トラ!」



木の間を自由自在に飛び回りながら、正確な射撃を浴びせてきた彼女。

デスまでは行かない。だが“邪魔”としてはこの上ない程強力だった。


おかげで遠距離職は仕事をさせてもらえず、ダガー達を取り逃してしまったから。



「で? この字は……」

「どれどれ……」



――【災厄同盟は! ダガーとリンカ!!】



「……あ、VPは違うんだ」

「確かに二人って言ってたなぁ……こんな強く否定せんでも」


「あんな息ピッタリだったのにね」

「流石になんか面識はあったんやろ――」



勘違いをしていた二人。

しかしそんな事、プラチナだけは……次の瞬間に忘れてしまう。



《ダガー様からフレンド申請が届きました》

《ダガー様からメールが届きました》



そんなメッセージが、彼女宛てに届いたからだ。



「……はえ?」

「? リーダーどうしたの?」


「あ、ああ……いや、なんかメール届いてな! 頼んでた武器作れたんかなー……」

「……?」



こっそりと、木陰へ移動。

見られるわけでもないのにそれを開く。


そこには――




プラチナさんへ

 


さっきは悪かった。

あんたには検証手伝ってもらったのに、借りを仇で返したからな。


で、チーム関係なくフレンドとして遊ぶのなら問題ない。俺もプラチナさんとは仲良くしていきたいと思ってる。


あんな宣言した後に言える事じゃないのは分かってるんだけど。

それでも良かったら、これからよろしく!



プラチナレッグの敵 ダガーより




「……なんや、それ」



『S4』の時に見たあの“クロス”と、ようやく出会えた。



《――「うちは、ダガーさんとこのゲームを共有出来たら……絶対楽しいことになると思ったんや。どうしてもあかんかな?」――》



あの台詞は、チームの利益ももちろんだが……彼女の本心からも出た言葉だ。

だからこそ、あの敵対宣言はショックだった。



「悪い人やなぁ……ダガーさんは。コレがどういう意味か分かってんのか」



だからこそ、より一層に嬉しく感じてしまうのだ。

それが――例え彼女のチームの“敵”だと言った彼だとしても。


今ここに周りの目が無ければ、飛び上がってしまう程に。



「……うぅ、ほんま卑怯やで――」

「リーダー?」


「! な、なんや」

「顔赤いけど。大丈夫かなって……」


「あ、ああ。平気やで――っと!」

「?」



《ダガー様がフレンドに登録されました》



「コホン! 映画で悪役ヴィランに惚れる奴の気持ちが、ほんのちょっと分かっただけや」

「ええーなにそれなにそれ!」














「……ってわけで、コイツには背後を取られた。助けに行こうと思ったのに」

「怖」


「だってバレそうだったしっ! ダガーなら負けないと思ったし~♪」



フェイスカバーを外して、VPは無邪気な笑顔。

……駄目だな。顔も声も髪も何もかも違うはずなのに。


どうにも、この笑った顔だけは――



「ま、まあそれなら仕方ないな」

「……? なんかダガー変だぜ」

「アハハっ。ダガー、カッコよかった~!」



そして、そんな事を露知らず。



「あと……すっごく会いたかった~!」



飛び込んでくる、その小さな身体が。



「!? ちょ、お前な……」

「ばっちり心が通じ合う感じ! ゾクゾクしちゃったよね!」


「……普通に恥ずいからやめてくれない?」

「じゃあもっと言っちゃおうかな~!」


「穴に埋まろうかな(ガチ)」

「アハハ! いつもの事じゃん!」



抱き着いたと思ったら、俺の腕をブンブン上下に振り回す。

これギリ攻撃扱いになりませんかね運営さん?





「……………………」





んでリンカさんはなんでそんな不機嫌そうなの?

変なオーラ出てるぞ。バーサーカー? 弓士だったよな?

どっちに攻撃するかで話が変わって――



「……あたしも頑張ったのに……」

「うっ、うんうん、ありがとうなリンカ。助かったよ」


「……」

「あ、ああ……」



無言で頭を差しだして来た。

懐いたインコかお前は、なんて口が裂けても言えない。



「……もっと、して」

「ハイ(頭ナデナデロボ)」



ああでも良かった。

不機嫌な謎オーラが目に見えて消えていく。



「…………ふーーーん。仲良いんだね、二人」



今度はお前かよ!!


無限ループって怖くね?





《フレンドリストにVP様が追加されました》



「やたー♪ ダガーのフレンドゲット! わっ凄い罪ポイント!!」

「……あたしはずっと前からフレンドだったぜ」


「ん?」

「あ?」


「あ、ああ……(疲労)」



この二人仲良く出来ないの?

まあ最初よりは大分マシになった。



「ダガー、SNSもメールも閉じてるから困っちゃってたんだ~」

「まあ永遠に知らないヤツからの大量メッセージが来るからな」


「アハハっ、有名税? ってやつかな~」

「勘弁してくれ……」



思えば、本当にプレイヤーとの繋がりが無い。

そろそろメールの停止解除しても良いかも。


FLの罠士プレイヤーから検証報告書が上がってくるかもしれないし!

望みは薄いけど!


あとは……プラチナさんにも、謝罪を送っておかないとな。



「じゃ、ダガー。今回は“貸し”一つって事で」

「ははっいつでも返してやるよ」


「うん! 楽しみだなぁ……リンカも、協力ありがと~。じゃあね」

「……おう」


「もう行くのか?」

「ボクね、FLは基本ソロって決めてるから」

「そうなんだ」



どうやら俺と似たようなモノらしい、VPは。



「これ以上は……ずっとココに居たくなっちゃうしね。せっかく兄離れしたのに――」

「……なんて?」

「な、なにも言ってないよ」



VPは、聞こえぬほどの声で零す。

名残惜しそうに、手を振る彼。



「ばいばい! じゃっ、『迅雷の術』――」



そして――とんでもないスピードで森の中を駆けていき、見えなくなった。



「……騒がしいヤツ」

「ははっ、だな」



遠い目をしながらリンカが呟く。

あんな様子だったが気は合うと思う。多分。


アイツと俺が、これ以上ないほど合うんだからな。



「……ダガー」

「ん?」


「今日は、何しよっか!」



ジャンプしながら目を輝かせるリンカ。

絵本の中、お姫様の様な金色の髪が跳ねて輝く。


意気揚々。

そんな言葉がピッタリな雰囲気。


だからこそ、こんな事を言ってやりたくなる。






「――“グリーンエルド、脱獄”」






なんて。

とっておきの“悪い事”を、彼女に笑って言ってやった。





「!!」

「どう?」


「ま、マジ?」

「……は、流石にまだ早い。その前にお前のレベリングだ。でっけー亀でも倒しに行こう。あと馬」


「亀でもUMAでも、リンカちゃんに掛かれば楽勝だぜ!」

「何か違う気がするが……ははっ、そりゃ頼もしいな」




さあ行こう。

この光景はまだまだ先が見えない。


VP。

プラチナレッグ。

プレイヤーだけじゃない。グラウンドトータス、エルダーホースにその先も。

森の先にある“海”フィールドも。


この仮想バーチャル世界は、どんどん広がっていく。



「早く早く! ダガー!!」

「分かってるって」















ああもちろん――“落とし穴”には負けるけどね。







――『Vilrtual Player』(終)――

















△作者あとがき


これにて第二部完。本二冊分! 20万文字!

お付き合いいただきありがとうございました。


コンテスト用に書いたものでしたが、たくさんの反響を頂いちゃって筆が大変進みましたね(感謝)。


出したかった名前だけのキャラ……VPにプラチナレッグ達を書けて満足でした。

あとはコンテスト結果を待つのみぞ(祈願)。


続きはまた私の気が向いたら書いていきます。

アオイちゃんとクロセくんが、寂しそうにダガーを見ている!


また面白かったとか少しでも思っていただけたら、下のスターやハートなど投げていただけると飛んで喜びます。それでは!


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職業『罠士』の大罪人 ~不人気職の検証勢、最前線を突き進む~ aaa168(スリーエー) @aaa168

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