我が家に猛獣を住まわせるその理由

 最悪のモンスター、あるいはそのように形容される、凶暴な同居人の物語。

 もうただひたすら文章が綺麗……!
 あまりの読みやすさに目が勝手に引っ張られちゃうほどです。

 結構ハードな内容だったり、また少々マニアックな(つまり説明の必要な)事柄だったりが出てくるのですけれど、それを自然に(しかも面白く!)するする飲み込ませてしまう、この文章の技巧に惚れ惚れします。

 物語の性質上、この先にはどうしてもネタバレを含みます。
 実のところ、このネタバレが作品の(初見時の)魅力を毀損するものでもないと思うのですけれど、でも念のため。



〈 以下ネタバレ注意 〉

 てっきりDVや共依存的なもののお話かと、『1』(第二話目)でそう思い込んでしまったのですけれど、さにあらず。
 とある悪役女子プロレスラーとその恋人、ひいてはプロレスそのものの物語です。

 この、予想をひっくり返される感覚、もっと言えば「自分の見立ての底の浅さが恥ずかしくなる感じ」が、もう本当に気持ちいい。

 大好きなのは〝プロレス〟というものの描かれ方。
 いわゆるブック(台本)や、「因縁」と呼ばれる興行上の演出、またヒール(悪役)としてのキャラクター付けなど、『物語』としてのプロレスがとてもわかりやすく、かつ読んでいて心地よく描かれているところ。

 物語の中で『物語』というものを描くというのは、その構造上どうしてもメタっぽくなってしまいがちな印象があるのですけれど、しかし本作ではそういった何か鼻につくような雑味が一切なく、真正かつ極太の物語としてきっちり叩きつけてくれるのだからたまりません。最高。

 最後なんかもう肌が粟立っちゃうくらい。まるで本当の試合のステージを見ているような気分。
 とても読みやすく完成度の高い、なにより面白い作品でした! おすすめです!