第9話

「形にはなりましたね」


「ありがとうございます…。お疲れさまでした」


 一昼夜かけて洞窟内を丁寧に整備していった結果、ダンジョンに引きこもったままでも完全に生活できるだけの生活圏になった。

 村ができる位置からどの方角に進んでも食物がある恵まれた世界。きっと彼らは移住することを選ぶだろう。


「あとは家だけですか?」


 セラフが俺に尋ねてくる。

 だが、必要なのは家だけではないのだ。俺はそっと首を振る。


「水もあります、食べ物もあります、しかし家以外にもう一つ必要なものがあります。

 太陽です」


「あっ」


 そう、洞窟内なので普通の人間には真っ暗である。光源が必要だ。

 俺は神からの加護で暗視の魔術があるし、セラフはヴァンパイアなので夜目が効くので必要はなかったがこれからは別だ。


「太陽なんてDPで買えるんですか?」


「買えますよ。とはいっても熱と光を伴うだけの疑似太陽ですが」


 本物も買えるが百億DPするので全てのダンジョンマスターの資産を集めても手が届かないだろう。

 ようは人間の身体のサイクルを崩さないようにすることと植物の光合成に必要な灯りがあればいいのだ。疑似太陽ならそれもクリアできる。五十万DPも消費するがとりあえず残りのDPで払い切れる。

 問題はそれをやってしまうと手持ちのDPがなくなるので村人が裏切った場合は抵抗が難しくなることだ。

 俺はセラフの生死の動向に手を出すつもりもないし、セラフは転生したばかりなので本人の力も弱くフィジカルで村人に勝っていると言っても数の暴力で容易く負けるだろう。

 つまり、疑似太陽を買ってしまうと村人が裏切ってセラフを殺しにくればこちら側に為すすべはなくなってしまうのだ。

 そのことを彼女に伝える。すると、彼女はそれを承知しているかのように頷いた。


「わかってます、みんなからすると私は魔物で恐ろしい存在なんだって。

 でも、昨日ママから聞きました。みんなが気にかけてくれてくれたから私がいなくなったあとにずっと生きてこられたって。

 だから私はどうなってもいいから、みんなが生きてほしいって思ってます」


 決意を決めた彼女の表情を前に俺は何も言えなくなる。


「……結構です。では購入します」


 キーボードを操作して疑似太陽を購入する。すると洞窟内がパァッと明るくなった。


「うわ、これ私この部屋から出られないのでは?」


「疑似太陽なのでこの陽の光に当たってもセラフ様は溶けませんよ」


「あ、そうなんですね」


 あくまでダンジョン内で人間を飼うための設備の位置づけだからな。ダンジョンマスターに不利になるような効果は発動しない。

 ともかく、これで全てダンジョンは出来上がった。徹夜したおかげで今日にはリシシ村に向かわないといけない。ひとまず眠ろう。

 そう彼女に伝える。


「あ、そうですね。やることやったら眠くなってきちゃいました」


 マスター部屋にあるベッドで横になるセラフ。

 俺も男なのに警戒しないのか君は。

 まぁ、俺には関係ないが。


「では八時間後にお迎えに上がります」


 胸元から鍵を取り出し虚空に向かって右側に捻る。すると空間に二メートル程の開き戸が現れた。


「凄いです! なんですかそれ?」


 目をキラキラ輝かせて俺に聞いてくるセラフ。


「これはアーティファクトですよ。マスター部屋と変わらない大きさの空間を保存しておき、何もない空間で鍵をひねるとそれが出現するんです」


「それはどうやって手に入れたんですか!? 私も欲しいです!」


「DPで購入できますよ。そこそこしますけど」


「うーん、じゃあDPが溜まったら買います!」


 いや、マスター部屋があるから必要ないと思うんだが。

 俺は移動が多いから常用しているだけであってだな。

 まぁ、個人の勝手か。挨拶をしてから扉をくぐる。そこにはホテルの一室と遜色ない綺麗に整頓された空間が広がっていた。


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和製プランナーのダンジョンマスターサポート記 れれれの @rerereno0706

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