第8話

 神が帰巣してからおよそ三時間後。日の出まで一時間程まで差し迫った時刻にセラフはダンジョンへ帰還した。


「お待たせしました。すみません、お見苦しいところを」


「いえいえ、構いませんよ。私がダンジョンの基礎を引き終えておりますので確認をお願いします」


 モニターに映る、昔の3Dダンジョン風のマップ表示をセラフに見せる。


「凄いです! こんな風にマップが見れるんですね!」


「これは私のカスタムなので、セラフ様も年末のダンジョンマスターの総会に出席されたときに神に頼めばUIを加工してくれますよ」


「ユーアイ? ですか?」


「ああ、このマップのような個々人が使いやすいようになっている表記のことですね。セラフ様のものは万人が使いやすいように設定されてますので、良い考えがあればメモしておいて改造を頼むとよいかもしれません」


「そうなんですね。考えておきます!」


 やる気満々でテーブルに戻ろうとする彼女を呼び止める。


「先に確認お願いします」


「あ! はい…」


 恥ずかしそうにこちらに戻ってくるセラフを見ると頬が緩むが、仕事が優先だ。マウスを動かし説明していく。


「洞窟の入り口を入ると、そこから直線で十二キロの草原が広がっています。フロアの中心点に村を作る予定なので、そちらは既に家を建てやすい地面に変更し外周には作物を育てるのに適したものにしております。

 つまり、環境だけは整った形になります。ここまでの使用額はおよそ十二万DPです」


「残りで魔物とか植物を配置しないといけないんですよね? DPの残りが厳しそうですね…」


「そのことですが、ダンジョンマスターの特権で一つお教えするのを忘れていました。モニターをご覧ください」


 俺が操作し、生成物のカテゴリを出す。こちらではプーグと呼ばれている葡萄に似たものが一房で十DP、同じくアッポと呼ばれているものが林檎が一つ五DP。その画面を見たがイマイチ彼女は理解できていないようだ。


「では、セラフ様が操作して同じ生成物をご覧ください」


「え? わ、わかりました」


 同じようにマウスとキーボードを使い、先程のプーグを表示する。


「あ! 高いです!」


 そこに表示されたプーグは一房百DP、十倍の値段である。計算のできないセラフでも数字が大きいことは理解できたようで値段の違いに驚いている。


「何故違うか、ダンジョンの生成の仕組みを説明いたしましょう」


「お願いします!」


 元気で結構。


「ダンジョンの物資生成装置は操作者の意識から物品を生成しております。

 ですが、生成物の中には見たことも聞いたこともない物が存在しますよね? それは何故だと思います?」


「え? 実は知っていた、とかですか? あ、ごめんなさい変な答えで」


「いえ、当たっていますよ。正解です」


 キョトンとして俺の顔を見つめるセラフ、狐に化かされたような表情だ。


「ダンジョンマスターとして転生したときにこの世界に存在する物の情報は全て身体に刻み込まれているのです。神の恩恵といったところでしょうかね。

 そして、値段の違いですが理由はたった一つです。その物品がどうやって作られているかを知識として把握しているかどうかです」


「知識…」


「そう、知識です。私はプーグの実がどうやって根を生やし、葉を広げ、再び果実を実らせるまで成長する過程を知っています。

 つまり、情報が取り出しやすいようにテーブルの上に置いてあるのが私、雑多な資料の山の中から毎回必要な情報を抜き出しているのがセラフ様です。

 欲しい情報を得るのに必要な労力が違いますよね? それがDPの値段の差になって現れているのです」


「なるほど! 納得しました」


「それでは私が操作して植物等を配置していくので置きたい場所を指示してください」


「わかりました!」



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