エピローグ

いつものように

 時はあっという間に過ぎ去り、今日は大学の卒業式を終えて来た。

 莉愛と付き合い初めてから、俺はめちゃくちゃ勉強をして、彼女と同じ大学に入学することが出来た。

 大学は人生の夏休みとも言われるが、俺は公務員になるために勉強勉強の日々だった。

 その甲斐もあって、俺は晴れて来月から国家公務員になる。


「あ、今動いた」


 ソファーでダラダラとした時間を過ごしていると、莉愛は大きくなった自分のお腹を擦りながら言った。


「マジか。触ってもいいか?」


「うん。いいよ」


 莉愛から許可を取って、お腹に触れてみる。しかしお腹から伝わって来たのは、振動の代わりにぎゅるるるという可愛らしい音だった。


「あっはは。確かにお腹から音がしたな」


「これは違うから! 今のすごく恥ずかしかったんだけど。タイミング悪すぎでしょ」


 真っ赤になった顔を、莉愛は手をうちわ代わりにして扇いでいる。相当恥ずかしかったのだろう。


「お腹空いたのか」


「うん。実は少しだけ」


 窓から見える空は赤く染っている。もうぼちぼち、夕飯の時間だ。


「もうそろそろお姉ちゃんたちが来る時間だと思うんだけどな」


 今日は俺と莉愛、それとお姉ちゃんたちを含めた五人で夕飯を食べに行くことになっている。

 もうそろそろウチに来てもおかしくない時間だが──あ、そうそう。俺と莉愛は今、マンションで同棲をしている。もちろん家賃やら何やらは、莉愛のお父さんに払ってもらっているんだけど。

 お姉ちゃんたちは実家で暮らしているので、三人一緒に俺たちを迎えに来てくれることになっているのだ。


「あー、お腹空いたー。はやく焼肉食べたーい」


「今日は奏美お姉ちゃんの奢りらしいから、めちゃくちゃ食えるぞ」


「あ、そうだね。奏美さん、今じゃテレビで見ない日ないくらい人気者だからね。五人分の焼肉を奢るくらいなんともないか」


 今では奏美お姉ちゃんはモデルの仕事だけではなく、バラエティー番組や女優の仕事などもこなしている。もっと簡潔に言うと、芸能人の仲間入りを果たしているのだ。

 そりゃああれだけ美人で笑顔が素敵な女性を、テレビ業界の人が見逃す訳がないもんな。


「あれ、でも今日は誰の車で行くの?」


「今日は鈴乃お姉ちゃんかな。仕事で貯めたお金で最近新車を買ったらしいから自慢しに来るはず」


「あ、そっか。鈴乃さんお仕事頑張ってたもんね。自分へのご褒美に車買ったんだっけ」


「そうそう。自分で車買うために仕事してたようなもんだし」


 鈴乃お姉ちゃんは短期大学を卒業して、幼稚園の先生になった。

 末っ子の鈴乃お姉ちゃんが幼稚園の先生……とも初めは思っていたけれど、案外面倒見がいいようで人気者の先生らしい。


「あれ、衣緒さんも今日来るんだよね?」


「衣緒お姉ちゃんも来るはずだな。でも多分、夜から仕事があるからご飯食べたらバイバイしなきゃだけど」


「わー、夜ご飯食べてから仕事か。スナックも大変だね」


「だよなー。スナックの店長は大変そうだ」


 つい最近の話になるが、衣緒お姉ちゃんは母さんのスナックの店長となった。

 今では十人程の従業員を抱えている母さんのスナックだが、衣緒お姉ちゃんがママの次に歴が長いということで、嫌々店長をやらされているらしい。

 給料こそ良いらしいが、店長となると覚えることが沢山で、毎日目が回っていると衣緒お姉ちゃんが愚痴っていた。


「じゃあ今日はよかったね。お姉さんたち全員と日程が合って」


「俺たちの卒業式があったってことで無理矢理にスケジュール空けてくれたらしいな」


「はー、優しいお姉さんたちだね」


「ほんとだよ。お姉ちゃんたちには心の底から感謝してる」


 莉愛の妊娠が発覚した時には、それはそれは沢山の苦労があった。でもその苦労を乗り越えられたのは、お姉ちゃんたちの協力があったからだと自信を持って言える。

 お姉ちゃんたちには感謝してもしきれない。いつか絶対に恩返ししなくてはと、莉愛とよく話している。


「瑞稀、本当にお姉さんたちのこと好きなんだね」


 なぜか莉愛はニヤニヤと嬉しそうな顔で、そんなことを言った。


「めちゃくちゃ好きだな。お姉ちゃんたちが居なかったら今の幸せな時間はないと思う」


「高一の時、あたしのことを空港から連れ出してくれたのもお姉さんたちの協力あってのことだもんね」


「それだけじゃない。こうやって並の男くらいの性欲がついたのも、お姉ちゃんたちのおかげだからさ」


「並の男くらいじゃないよ。並の男以上の性欲はあると思う。絶対に」


 莉愛は確信をもっているようだが、自分では性欲がある方だなんて思わないけどな。というか好きな人と一緒に暮らしているのだから、毎日そういうことをしたいのは当たり前じゃないのだろうか。


「そうなのかな。自分では分からないわ」


「もう。お姉さんたちにどんな特訓されればこんなに性欲が強くなるのか」


「はあ」とため息を吐く莉愛だが、その表情からはどことなく嬉しさが滲んでいるのを感じた。

 そんなこんなでゆったりとした夕方を過ごしていると、玄関の方からガチャリとドアが開く音が聞こえて来た。


「あ、噂をすれば」


 莉愛もその音に気が付いたようで、ソファーからゆっくりと立ち上がろうとする。


「おいおい。あんまり無理するなよ」


 立ち上がろうとする莉愛に手を差し伸べる。あんまり無理に動くのはよくないと、病院の先生から言われているのだ。


「あはは。これくらいなら大丈夫だよ。瑞稀は心配性だなあ」


 あははと笑う莉愛だが、やっぱりお腹に居る赤ちゃんが心配じゃないか。それともちろん、莉愛の体も。

 莉愛は「ありがと」と言って、俺の手を取って立ち上がる。


 二人で立ち上がり笑顔を見せ合うと、リビングのドアが開いて三人のお姉ちゃんが部屋に入って来た。お姉ちゃんたちにはウチの合鍵を持たせているので、いつもこうやってチャイムを鳴らさずに部屋に入ってくるのだ。


「久しぶり。二人とも」と大学時代と変わらずピンク髪の衣緒お姉ちゃんが。


「おひさー。相変わらず部屋綺麗にしてるね」と縁の大きな青色のサングラスを掛けた奏美お姉ちゃんが。


「久しぶり! 瑞稀! 莉愛ちゃん!」と高校生の時と特に何も変わらない鈴乃お姉ちゃんが。


 三人は部屋に入って来るなり、俺を見るよりも早く、莉愛のお腹に夢中になっていた。


「わー! また莉愛ちゃんのお腹大きくなってる! おー、愛しのベイビーよ〜」


 鈴乃お姉ちゃんはしゃがみ込み、莉愛のお腹に頬ずりをする。

 鈴乃お姉ちゃんはいつもこうだ。俺と莉愛の赤ちゃんだと言うのに、自分の子供かのような反応をする。さすがは幼稚園の先生。子供が好きなのだろう。


「瑞稀。赤ちゃんの名前考えてきた」


 今度は俺の横に立った衣緒お姉ちゃんが、そんなことを言い出した。


「ほう。言ってみたまえ」


「本間ドラゴン。ドラゴンみたいに大きくてカッコよくなって欲しいという意味を込めました」


「うん。却下だ。まだ男の子か女の子か分からないしな」


「うぅ……残念」


 衣緒お姉ちゃんはいつもこうして、俺と莉愛の子供の名前を考えてくる。けれどもネーミングセンスの欠片もないので、いつもお断りをさせて貰っている。


「莉愛ちゃん。焼肉屋に何か荷物持ってく? もし重いものあったらアタシが持ってくけど」


 奏美お姉ちゃんが莉愛の顔を覗き込む。


「カバンは持ってくつもりですけど、自分で持てるので大丈夫です!」


「ダメダメー。ちょっとでも重いものは持たないようにしないと。アタシが持ってくから任せてよ」


「でも化粧品とか財布とか入ってるので少し重いですよ?」


「ならなおさら持たせられないよ。普段は瑞稀がやってくれるからいいだろうけど、アタシたちが居る時はアタシたちも頼ってよ」


「えー、じゃあお願いしちゃおうかなー」


 莉愛が満更でもなさそうに微笑むと、奏美お姉ちゃんは「了解」と額に手を当てて敬礼のポーズをした。しかもウィンク付きだ。

 奏美お姉ちゃんはいつもこうして、妊娠中の莉愛の体を労わってくれる。お姉ちゃんたちは皆総じて優しいが、奏美お姉ちゃんの気配り力は頭ひとつ抜けている。そういったところも、芸能人になれた理由なのだろうか。


 莉愛の大きくなったお腹を愛でる鈴乃お姉ちゃん。莉愛と笑顔で話をする奏美お姉ちゃんと衣緒お姉ちゃん。この四人を眺めていると、不思議と心がポカポカと温かくなる。

 俺の大切な人達。莉愛。衣緒お姉ちゃん。奏美お姉ちゃん。鈴乃お姉ちゃん。全員が愛おしくて仕方がない。

 こうやって四人のことを眺めていると、自然と頬が緩むんだよな。


「あ、瑞稀がこっち見てニヤニヤしてる〜」


 ニンマリと笑いながら、鈴乃お姉ちゃんがこちらを指さす。その声に、四人が一斉にこちらを振り向いた。


「瑞稀。幸せそう」と衣緒お姉ちゃんが目を丸くさせながら。


「なんだよー。お姉ちゃんたちと久しぶりに会えて嬉しいか?」と奏美お姉ちゃんが満面の笑みで。


 三人のお姉ちゃんが俺の顔を見て笑顔になる。その笑顔に安心させられる。

 近い将来、嫁になる人はどんな顔をしているのだろうかと、そちらに視線を向けてみる。すると莉愛は顔をくしゃりとさせて笑い、こちらに手を差し伸べた。


「あたしも瑞稀のおかげで幸せになれたよ。ありがとね、あたしの旦那さまっ」


 それを言う莉愛が照れくさそうにするので、不覚にも俺まで照れてしまいながらも、差し伸べられた手を握る。

 いつものようにイチャイチャとする俺たちのことを、お姉ちゃんたちもいつものように笑顔で見守っていた。


 ──完──


 ☆あとがき☆


『義理のお姉ちゃんたちから男子高校生というだけで警戒されていたが、俺が枯れていると知ったのをきっかけに甘々な姉弟生活が始まりました〜学校では俺のことが好きな女子から猛アタックを受けています〜』はこのお話をもって完結となります。


 77話と長いお話にお付き合い頂きありがとうございました。

 読者の方々には感謝してもしきれないです。


 このお話は『イチャイチャラブコメを書こう!』と思い立って書き始めたのですが、書いてみるとやや真剣なお話も多くなってしまいましたね。

 ですがそれも今ではいい味を出していたのかなと、思うことが出来ました。


 このお話はこれをもって完結してしまいますが、またあまり時間を空けずに新しいお話を書こうと思っております。

 私はラブコメしか書けませんので、次回作もラブコメを書かせて頂きます。今回のお話を少しでも気に入ってくれていたら、次回作も覗きに来てくれると嬉しいです。


 最後になりますが、私はこの物語で衣緒お姉ちゃんが一番好きでした。いつも眠たそうだが芯を持っている衣緒お姉ちゃんは書いていて楽しかったです。

 よかったら皆さんの好きなキャラも教えて頂きたいです!


 ではでは、またいつかお会いしましょう!

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義理のお姉ちゃんたちから男子高校生というだけで警戒されていたが、俺が枯れていると知ったのをきっかけに甘々な姉弟生活が始まりました〜学校では俺のことが好きな女子から猛アタックを受けています〜 桐山一茶 @rere11rere

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