東京origami
るい
1. 指で取り、口に沿わせる
るいは毎朝のルーティンをこなしている。
デジタル時計の目覚ましが鳴ると、瞬時にその音を止め、二度の寝返りをうった後、ようやく諦めたように重い身体をおこす。デジタル時計にしている理由は分刻みで起きなければいけない時間を身体に染み込ませるためだ。
そしてトイレに行き、手を洗ってうがいをし、喉を潤す。行き着く暇もなくその足で朝食を作る。るいは朝ご飯を毎週変えていている。いつも同じ味だと飽きてきて、ついには朝食を食べなくなるからだ。今週は、0キロカロリーのヨーグルトにアーモンドとドライフルーツ、それにグラノーラを加えたものだ。
風味が良く、わりといい組み合わせだと自負している。
飲み物は簡易ドリップで淹れたコーヒーに農協牛乳を混ぜて作るカフェオレが最近のお気に入りだ。
TVをつけると、昨日の朝も観た番組がそのまま流れた。NHK「おはよう日本」の天気予報は15分単位で行われ(おまけに常時、画面の左上に各地域の温度と天気が順番に流れてくる)、元気になりきれない朝を、お天気お姉さんはちょうど良いテンションで寄り添ってくれる。TVを観ながら朝食を食べ、最後にビタミン剤を飲む。
メイクは厳選された最小限のコスメで仕上げる。新調した口紅を塗りたくて、昨日からワクワクしていた。そのおかげで今日の寝返りは二度で済んだのかもしれない。
クリーム状の口紅を指で取り、口に沿わせる。やや朱色が入った薄紅色。顔馴染みの良さに、改めて良い色だと微笑んだ。
大体の準備を整えると、るいは名残惜しく家を出る。
あらかじめチェックしておいた天気予報の通り、カラッとした夏晴れだ。
社会人になり、4月から東京で働くことになって、数ヶ月。
毎朝のルーティンは確立してきたが、
私はまだ会社という組織に馴染めずにいた。
東京に着いてからというもの、自分の本当の感情を職場の人に伝えたことはない。
いや、最初の頃はあったように思う。
もう遥か昔のことのように感じる。
あの頃は何も気付けずに、逆に幸せだったかもしれない。
物事に裏と表があるように、人々にも本音と建前があった。そこには褒め言葉と陰口があり、親切心と下心があった。
それに気付いた頃には、私はもう恐怖に飲み込まれていた。
そんな薄黒い渦の中でも、一筋の光を探しもがいていた。
東京origami るい @tokyonituite
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