第17話
この夜、また夢を見た。また屋上だ。僕は、前と同じく階段を上がってすぐの所に立っていた。雨が少し、降っている。
光みたいに空を仰いでみた。すると、雨粒がゆっくりと顔に落ちてくる。目の端の方に、かすかに明るんでくる空が映った。
僕は、ある種の確信をもってまっすぐ前を向く。そこにはやはり、光が立っていた。少し心がざわついたけれど、これは夢だ、とわかっている。それでも謝って、礼を言おうと思っていた。
「ねえ、光」呼びかけてみるけど返事は無い。それでいい。
まっすぐに光を見つめる。光の、表情は…。目を細めている。それはわかる。けれど暗くて、その口元はよく見えない。笑っているならいいな、と願ってしまう。
そのうち、こちらまで朝が迫ってきた。辺りが薄明るくなって…夜明けだ。
「ねえ光、いままで」
薄く照らされた光は、口の端を上げ微笑んでいた。それは何度も見てきた間違いなく光のもので。言おうと準備していた言葉など全て吹き飛んだ。
「っ、こうっ」全て投げ出して駆けつけたかった。でもそれは光が許さない気がした。だから単純な言葉で叫ぶしかなかった。
「光、ありがとう、いままでありがとうっ。いままでごめんね、でも今度またやるなら怖いけど僕も付き合うからっ」やけくそになって思いを吐き出し、自然と笑顔になっていた。
「バイバイ、いつかまた会うまで」僕がそういったとき、光の唇が震えた、気がした。それは、『しあわせでね』を形作っていたような。
僅かに寂しさが込み上げてくる。光は、昇ってくる陽と反対に薄くなり、消えていく。
「しあわせでね」僕は寂しさを言葉に変えて叫んだ。
心は、穏やかな火が灯されたように温かい。
雨はいつの間にか止んでいた。
いつか歩き出すために 明け宵 @akeyoi
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