普段「先輩」呼びするクールな先輩をただ「名前」呼びするだけ

御厨カイト

普段「先輩」呼びするクールな先輩をただ「名前」呼びするだけ


「あっ、先輩!委員会の仕事はもう終わったんですか?」


「あぁ、何とかな。待たせてしまった様ですまない」


「いえいえ、ただ僕が先輩と帰りたかったから待っていただけなので謝らないでください」



ニッコリと微笑みながら言う僕。



「そうか……じゃあ、帰ろうか」



そんな僕の笑みを軽く流し、先輩はスッと前を歩き始める。



むぅ……反応が薄いな。

少しは照れてくれていいんじゃない?

……まぁ、そういうクールな所に惚れたんだけどね。



付き合い始めて早一ヶ月。



憧れの先輩とカップルになれたことで凄く浮かれてた僕だったが、最近ある問題にぶつかった。

先輩の反応が薄いのだ。


元々クールな性格だから仕方が無いのだけど、手を握ったりしても無反応だし、何なら告白した時も凄くあっさりとしていた。



だからこそ、先輩の何でも良いから反応が見たい!

願わくば、照れているところを!


……と思いながら日々を過ごしてるけど結果はお察しの通り。



それでも「今日こそは!」という気持ちで毎日頑張っています。




「……そう言えば、昨日から期末テストが返され始めましたけどどうでしたか、先輩?」


「うーん……別にいつも通りだったな」


「いつも通り?」


「あぁ、いつも通り100点だった」



……そういや、この人滅茶苦茶頭良いんだった。



「流石先輩ですね……ガチで凄いです。尊敬します」


「でも、そういう君も頭良かったじゃないか」


「いやいやいや、それでも流石に100点は難しいですよ……。だからこそ、マジで先輩の事を尊敬しているんです!」


「私としてはただ努力した結果が出ただけだから特段何とも思わないのだが……」


「ハハハッ、先輩はやっぱりクールですね。そういうところホント好きです」


「……そうか、ありがとう」



またしても照れることなく、軽く流す先輩。

「好き」という言葉に顔色一つ変えないものだから、少し悲しい。

でも……こっち方向がダメなら……




「先輩の銀髪って凄く綺麗ですね」


「……いきなりどうしたんだ?」


「いや、ふと思っただけなんですけど凄くツヤツヤしていて綺麗だなと。良いシャンプーとか使ってるんですか?」


「うーん……いや、特には。確か、ドラッグストアにある普通のシャンプーだった気がする」


「えぇー、そうなんですか!それでこの綺麗さとは……先輩のキューティクル凄いですね」


「言われても見たら確かに、湿気の多い日とかでもボサボサになることが無いから有難いな。逆に仲の良いクラスメートからは羨まれるが」


「あー、何となく想像がつきます。……でも、ホントにツヤツヤしていて綺麗ですね。何だか羨ましいです」


「……そこまで言うのなら触ってみるか?」


「……えっ!?い、良いんですか?」


「あぁ、別に減るものでは無いし、構わない」


「え、えっと、そ、それじゃあ……失礼します」



突然の出来事に戸惑いながら、僕はゆっくりと先輩の髪を撫でていく。



……わっ、凄くサラサラしている。

元々の髪質が柔らかいのか、とても滑らかで触り心地が良い。

見た目も相まってまるで絹を触っているようだ。



……でも、それ以上に触っていくことによってだんだん僕の顔の体温が上がっていくのも感じる。



「……ありがとうございました」


「もう良いのか?」


「はい、凄く堪能できました」


「それは良かった」



飄々とした様子でそう言う、先輩。


……照れさせようとしたのに、逆に僕の方が照れてしまった。

というか、内面を褒めても外面を褒めても何も反応が無い場合ってどうすれば良いのだろう。

ここはもう思い切って行動に出てみるか。



そう思った僕はギュッと先輩の腕に抱きついた。



「これで少しは照れてくれるか」と心の中で願いながら、先輩の様子を伺ってみる。




「……いきなりどうした?今日の君はいつにも増してかまってちゃんだな」


腕に抱きついている僕の事をちらっと見た先輩は、「ふっ」と微笑み頭をポンポンと軽く叩く。




……どう考えても照れてない。

何なら余裕まで見せられている。




ここまでしても先輩を照れさせることが出来ないとは……結構悲しい。

あまりの不甲斐なさに「はぁ……」と心の中でため息をつく。



……一応、最後の手みたいなのも考えているけど……これでダメだったら諦めよう。

そう覚悟を決めた僕は、耳元にそっと近づき、囁く。









「澪、好きだよ」









普段「先輩」呼びする彼女を初めて「名前」呼びする。



やっぱり初めてだったからか、僕も頬が赤くなってしまったが今回ばかりは仕方がない!

優先すべきは先輩の反応!


そう思い、ドキドキしながら反応を待つ。




すると、先輩は僕が囁いた方の耳をバッと手で覆い、僕の方を向き、今まで見たことが無いような顔で口をパクパクさせる。




おっ!これはもしかして……照れている!?

顔も赤くなっているし、少し僕から目を逸らしている。



マジでこの「名前」呼びでダメだったら諦めようと思っていたらから凄く嬉しい……

何だろう、凄く達成感がある。

それに、今まで見たことが無い先輩の表情も見れたから満足感も。




だが、先輩も照れているだけで終わらなかった。



まだ動揺を隠せない様子の先輩だったが、ニッコリと笑みを浮かべている僕を見て何かを察したのか1度深呼吸をしてユラリとこちらに向かってくる。




「ふぅん……私は今まで我慢していたというのに君はそういう事するんだ。分かった、それなら私にも考えがある」


「……えっ?」



衝撃的な言葉と不穏な言葉を同時に呟きながら近づいてくる先輩。

動けないでいる僕に先輩はソッと僕の耳に手を掛けて、囁く。









「今日は両親2人とも夜勤で家に居ないんだ。だからさ……今日、私の家来ないか、蓮?」









先輩は妖艶に、蠱惑的に僕の顔を見ながら、微笑んだ

一瞬で僕の顔は真っ赤に染まってしまう。










……僕はどうやら先輩には敵わないようです。













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