最終話 死神アリスの最期

 ラーブのスキルで言うことを聞かせることに成功した発明家に案内させることで、俺たちは死神アリスの言っていたコーロント最奥までたどり着くことができた。


 発明家は、くちた人間をアンデッドにして使ったり、キメラを洗脳して自分では戦わなかったりとずる賢いだけあり、いつでもアリスの寝首をかけるように準備していたらしい。


「こんな姿にさせられたのは、あの新しくやってきた死神のせいだ! もう、手心を加えてやらないからな」


 すねた子どものような様子の発明家が小石をけるのは、ラーブにとっては不合格だったようだ。


 今のしゃべり方が気に食わなかったのか、ラーブはさらなる矯正をかけているが、俺は無視して道を進む。


 まあ、ラーブは自分の意図したように発明家を変えることを楽しんでいるように見えるが、俺は発明家を信用していない。


 ラーブが言わせたからこそ今進んでいる道を使うことに決めただけだ。


 ラーブが嘘を言わせているようには見えないし、おそらく大丈夫だろう。


「なっ……」


 なんて思っていると、死神アリスの部屋にたどり着いた。正規ルートではないせいか、服装が前回魔王城で遭遇した時とは全く違う。


 なんというか、寝巻きっぽい。


 当たったらラッキー程度気持ちだったが、本当に到着できたならもうけものだ。


「正々堂々という言葉を知らないのかぁ!」


 キンキン響く声を出してくるアリス。


「そっちのやり方が正々堂々じゃないくせによく言うぜ」


 アリスの近くに控えるシニーは目がうつろだ。


 あれから正気を奪われたってことだろう。


 許せない。


「ふん! 元はと言えば勇者を隠すお前らが悪いんだろうがぁ!」


「隠していないんだがな。まあいい。ここまでのやつらは情報収集のために手を抜いて戦ってきたが、お前相手にその必要はない。全力でやらせてもらう」


「おい。まさか忘れたのか? お前一歩も動けなかったよなぁ?」


 確かに、魔王城では俺たちは一歩も動けずシニーをさらわれてしまった。


 だが、それも昔。


「能力を見切ってしまえばどうってことはない。タマミ」


「ハイ! 『フル・エンチャント』!」


 俺たちの体を虹色の光がほのかに包む。


 攻撃力や防御力だけでなく、身体能力その他もろもろ。俺のスキル、孤軍奮闘と同じように俺の全てが強化されているのを感じる。


「行くぞ、アルカ! 俺のもう片方の剣になってくれ。糸は任せた」


「任せておにい!」


 俺は剣を二つに分け、アルカに渡す。これが俺とアルカの本当の戦い方だ。


「なにっ」


 はりめぐらせようとする糸を俺と背中合わせになったアルカが切っていく。


 アリスの糸は見えないほど細いものだ。


 だが、俺を穴に落とした時の人形術まで見せてくれれば、能力が強化された俺たちなら視認することは簡単だ。


「う、嘘だぁ! ありえない。この細さ、この強度。見えるはずも切られるはずもない」


「技のタネを明かしすぎたのがお前の敗因だ」


「おのれ! おのれ、おのれおのれおのれぇ!」


 アリスは左後方に立つシニーへと視線を向け、そしてあやしく笑った。


 すぐさま、左手が伸びるも、俺とアルカは正確にその場所に剣を振り下ろした。


「ぐはっ」


 ボトリと重い音がした。


「シニーちゃんは使わせない。これで、ジ・エンドだ」


「く、子どもにする仕打ちじゃないな」


「お前は死神だろう。せめて安らかに眠ってくれ。死神を飲み込んだ少女よ」


 俺はアリスを切り倒した。


 だが、それでは終わらなかった。


 アリスの死によって、少女の体にあるアザ、殺した相手を体内に封印するアザの発動条件を満たされた。


「今度は俺の番、か」


「おにい!」


「大丈夫。わかってたことだろう? 誰かがこの役目を引き受けなきゃいけないんだ。この体がなくなるまで」


「でも」


「なら、俺が適任だと思わないか? 俺は、もう俺だけじゃない」


 そこまで言ったところで、俺の視界は黒く塗りつぶされた。




「うぅ」


 声が高い。いや、甲高い。アルカのものよりも高い。


 頭を押さえようとして目に入ってくる手は小さい。ふっくらとして、指が短かった。


 周りのものがものすごく大きく見える。


 当たり前だ。アルカの時よりも俺の体は小さくなっているのだ。


「目が覚めたか」


「ああ」


「今のラウル様もかわいらしいです! どんなお姿をされていても、ワタクシはラウル様を愛しています」


「わかった。わかったから」


「大丈夫? ラウルちゃん」


「私のスキル使ったみたいだね」


「もー。ラーブさん茶化さないでくださいよ」


「確かにそんな感じだな。でも、問題ない。はずだ」


 俺は神からもらったもう一つのスキルを発動させる。


 服の都合、アルカの姿になっておくが、やはり、俺への封印の効果は不完全だったようだ。俺は姿を変えられる。少女の中に封印されても、それは俺の一つの姿にすぎない。


「よかった。おにいはおにいだね」


「もちろん」


「ベヒはわかってた」


 ヨーリンのスキルを使った後から様子がおかしいベヒだが、今も頭を突き出してなにかを待っている。


「そうか。ありがとな」


 ベヒの頭を撫でると、少し落ち着いたように身を引いて笑ってきた。


 それから、なんとなくガイドと発明家にはデコピンを食らわせておいて、ガラライの頭を撫でてその場で立ち上がる。


 そして、俺は一つの影を探した。


「ラウル!」


「シニーちゃん!」


 シニーは正気を取り戻したようだ。


 俺の方に走ってきて、勢いよく抱きついてくる。


 アリスにさらわれてから、何があったかは知らない。


 でも、俺はこうしてシニーを助け出した。




 それからも俺はさまざまな無理難題を神やら大魔王様やらからふっかけられた。


 だが、頼りになる仲間たちやスキルによって、俺はそれらを難なくこなしていった。


「今日もお疲れ、おにい」


「ありがとうアルカ」


 なによりも、アルカが今も生きている。


 それだけが、俺にとって一番の救いだった。


――――――――――――――――――――

【あとがき】

ここまで読んでくださりありがとうございます!

作品がよければ作品のフォロー、評価をしていただけるとモチベーションにつながります。

よろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

勇者にこの世から追放された俺は妹の自己犠牲で生き返る〜妹を蘇生するため、全力で魔王討伐を目指します〜 川野マグロ(マグローK) @magurok

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ