第67話 洗脳が効かなくて動揺する発明家
「ん? どうしたのかな? あれ、本当に洗脳が効きすぎるとおかしくなって動かなくなるのか? お、おーい。さっきまで僕ちゃんの話聞いてたよねぇ?」
踊ろうかなんて言われてから、俺たちがいつまで経っても動かないでいると、発明家は不安そうに俺たちに話しかけてくる。
発明家はスキだらけだが、面白いしもう少し見ておこうか。
「あれ? おかしいな。そんなはずはないんだけど、どうして僕ちゃんを尊敬し、敬い、命令に従わないんだ?」
発明家は顔を青ざめさせ、わなわなと震え出した。
いや、そんなことしたくないからなんだが。まあ、言ってしまってはつまらない。
それからも、色々と命令してくる発明家だが、俺たちは黙っていた。
「ど、どうして!? 洗脳が解除されている!」
少しして、ようやく自分の力が効果を発揮してないということに気づいたようだった。
俺からすれば、そんなことはベヒの様子から気づいてほしかったところだ。
「どうしてって、なあ?」
俺が仲間たちを見ると、みながうなずく。
ガイドは知らないが、精神汚染は効かないのだ。
「ベヒはもうだまされない! ラウルさえいればいい!」
「それはどうかと思うけど。それに、ベヒを治したのは俺だからな」
「そう、だよ? ベヒをこんなことにしたのはラウルだよ? さっきのは、よかった……」
何かを思い出すようにぽーっと遠くを見つめ出すベヒ。
「お、おい! やめろ! ほほを染めるな! 変な感じになるだろ」
「ええい! 僕ちゃん抜きでイチャコラしてくれちゃってぇ! ぶっ飛ばしてやる!」
「ほら、あいつ怒っちゃっただろ?」
「ラウルのあれはよかった」
まだ言ってるのか。
俺はそんなに特別なことをしたつもりはないが、ヨーリンのスキル、おそろしや。
そんな、いつまでも発明家を警戒しない態度に、発明家は顔を真っ赤にして何かを叫んでいる。
だが、ちょっと何言ってるのかよくわからない。
何語だろうか。俺の知っている言葉ではない。
「カモン、ベイビー!」
やっと聞き取れた言葉と同時に発明家は指をパチンと鳴らした。
もしかしたら魔法の詠唱だったのかもしれない。
しまった。てっきり変なスキルで操ることしかできないやつだと思って油断していた。
俺はベヒと一緒に周囲を警戒した。
タマミの能力強化も合わさり、今なら何が来ても対処できるような気がするが、特殊な魔法生物となるとその限りではない。だが。
「…………」
いつまで待ってもなにも来なかった。
この建物自体が変化する様子もなく、新しくオリが解放されるようなことも起きていない。
本当になにも起こらない。
「ここにきてハッタリか?」
「違う! 僕ちゃんのウルトラスーパーハイパーギガンティックデンジャラスキマイラちゃんの召喚儀式をしたんだ!」
「うる、なんて?」
「カモン、ベイビー!」
俺を無視してもう一度指を鳴らす発明家。
しかし、またしてもなにも来なかった。
「そんな、来ない? どうして? ウルトラスーパーハイパーギガンティックデンジャラスキマイラちゃん! ウルトラスーパーハイパーギガンティックデンジャラスキマイラちゃん!」
発明家が何度名前を呼ぼうとも、キメラが現れることはない。
「まさか、野生の勘がこいつらを警戒してるのか? こんな女だけのやつらを? ただの人の集まりじゃないか!」
さすがに発明家が動きそうなので、俺は剣を構えることにした。
「く、くそう。脅しのつもりか? こうなったら……」
やはりなにかを企んでいるらしい表情をする発明家。
俺が様子をうかがっていると。
「どうもすみませんでした! 許してください! 僕ちゃんの弟を自称する女の子も許してー!」
発明家は頭を下げてきた。
「は?」
俺はあっけに取られて固まってしまった。
「いや、誰が許すかっての」
「スキあ、ギャッ!」
発明家が攻撃に転じた瞬間、待ってましたとばかりに、俺より早くラーブが発明家のことを叩いた。
発明家はみるみるうちに体を変え、太っていた名残か、ぶかぶかの白衣をまとった女の子になってしまった。
「つまらぬものを切ってしまった」
切ってないだろう。
そんな風に思っているとラーブが俺にピースサインを突きつけてきた。
「攻撃しようとしてたから反撃しといたよ」
それに、こんな指示をした覚えはない。
まあ、助かったのかもしれないが。
「いやぁ。鳥肌もののウザさだったね。こういうのは私も受け入れられないかな。うん。今なら多少マイルドになったけど……やっぱり思い出すと気持ち悪い!」
最後の方が本音だろう。
俺がいつまで経ってもトドメを刺さないで遊んでいるからということだと思う。
まあ、気持ちはわかるが、姿が変わると必ずしも認識されないことを考えると、どうにか見た目を維持できた方が交渉材料にできたかもしれない。が、今となっては仕方がない。
「くそう! よくも! よくもぉ!」
怒声を浴びせかけてくる発明家の声は、見た目に似つかわしく、かわいらしいものに変わっていた。
「ざんねーん。あなたはもうかわいい女の子なの。もっと女の子らしくしなくっちゃ」
喋り方が相当嫌だったのか、さっそくラーブは発明家の矯正を始めている。
効果があるかはわからないが、俺もマシになってくれるといいなと思う。
虚しく響くその声の変化に発明家は悔しそうに地面を何度も叩いていた。
だが、その音さえもペチペチと弱々しかった。
――――――――――――――――――――
【あとがき】
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