新人女神が異世界創ったとか言うから行ってみたけど、俺はこれを異世界とは認めない!

にひろ

素敵な女神様に声を掛けられたら誰だって異世界にいっちゃいますよね

気が付くと俺は白い空間に浮いていた。

一瞬何が起こったのかと心臓が飛び跳ねたが、俺は自分が死んだことを思い出した。

「あ~、そういや俺死んだんだっけ。ま、それはもういいや、思い出したくもないし。」


改めて周りを見るとそこにはなんか立派な椅子に一人の女性が座っていた。


あちらも俺が目を覚ましたのに気付いた様で手招きしている。

俺は近づいていくと一先ずペコリと頭を下げる。

まぁ偉そうな雰囲気だし心証良くしといて損はないだろ。


「気づきましたか、風見鶏かざみどりあずまさん。」

「あ~、え~と、ども。ここは・・・天国・・・って感じでもないですよね?」

俺は改めて周りを見て確認してみた。

本当にどこも真っ白で影も無いし正直段差とか見づらいしで、目がチカチカする。


「ええ、あなたに特別なご提案があってここに呼びました。」


おお、俺この展開知ってるわ。

でも最近バリエーション多いからなぁ、どのパターンだろうなぁ。

俺は情報を得ようと女神様に質問を始めた。


「特別な話って異世界行けとかそんな系ですか?」

「あらあら、話が早くて助かりますわ。実は私、新しく異世界を作ったので、それを試してもらえる良い人を探してたんですわ。」


ハイ当たりぃ!しかし異世界ってそんなDIY的なもんだったのか?

まぁ相手は神様だしそんなとこ聞いてても話進まないからそこは置いておこう。


「なるほど、俺はそこで何をしたらいいんですか?」

「ん~、まぁ特別何をして欲しいわけじゃありません。出来を試したいというか感想を聞きたいというか。そんな程度の事です。簡単なお仕事です。」


なるほど、スローライフ系ね。オーケーオーケー。

俺はついでにお約束の質問をしてみた。


「因みに断るとどうなるんですか?」

「別に普通に処理されるというか、ミンチにされて、他の魂と混ぜられて、引き延ばされてから、一個分の魂として切り出されて、成型されて、地球のどこかで何かの生命として生まれてくることになりますね。あ、でもあずまさんはここで一旦覚醒しちゃったからちょっと痛いかもしれません。」


そう言うと女神様は少し申し訳なさそうにほほ笑んだ。

いや、この女神様すっごい人の良さそうな顔と口調してるのに言ってる事怖いよ!

ていうか魂ってそんな感じで処理されるのかよ!ミートボールか!!


しかも俺の場合痛いとか何なの?あれか?俺が断れない様にとかそんな感じの話か?実は腹黒いのか?


俺が探る様に女神様の顔を見ると女神様は正に女神という顔で微笑み返してくる。

ぐぐ、なんという純真な微笑み。思わず何でも言う事聞いてしまいそうだ。

いや、まぁ折角のこの展開を断るなんて話もないんだが。


俺は女神様の話に乗った様に返事をした。

「分かりました、異世界に行こうと思います。」

「まぁ、それは何よりですわ!」

女神様は嬉しそうに手を打った。笑顔が本当に嬉しそうで、俺は心の底から行く事にして良かったと思った。


「あ、因みになんかスキルとかもらえたりするんですか?」

俺は女神様の笑顔で危うく忘れかけた大切な事を確認した。


「はい!あなたは私の世界の最初の来訪者。特別にステータス上昇速度を高めにしてありますよ!」


おお、これはレベルアップし続ければ俺TUEEEできるヤツか!

これは異世界スローライフ安泰だろ!


「女神様ありがとうございます!!俺、女神様の異世界行きます!そんであっちで新しい人生を楽しんできます!」

「ええ、是非。ではさっそく送らせてもらいますね。私はいつでもあなたを見守っています。頑張ってください。」


そう言うと女神は持っていた杖を俺に向けてかざした。

俺の身体は光に包まれ徐々に意識が遠のいていった。


俺はふと自分の身体に現実感を持った。

ふわふわとした感覚が無くなり、足も地面に立ってるし、全体に重力を感じるというか、手の重さすら感じる様なそんな感覚だ。


「着いた?という事は異世界転移か。」

俺はさっきとはまた違う明るさを感じながら目を開けた。


そこは、土のグランドと高さ4mはあろうかという壁にぐるりと丸く囲まれていた。

「え?何ここ?」


壁の先には段々が連なっており、その先には更に壁が囲っていた。

上には気持ちいい位の青空が丸く切り取られて見えている。


壁には一つだけかなり頑丈そうな木の扉がついていた。


「ここは、コロッセオ?」

そう、俺の記憶に一番近いもの、それはローマにあるコロッセオだ。


なんで俺、こんな所に飛ばされたんだ?

剣闘奴隷からスタートとかそんな話か?

そもそもこのコロッセオ客一人いないんだけど。

それともチュートリアル的何かなのか?


俺の頭の中は疑問で埋め尽くされていた。

ふと気づいて俺は自分の身体を確認した。


なんというか中世の普段着的な雰囲気だ。

靴は革靴、腰には皮のベルトが巻いてある。

そしてベルトの脇には・・・何もない。


何もない、だと?

ちょっと待て。俺がコロッセオに居るとするよな?

状況はちょっと分からんがこれから戦いが始まる可能性もあるって事だよな?

なのに装備は服だけ、だと?


改めて俺は全身を確認したが武器らしきものは何も無い。

マジかよ・・・ていうかこれどういうシチュエーションだよ?

まさか美少女にこんな所に呼び出されて告白されるところ、とか言う事ないよな?



そんな事を考えていると一つだけあった扉がギギギィと音を立てて少し開いた。

その先は暗くて確認ができない。

ただ、俺はここから出て状況を確認するために扉に近づこうとした。


しかし、それよりも早く扉から出て来たモノがあった。

そしてすぐに扉は閉じてしまった。


そこに立っていたのは異世界あるあるの緑の存在。

そう、ゴブリンだった。


ゴブリンはボロイ服を着て小さなナイフを持ってこちらへ近づいてくる。

おいおい、まてまてまて、まさかとは思ってたけどまさかの唐突な戦闘イベ!?

しかもこっちは丸腰だぞ!?


そんな俺の気持ちを一切忖度せずにゴブリンは持っていたナイフで切りかかって来た。


「うお!」

俺は大振りでそれを避ける。

ゴブリンは「ギギギ」とか言ってこっちを睨んでくる。


どうするどうするこれどうする!?

相手はナイフ、俺は丸腰、攻撃スピードは避けられない程じゃないけど当たれば普通に大怪我だ。

どうにかしてアイツのナイフを奪い取るか無効化する必要がある。


俺は一度距離を取るためにゴブリンに背を向けて走り出した。

それを見てゴブリンは何やら嬉しそうな声を上げて追って来る。

怖え!ナイフ持ってる小鬼に追いかけられるとか初めての体験だけど、普通に怖いわ!誰だよゴブリンが雑魚とか言ってるヤツ!!


俺はとにかく走りながら何か使えるモノはないか周囲を探す、が、石一つ落ちてない。どこも整ったグランドの様に平らな土しか見えない。

周りの壁が崩れてるとかもない、出来たてみたいなコロッセオだ。


何か、何かないか?

俺は改めて自分の装備を考える。

服を脱いで目隠しに使う?靴を脱いで靴裏で止める?ベルトで腕を巻き取って防ぐ?


よし!俺は決心を決めるとゴブリンに向き合ってベルトを外し、靴を脱いだ。

そして靴を左手にはめて裏でナイフを受け止める様に構え、反対の手でベルトを鞭の様に構えた。

「こいやあぁぁ!!」

「ぎぎぁあああ!!」


やる気の俺を見てゴブリンはチンピラよろしく両手持ちで腰だめに突っ込んで来る。

やっぱ怖えー!!

俺は思わず横に避けると運よくゴブリンの意表を突いた様で、残った俺の足に引っかかって転んだ。


こここ、これはチャンスだ。

俺は慌てて転んでうつ伏せになったゴブリンに馬乗りになった。

ってどうすれば良いんだ?そうだ、ベルトだ!ベルトでクビを閉めるんだ!!


俺はベルトを素早く首に巻いて力いっぱいベルトを絞った。

「うおおおおお!!!」

「きしぃぃ、ひぎぃぃ。」

ゴブリンは息の抜ける様な声を出しながらベルトに手を掛けようともがいている。

そしてその手からナイフを手放していた。


俺はすぐにベルトを片手で持ち直し、膝でゴブリンの首裏を押し付けながらナイフを拾って裏手に持つと必死に頭を刺し続けた。

その手にはゴッゴッっと堅い感触が伝わってくる。俺は硬いとか気持ち悪いとかの感想をできるだけ持たない様に一心不乱にナイフを振った。


すると遂にゴブリンがぐったりとしてから黒い灰の様になって消えていった。

勝った?勝ったのか?

俺は荒い息をしながらゴブリンの居た場所をジッと見ていた。


「ヤベー、ヤベー、ヤベー。」

口からずっとヤベーって言葉が漏れ続ける。

俺は生き物を殺すという初めての体験で全身が震えていた。

震える両手を見ると持っていたナイフがいつの間にか消えていた。


しばらくするとポンッと音がして目の前に2つの半透明なウィンドウが表示された。

俺が何かと思ってみるとそこには日本語で文字が書かれていた。

右にはゴブリンダガー、左にはゴブリンの興奮剤。


そしてその下にはそれぞれ説明があった。

ゴブリンダガー:装備品

ゴブリン愛用のダガー

攻撃力がほんの少し上がる


ゴブリンの興奮剤:消耗品

ゴブリンが戦闘の前に使う薬

使うと一時的に身体能力が向上する


更によく見るとウィンドウの間に49の数字が出ている。というか徐々に減っている。


「なんじゃこりゃー!!!ちょっとまてやー!!!」

「あずまさん、おめでとうございます!ゴブリン折角倒したんだし、早く選ばないと無くなっちゃいますよ!」

「うお!?なんで女神様が!?」


「いやですわ。いつでも見守ってると言ったじゃありませんか。」

「それってそう言う事かよ!!」

「というかもうあと10秒ですよ?」


ていうかこれカウント0になるともらえない雰囲気か!?

ナイフかステータスか!ステータスアップは魅力だが消耗品、ここはとにかく武器だろ!

バシーンという音と共に俺は残り2秒でゴブリンダガーを選択した。


すると『本当によろしいですか はい/いいえ』というウインドウが表示される。


ってバカバカ!時間ねぇだろ!

俺はコンマ秒で『はい』をグーで選択する。


一瞬の静寂の後、ゴブリンダガーが空間から落ちて来た。

どうやら間に合ったらしい。

いや、今のは危なかった。油断してたら瞬殺だったわ。

ゼハー、ゼハー。


「もう、危ないですねぇ。60秒過ぎたらまた丸腰でしたよ。」

女神様が少し気づかいのある言葉で注意してくる。


「いや、待って。というかなんだこの状況は?ここは異世界なんだよな?」

「そうですよ。私が作りました。」

なんかエッヘンとでも聞こえそうな自慢げな声。


「あれか、今のは中途リアル的な戦闘でこれから外に出られるのか?」

「え?外、ですか?というか次が始まりますよ。」


俺が扉を見ると、そこにはどう考えても俺の腰程の高さのある黒光りする立派な毛並のオオカミが出てくる所だった。

「ちょっと待て待て!なんで連闘しないといけないんだよ!?てかどんな状況だよ!?」

「大丈夫!傷や体力は全快してますから!!」

「いや、そういう話じゃねぇよ!」


「ほら、来ますよ。よそ見しない。」

「くっそー!!!」


それから20分。俺は靴を手に被せ、更に服を巻き付けてわざと噛みつかせ、さっきのゴブリンダガーで何度も刺してどうにかオオカミを倒す事ができた。

こっちも爪で引っ掻かれたりと全身傷だらけだが、それ以上に肉を切り裂く感覚がずっと手に残って何とも言えない気分になる。


日本に居た時は害虫程度しか殺さない平凡な生活だったのに。

一体なんの因果で。


「なんなん、だよ。ゼハッゼハッ。」

そんな俺の気持ちは全く無視されて肩で息をする俺の前に当然の様に2つのウィンドウが表示され、待ったなしでカウントを刻んでいく。


ファングチャーム:装備品

オオカミの牙で作った首飾り

攻撃力と幸運がほんの少し上がる


ウルフファーウェア:装備品

ウルフの毛皮で作った服

防御力がほんの少し上がる

寒さに対する耐性が少し上がる


残り52秒


「おい、女神!これずっとこんな感じで続くのかよ!?」

こんなクソな世界作る奴に様はいらない。俺は女神様改め女神に質問する。

「そうですよ?異世界ですから。」


クッソっがぁ!

こんなのが異世界でたまるか!!


残り31秒


どっちだ?防御力がほんの少しってどれくらいなんだ?

これから出てくる敵はどんな奴なんだ?


「次の敵は!?」

「うふふ、それは秘密です。楽しみがなくなっちゃいますから。」


楽しくねぇんだよ!!ぜんっぜん楽しくねぇんだよおおおお!!


残り11秒


「ちっくしょー!」

俺はファーウェアを選択した。


「ていうか今の異世界の流行りはスローライフだろ!なんでこんな殺伐として、というか殺りくしかない世界なんだよ!!」

「私、成りたてなので、まだ大きな世界が作れないんですぅ。」


「こんな殺し合いしかない世界に誰が来たがるんだよ!」

「え?あずまさんは来てくれたじゃないですかぁ。」

「いや、知ってたら来ないわ!」

「ガ~ン。」


いや、ガーンって。意外とお茶目さん?

とか言ってる間に扉が開いてる!!


「あの~、次回は頑張りますので是非改善点を教えてください。」

「改善点しかないわ!!」

とか言ってる場合じゃない。なんかさっきより装備のいいゴブリンが2体出て来た!?


「あ、ラッキーでしたね!これはドロップ美味しいですよ!」

槍持ちと剣持ちにラッキーとか言えないわ!!こっちゃダガー1本だぞ!?


俺は足を使って2体をどうにか分断し、満身創痍になりながらゴブリン2体を討伐した。毎回回復してるとか言っても精神の休まる瞬間がねぇ。


俺の目の前には相変わらず待ったなしでウィンドウが表示されている。

しかも今回は四つだ。


ゴブリンソード:装備品

ちょっとエライゴブリンがもらえる鉄の剣

攻撃力が上がる


ゴブリンシールド:装備品

ちょっとエライゴブリンがもらえる木の盾

防御力が少し上がる


ゴブリンスピア:装備品

ゴブリンが門番をするときに持てる槍

攻撃力が上がる


ゴブリンヘルム:装備品

ちょっとエライゴブリンがもらえる鉄の兜

使うと一時的に身体能力が向上する


残り55秒

0/2


「なんだ、この0/2って?」

「あ、2体倒したから2つ選べるんですよ!お得ですよね!!」


いや、確かにお得だけど・・・。

「なんで選択秒数が同じなんだよ!?」

「ダメ、ですかね?」

なんか上目遣いしてそうな声で女神が聞いてくる。


「初見4つ並んだら選べんだろが!」

そう言いながら俺はソードとシールドを選択する。

って選ぶ度に確認ウィンドウでるのかよ!


「さすがですあずまさん。次回の参考にします。」

「いや、次回じゃないくてすぐ対応しろ!!」

「っひ、そう言われましても、なにぶん成りたてなものでして。」


俺は頭を押さえて大きくため息を吐いた。

取り繕う様に女神がいいわけをする。

「あ、でもでも、今までの神様の中ではかなり早く世界を作り上げた方なんですよ!?最古の神様も褒めてくれましたし!」

「いや、それちっちゃな子が砂場で山作れたとかそんなレベルで褒めただけだろ?」


俺はあまりに小さいこの異様な世界を見渡して再度ため息をついた。


じっくり説教する間も無く次の敵が現れる。

お次はどうやらスケルトンらしい。古びた剣と盾を持ってカシャカシャとこちらへ歩いてくる。


スケルトンはスピードが遅く攻撃をしっかり見れば十分戦う事ができた。

心なしか俺自身のステータスも上がってる気がする。

だが、剣の扱いになれない俺は何度も叩いて硬い骨を削り、ダメージを無視して振って来る剣を避け、を繰り返してどうにか倒す事ができた。


体幹時間約30分。ずっと動きっぱなしだった俺はすぐに大の字になりたい気持ちだったが、どうにか堪えてウインドウを確認する。


スケルトンソード:装備品

所々サビてる鋼の剣

攻撃力が上がる


魂の断片:消耗品

戦闘中の攻撃をダメージ分肩代わりする

すぐになくなる


残り56秒


クッソ―、少しとかすぐにとか抽象的な言葉が多すぎる。


「おい、俺のステータスとか確認できないのか!?」

「あずまさんだんだん言葉の掛け方が怖くなってるんですけど。」


ちょっと怯えた様な女神の声が聞こえる。

ったりめぇだっての。こんな世界いたら心が荒むわ!


俺から返事が無いのにしびれを切らして女神がおずおずとしゃべり始める。

「能力が数値で見えたらちょっと面白くないかと思って作ってません~。」

「不便だ!作れ!!」

「は、はい~。」


残り8秒のところで俺は魂の断片をはたく様に選ぶ。


「っていうかなんでこんな世界にしたんだよ!まだ庭と家とペットがいるだけのほのぼのワールドの方が心休まるわ!」

「そ、それはですね、私が担当する事になった日本には『ばとるじゃんきー』が一杯いるって聞いてですね。それならこんな世界なら皆さん満足するかな、と。」


その言葉に俺は自分の前世を思い出した。


俺は確かにFPS系ゲームばかりやってバトルジャンキーを自称していた。

それか!それで俺が選ばれたのか!!


そりゃ俺FPS好きだよ?バトルジャンキーだったよ?

でも、俺RPGもやってたじゃ~ん。

ギャルゲとかもやってたじゃ~ん。


俺は地面に突っ伏して自分の前世を深く後悔した。


「立って!立つのよあずまさん!次の敵が来ましたよ!」

顔を上げるとそこには鎧を着込んだスケルトンが出てくるところだった。


「この世界は!この世界は俺に3分程の心の潤いすらくれないのかああぁぁぁ!!」

俺は泣きながら敵に向かって走り始めた。


もう俺はヤケだった。

容赦なくスケルトンの骨が見えてるところに攻撃を与えながら次々と削っていく。

そして遂に鎧を手に入れた。


それからはもう遮二無二敵を倒して行った。

ファンガス、オーク、リザードマンそしてオーガ、単体から複数体まで。

俺は度々傷つき死にかけながら戦い続けた。


装備品が徐々に立派になり、使わなくなった装備アイテムが地面に転がっている。

装飾系アイテムがゴテゴテと増えていく。身に付けられない消耗品も増え、所々に配置しておく。


「ついに、あずまさんもこの世界の魅力に気づいた様ですね。」

黙々と敵を倒す俺に勘違いして女神が声をかけて来た。


「んなわけないだろが!!というかこの狭い世界でどうやって他の人呼ぶつもりなんだよ!?どう考えても1人用だろ!?」


その質問に女神は待ってましたとばかりに手を叩く、音がする。

「そこについてはナイスなアイデアがあるんですよ!」


俺がアイテムを選びながら訝し気な顔をすると女神が嬉しそうに種明かしをする。

「ふふふ、この世界に転生した皆さんで対決するんですよ!どうです、ワクワクしませんか!?」


こ、この女神、なんて恐ろしい事を考えるんだ。

俺は人間同士で殺し合う場面を想像して身震いした。


「しねぇよ!ていうかそんなバトルロイヤルな世界誰が来たいんだ、このダ女神!」

「え?ふええぇぇ!?だってだって、みなさん『ぴーぶいぴー』っていうのが大好きなんですよね?」


俺の秒の返しに泣きそうな声で返すダ女神。

こいつ、一体なんでそんな結論になるんだ・・・情報が半端過ぎるぞ・・・。


「そんなのゲームだから楽しいだけで、リアルに殺し合って楽しいわけないだろ!?いいか?絶対他の人ここに呼ぶなよ?絶対だからな?振りじゃないからな?」

「そんなそんな、折角創ったのに!?」


「ここに来て幸せになれる奴はいねぇ。というかお前もしかして恨みを集めてるとかそんな邪神てき存在じゃないだろうな?」

「ち、違いますよ!失礼な!!私は皆さんに第二の人生を楽しんでもらえる様に自分のできる範囲で一生懸命考えてこの世界を創ったんですよ!」


俺は遂に出て来たミノタウロスと戦いながら女神に説教をしていた。


「こんな心休まらん世界楽しめるわけないだろ!?大体休憩もなく戦い続けたい奴がいるとか思ってるのか!?」

「あずまさんは徹夜して1つのゲームをエンドレスでやってたじゃないですか!一生これで生きてけるかもって言ってたじゃないですかぁ!」


「ごふぅ」

俺は思わずミノタウロスの一撃を喰らった。

魂の断片が砕け散る。


「こ、こころの安らぎっていうのが必要なんだよ!ずっとやってる様に見えても安らぐ時間があるからできるんだよ!」

「あずまさんは敵と剣を交えてる時が安らぎだって言ってたじゃないですかぁ!」


「ぐはぁ」

ミノタウロスは強い。

真正面で受けた俺の盾がひしゃげてる。


こ、このダ女神。ああ言えばこう言いやがって。


「そんなの一時の気の迷いだから!ゲームだから!リアルでこんなに戦い続けたい奴なぞおらんわ!実際に人が求めてるのはポテトカウチな人生なんだよ!だらけた人生が求められてるんだよ!!」


俺は思いを乗せた一撃でミノタウロスの頭をカチ割った。


ミノタウロスの戦斧:装備品

ミノタウロスの持つ両手武器

重いが強い


ミノタウロスの角笛:アイテム

ミノタウロスの角から作った笛

吹くと攻撃力が少し上がる


残り59秒


俺は迷わず角笛を選択した。


「そうだったんですね!てっきり皆さんゲームをやりながらブツブツとそんな話をしているので、ゲームの様な世界に憧れてるのかと。でもカウチポテトな世界ならできる気がします!!」


そうか、ようやく解ってもらえたか。

俺は肩の力を抜いて女神に優しく言った。

「それなら良かった。んじゃ俺をそっちの世界に運んでくれ。」

「それはできません!」

即答である。


「な、なんでだよ!?女神だろ!?」

「私の創った世界とはいえ、送り込んでしまった以上、できるのは助言程度なんです。」


俺は助言らしきものすらもらった記憶のない過去を思い返す。

「マジかよ?俺は一生このままこの世界で戦い続けないといけないって事なのかよ?」


俺はオーガ3体を裁きながら自分の運命を呪った。


「す、すみません。でも1つだけ方法があります。」

「おお、なんだ!?もしかしてもう一回死ぬとかか?」

「いえ、それだと魂が切り刻まれてこの世界の魂に取り込まれるだけです。そうしたら永遠この世界のモンスターとして転生し続けます。」


おいおいおい、折角希望が見えてきたところで最高に怖い話持ってきたよこのクソ女神!?こんな無間地獄に日本の皆さんご招待するつもりだったのかよ!?

絶対死ねねぇ!!!


俺は一太刀で2体のオーガを屠ると残る1体の額にドンピシャでダガーを投げつける。

オーガソードは日本刀みたいに切れ味が抜群だ。


「この世界の最強種魔王を退治すると女神の祝福として一つだけ願いが叶えられます。その時、さっきのカウチポテトを願ってください。その時までに私はカウチポテトな世界を完成させます!!」


「約束だぞ、クソ女神!?」

「約束します。それが果たされたら、その呼び方は止めてくださいね?」

クソ女神がちょっとしょんぼりした声で要望を出す。

「わーったよ!そんときゃ感謝で信仰心深く拝んでやらぁ!」

「はい!頑張ります!!」


それから俺は永遠一人で戦い続けた。

コカトリス、トレント、デビル、ゴーレム、ワイバーン、デーモンそしてドラゴン。

俺は装備を強化し、魔法を覚え、ステータスを上げまくった。


そして俺は魔王を討伐した。

コロッセオが壊れんばかりの攻防、空間がねじれんばかりの魔法の応酬、絡めてと読み合いとブラフでの化かし合い。

お互いにミスに付け込み、裏の裏を裏返し、遂に俺は魔王に力押しの一太刀を刺し入れ魔王を討伐した。


この世界に時間の概念は無いが、俺は多分半年以上は戦い続けていただろう。

しかも24時間休みなくだ。


そして現れた待望のウィンドウ。


女神の祝福:祝福

女神に自身の願望を願い実現する事ができる。

最強の武器や防具、魔法に能力等思いのまま。


残り60秒


「ついにやり遂げましたね、あずまさん!こちらの準備は万端ですよ。」

いつの間にかいたのか、女神が俺に語り掛けて来た。

「ああ、本当に、本当に遂に、だ。」


俺は今までの戦いを思い返して胸が熱くなった。

遂にこの世界から出る事ができる。

俺はウインドウをタップし、噛みしめる様に願いを口にする。


「俺を、俺を幸せの世界、カウチポテトの世界へ、転生させてくれ。」

ウィンドウが光り、俺を包み込む。

「あなたの願い、聞き届けましょう。」


こうして俺は新たな世界へと転移した。

ただいま俺、終わりなき堕落の世界へ。



「まぁなぁ。確かに間違っちゃいねぇよ?間違っちゃいねぇけど、すっごい間違えてんだよなぁこのダ女神!!」

「そ、そんなぁ!だってだってあずまさんカウチポテトって言ったじゃないですかぁ!!しかもお祈りしてくれるって言ってたのにぃ!!」

「うっさいダ女神!!人間様の求めるカウチポテトってのはこんなシンプルかつ何もできない世界じゃねぇんだよ!!」


俺はテレビの前でソファーに鎮座するポテトになっていた。

なんでもそんな絵ばっかりだったらしい。


しかもご親切に置いてあるポテトチップスを運べる腕付きだ。

冷静に考えてこれ共食いじゃね!?


俺は腐るまでテレビをみてポテトチップスを食べ続ける人生を歩む事になった。

まぁ歩けないんだが。


― おしまい ―

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