『克己心』という言葉があります。剣道をやっていた人ならば、ほぼ例外なく手拭に書かれたこの文字を目にしたことがあるでしょう。
文字通り、己に打ち克つ心を磨けという教えです。
現代において、武道は自己の鍛錬の道とされています。つまり、自らのために剣を取り、自らのために稽古をし、自らのために剣の道を修めろということです。
……しかし、時に思うのです。剣とは、誰かを守るためにこそ振るうものではないのかと。
もちろん、「誰かのために!」と声高に叫んだり、力を振りかざすことを目的にするのはただのエゴであり、褒められたことではありません。
けれど、幾多の物語でも語られるように『守るもの』や『背負うもの』がなければ、それもまたエゴではないかと思います。
「剣道は一人でも稽古が出来る」といわれる一方で、「剣道は二人いないとできない」という風にも言われます。
これは二律背反でしょうか。否、たとえば恋と愛のような両輪だと私は考えます。
自分の中にしか軸のない片輪の剣は、それ以上先には進めないのです。
たとえそれが、下心からはじまるものであっても。
学び、反省し、改めていくことで、いつしか轍は重く強く刻まれていく。
故に、武は道なのだと思います。
作者様が剣道未経験者と知り、おどろきました。
ただでさえ剣道の試合は、初心者が見るとちんぷんかんぷんです。大会の応援に来た保護者の方は、まず自分の子供が一本取ったのか取られたのかがわからないくらいです。
そんな小難しくて面倒な剣道を題材に選ぶなんて……(笑)
ありがとうございます。一人の剣士として、光栄に思います。
無駄な展開は一切なく、青春が凝縮されたような物語です。
特筆すべきは文章!
とにかくストレスなしでずんずん読み進めることができるので、一旦読むのをやめるということが難しいレベルです。
そんな感じで読み進めると、自分の心の中に主人公の存在が生まれてくるという感覚を味わえます。
主人公と一緒に季節を巡っていく感覚に陥るのです。
こうなると、もう物語から離れるのは至難の技!
次へ次へと読み進めることになります。
剣道の物語ですが、描写は的確で知識はいりません。
むしろ、知らない方が没頭できるかも。
剣道を通して主人公と一緒に高校生活を味わいましょう。
剣道という競技がある。実際に経験したことがなければ、その緊迫した雰囲気や静の中での読み合いを知ることはないのかもしれない。
これは、そんな剣道に真っ直ぐ打ち込む高校生の恋あり剣ありの青春物語であろう。
焦がれる先輩への告白、想いを寄せるクラスメイト、それから……と、多彩で魅力的なキャラクターたちと共に織り成す部活に青春を捧げる高校生の姿は、どんな競技であれ眩しいものである。
インターハイという大舞台と、そこにある駆け引きにライバルとの戦い。この作品には青春のすべてが詰まっていると言っても過言ではないだろう。
剣道を知る人も、知らない人も、この青春を覗いてみませんか。
ぜひご一読ください。