over extended.

over extended.

 夕方。


「よぉ、悪魔」


「来たな、世界1位の偽物。いや本物か」


「どっちでもいいし、結局おまえに勝てなきゃ1位じゃないし」


「たしかに、そうだね」


 階段を上がって、筐体に向かう。順番待ちが必要ないほどに、筐体は置いてあった。そのなかで、2階には。ふたりだけの、専用筐体がある。


「大人気だね。新作」


 下は、活気があった。


「まあな。俺が大会で大活躍したおかげだな」


「ぼろぼろだったくせに」


 すぐに筐体には座らず、メインボードを見る。この前の大会の内容が、流れていた。


「お。俺の、この前の戦い」


「攻守の切り替えが、今までになくなめらかだよね」


「もう、なんというか、そういうのに気を配ってる暇がなかった。ペダル踏んで、敵がいたらトリガー押して、みたいな感じ」


「無我の境地じゃん」


「再現できなさそうなんだよなぁ」


「ここは静かだもんね」


 2階には、1階の活気は伝わってこない。照明も、暗め。


 サイドボード。

 ふたりして、なんとなく。情報が切り替わるのを待ってる。


「わたしね」


 対コンピュータ戦の、スコア。まだ出てこない。


「両親と会った」


「そうか」


「なんか、拍子抜けだったよ。わたしの本名。リネイシャ・ディミトディオ・オルソベルナス、っていうんだって。ぜんぜんいみわかんない」


「そうか」


「片言の日本語でさ。オオ、ワガムスメヨ、アイタカッタゾ、みたいな。わらえる」


「そうか」


 サイドボード。対コンピュータ戦のスコアに、切り替わった。


「なにこれ」


「おまえが来るまえに、塗り替えておいた」


 上位のほとんどが、alternative7804。


「後で更新しておかなきゃ」


「やってみろよ」


「そのまえに、本体倒さなきゃだね」


「望むところだ。おまえを倒して、本物の世界1位になってやる」


「あなたはわたしに勝たない限り偽物なのよ」


 筐体に座って。

 なんとなく、動きを確認する。


「出ていくのか。この町から」


「それも考えたんだけどね」


 ログイン。


「ここにいようかなって、思ってる。安全らしいし。あのいやな慣習から産まれてきてないって分かっただけで。ちょっとは、ましになった。いやなものはいやだけどね。しかたない」


「そうか。まぁ、よかったな」


「うん」


 戦闘準備完了。


「あなたは」


「俺はここにいるよ。人少ないってのが、最高の条件だし。町長も許可済み」


「そっか。じゃあ、とりあえずわたしの部屋に来てね」


「玄関にあるベッドをどかせっていうんだろ」


「正解」


 5。


 4。


 3。


 2。


 1、


「ありがとう。ここにいてくれて。俺と会ってくれて」


「ありがと。わたしのために戦ってくれて」


 戦闘開始。




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サイドボード (Hi-Sensitivity) 春嵐 @aiot3110

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