大樹横断~タイジュオウダン~
黒白 黎
エルム1
巨大な植物に覆いつくされた建造物。
地表から見てもどれくらいの高さまであるのかわからないほどだ。
「なぁー」
渇いた声で隣で座り込んでいる少女に呼びかける。
「んー?」
「俺達、いまどこにいるんだろうなぁー」
「さぁーね。そもそも、わたしらもどこにいるのかさわからなねぇんだ」
気づいたら、透明の液体まみれで地べたに倒れていた。ぬめりもなければすべやかでもない。暖かくもなければ冷たくもない。そんな液体が身体を濡らしていた。
振り返ると人が一人分ほど入れるほどの大きなガラスケースがあった。誰かが割った…いや俺が割ってきたんだとわかった。
立ち上がるまでずいぶんと時間がかかった。体のパーツというものはどういう風にして動かしていいのか、どうやって前に進めるのかと試行錯誤して、ようやく理解して前に進めれるようになった。
鏡が天井や壁、床すべてに張られた部屋に入った。
中には誰もいないが、なにかに見られるような気がして、早々に立ち去った。
長い通路を歩いて、小さな部屋に入った。
そこは、かつて誰かがいたのかもしれない。その名残か古い日誌と”七味食”と書かれた缶詰を発見した。59.05.11と書かれていたが、今は何年なのか何年前なのか分かることはできない。壁に掛けられたカレンダーからは48.07と書かれている辺り、まだ平気そうだ。
拾った日誌はとても読めたものじゃなかった。ちんぷんかんぷんでこれを書いた人は相当字が下手だったらしい。
「つぅーかぁ、なんだこれぇ。よめねぇーしぃ」
捨ててしまおうかと思ったが、「くぅっくぅっくぅっ、おもしれぇーな。かいどくぅしてみっかぁ」と、これを書いた誰かはきっとなにか急いで書き残したものがあったのだろうと思った。これを解読してみたら、きっと自分自身やこの建物についてなにかわかるかもしれないと、思った。
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