エルム2
長い通路を進むと、扉があった。とても大きな扉だ。人が肩車をしても余裕で通り抜けられる。それよか、ここはいったいどこなのだろうか。
”七味食”と書かれた缶詰を開けてみた。中には袋に入った四本の硬いものが入っていた。
「これぇ、くえぇんのか?」
袋を破り中身を取り出す。
「あーー…まっくろぉ…」
黒く変色してしまっている。においをかぐが、なにもしない。
腹も減ったし、食べるものがこれ以外に見つからない。
しかたがない。これでも食べるか。
思いっきり噛みついた。粘土でも食べているかのような不可解な感触。なによりも舌触りが砂を口にいれたみたいで最悪だ。吐き出そうとも考えたが、背に腹は代えられない。
無理にして飲み込んだ。味は甘くもあれば酸っぱくもある。不思議な味だが、二度と口にしたくないと思った。
「まじぃー。なんだぁーこれぇ。くえたぁもんじゃねぇーなぁ」
捨ててしまおうかと思ったが、古い日誌と同じように、他に頼れるものがないのなら取っておこうとおもった。
「たべれぇるものをぉ、のこしぃておけぇよなぁー」
不満を漏らしながら、扉を開けようと手に取った。
「あれぇ?」
首を傾げる。扉が開かない。
それもそのはず。この扉は電気で動いている。電気がない今、この扉は鉄の壁となって素直に通してくれない。
「扉は、ひらくのが仕事だろぉ? ひらけぇよ、クソ扉がぁ」
メキメキと拳が肥大化した。思いっ切りグーパンチで扉を叩きつける。
軽く浮かび上がり一回転したのち、地面に叩きつけられた。
恐るべき一撃。2メートルほど厚さがある扉を片手で吹き飛ばすとは、なんという奴だろうか。
「あぁー…こぉうでなくっちゃなぁー」
くぅっくぅっくぅっと薄笑いを浮かべながら、出口に向かって歩いていった。
出口につく最後の部屋で、最悪な事故が起きた。
「なぁんだぁー?」
突然、空から降ってくる液体が入った瓶。こんなの避けるのは簡単だ。ずいぶんと避ける時間がある。だが、彼はそうとはしなかった。先ほど扉を吹き飛ばした興奮が冷めることがなかったからだ。この瓶も俺のパンチがあれば壊せる。そう確信した彼は思いっきり拳を肥大化させ殴った。
ぱっきーんと割れると同時に瓶が割れ、液体が彼に注がれるようにして雨のように降った。
顔や体、手足に液体が吹きかけると、彼は転がるようにしてのたうち回る。
「いてぇーいてぇーよぉおおお!!!」
彼が浴びたのは表面を焼いてしまう恐ろしい液体だった。脱走した人たちを外に出ないようにと仕掛けてあったものが長い時間をかけて作動したのだ。
「いてぇーよぉ、いてぇーよぉ!!」
生まれて間もない産声を上げる。先ほどから聞いている辺り、彼はまだ未熟のようだ。それでもちゃんと話せている辺り、そこまで劣っているわけでもない。
「あぁーなんてぇ、やつだぁー」
顔をおさえながら、彼は最後の扉を殴って壊して外へ出た。
彼の顔や体、手足は皮膚がただれ、酷い火傷を負ってしまっていた。彼はその姿を鏡に写り込むと同時に、鏡を粉砕した。痛みと共に不甲斐ない自分がやらかしたミスを呪った。あのとき、避けるべきだった。なのに、避けず破壊するという手を取った。彼が選択したのは、自分の体を焼くという大きな代償だった。
コンクリート建造物が立ち並ぶ大きな場所に出た。お日様が差し込んでいるのか、屋外に出られたようだ。片目は解けてしまい、開くことができなかったが、もう片方の目を辛うじて開けると、そこは緑色に侵食された建物が見えた。そして、そこに緑色に染まった液体まみれの少女が座っていた。
「まっていたぜ。久しぶりすぎて、随分と見た目を変えちまったな」
「だぁれぇ?」
「私の名はノクターン。かつてここで働いていた研究者だ」
「しらねぇーなぁ」
「それもそうだ。君は博士でここの最高責任者のひとりだ。そして、実験のため自ら実験体となった。名は、エルム。私の上司だった男だ」
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