ノクターン1

 静かだ。鳥のさえずりでさえ聞こえない。窓の外が恋しい。

 ずいぶんと時間がたってしまったようだ。窓は緑に覆われてしまい、外の景色を見ることができないほか、緑が中まで侵食してきていた。

「ずいぶんと待たせるぜ」

 彼女は、牢屋の中にいた。檻はすでに錆びついており、ちょっと揺らすだけで簡単に折れてしまうほど錆びついている。それなのに、彼女が出ない理由は、誰かを待っている。

「すこし、探してみるか」

 彼女がいつからここにいるのかはわからない。だけど、カレンダーを見る限り30年以上は経っている。

「あー、崩れていやがるのかー。めんどうーだな」

 地上へ上るれるはずの階段が崩壊してしまっている。そのうえ、上の階層から滝のように水が滴っている。

 彼女が待っている人はおそらくこの上にいるはずだ。階段が崩れたことから、他の道を探して迷子になっているのかもしれない。そう思い、別の道を探すことにする。

 緑がすっかりと扉を塞いでしまっている。樹の根っこのように図太く膨らんだ根っこは彼女の力でさえも無事に通らしてはくれないようだ。

「まったく。人を待たせるわ、壊すわ、通さねわ。意地が悪いぜ」

 彼女は指で”炎”となぞるように書く。すると、突然緑が燃え出したのだ。バキバキと燃え、音と共に緑が黒ずんでいく。彼女がようやく通れるころには緑は黒い煤となってしまっていた。

 部屋を出ると少し広めの空間に出た。

 壁には壁紙が飾られていたであろう痕があったものの、すべて上を残して消えていた。

 彼女はそんなものに興味を抱くことなく、上へと続く道を探す。

 長い通路の先で上へ進めれるエレベータと階段を見つけた。エレベータは3つあったが、2つはとうに壊されており、扉を開けたさきにはなにもなかった。1つは辛うじて残っていたが、電気がないためか動く気配すらない。

 階段は「詰んだな、これ」と言わんばかりに崩落していた。瓦礫が積み重なり、道をふさいでいる。

 彼女はエレベータのところに戻り”雷”と文字を書いてエレベータを動かそうとした。ガキンと音の後、ブーンと音が鳴り、扉が開いた。

 しかし、彼女は入るのをためらった。

「安全そうだが、いや、違う道を探すか」

 他の道を探そうと引き返した。そのとき、復旧したはずのエレベータが突然、ドーンという音ともに中身の箱は下へと落ちていった。ガシャーンと音がしたのはすぐだった。

 彼女は「やはりか」と思った。電気で復旧したとしても安全性がない。ましてや廃墟のように廃れ、階段が崩れている。エレベータ2つが動かない時点で、安全という言葉は当の昔に消されちまっている。

 彼女の判断は正しかった。

 他の道を探していると、上へつながる糸が見えた。何かの回線かそれとも地下に埋もれていたチューブか、何重にも重ねたそれは大きなローブとなって吊るされていた。

 そして、吊るされていた下に、白衣と共に骨が転がっていた。

「なんだよー人を待たせておいて、先にいったのかよ」

 彼女はそっとその骨を抱きしめた。すでに風化していたのか骨は砂となって散る。

 彼女は上を見上げた。彼が最後まで彼女を助けようとローブを吊るしてくれたのだ。彼女は「ありがとうな」と感謝を述べ、ローブを握って、頂上へとよじ登っていった。

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