テソーロ王城、逃亡!

 僕らが担当するエルフたち、すべてと接触が完了した。

 幸いなことに逃げることには同意してくれて、僕やセンニが助けるというところに不満を持つ者はいない。

 変なところでプライドを持たれていたら困ったけど、そこは実利を取ってくれた。


 今は城の二階の廊下に僕らは座っている。


「かんぺきぃ~。ウチってば、潜入の才能マジあるかもぉ」

「そうだね。気配がわかるわけだし、自分の気配消せればいけるかもよ」

「それならロモロ君と組んで、大怪盗コンビってやりた~い」

「大怪盗はちょっと……」

「え~。でも、義賊で悪いやつらから盗んでばらまくのって格好良くなぁい?」


 面白そうではあるけど、どっちにしろ盗みは向かないな……。


「さて。あとは地下側がどうなるかだね」

「地下区画は魔法使えないらしいから、定期交信も少し時間がかかりそう」


 むしろ、こっちが上手く行きすぎた気もするな。

 正確な時間がわかるわけじゃないけど、予定よりも早かったはずだ。


「時計がほしいな」

「時計ってあのおっきなやつぅ?」

「建物につけるような機械式時計は大きすぎるから……携帯できる時計だね。そうすれば時間を合せられるし」

「ふーん」

「センニは一定間隔で光る石とか、そういうの知らない?」

「どうだったかなぁ……」


 何かしら、一定間隔でエネルギーを放出しているものがあれば、それを軸に時計は作れるようになると思うんだけど……。

 まずは素材が見つからないと無理だよねぇ。でも、ゼンマイ式ならできるか?

 こういう任務なら、そんなに時間をかけるわけでもないし。


 そんなことを考えているうちに、アマートから通信が来る。


『OK、Q』


 ……NGではない。

 Qは救援要請!


「センニ行くよ」

「りょ。どこ行くの?」


 その前に、エルフたちの逃走の合図を送る!

 このケースの場合の合図はこれだ!!


 僕は窓から見える庭園に向けて、手をかざす。

 マナを集めて魔力を作り――爆発をイメージ!


 庭園で派手な音と共に爆発が起こる。

 俄に巡回する兵士たちが庭園へと集まり始めた。


「このケースはなんだっけぇ?」

「エルフが揃って部屋を出て、土を見つけたら各自そこから目的地に向かって逃げる。だいたい十分くらい地中に潜る感じだね」

「なるー」

「このケースはあんまり想定してなかったな……」

「ま、大丈夫っしょ~。腐ってもエルフの中では戦闘が優秀なわけだしぃ」


 タルヤ様の近衛兵という立ち位置だったわけだしね。

 連携さえ取れていれば、一般兵士に当たったくらいならどうにかなる。


 そして、救援要請ということは、地下はおそらく魔族か何かと当たったはずだ。

 地下で魔族を引きつけているなら、エルフたちを妨害できる敵はいないはず。


「合図は送った。あとはこっちが動くよ。センニ、二階から一階、外まで降りてくれる?」

「オッケー」


 センニに手を引っ張られて、僕は窓から落ちた。

 しかし、センニはピタッと着地し、僕を受け止めてくれる。


「ははっ。ロモロ君、かる~い」

「これでも重くなったと思うんだけどね……」


 主にニコーラの特訓のおかげだけど。


「じゃ、今度はこっちだ」


 今度は僕からセンニを手を取って、エルフの魔法を練る。

 土に潜り地下へ向かった。

 布なしだと土に塗れるけど、救援要請なら一刻も早く行かねば。


 目を瞑ったまま、自前の方向感覚のみで三次元を進む。

 ここで失敗したら、かなり危険だ。でも焦らず、しっかりと進んでいく。


 そして、僕らはようやく土の天井を抜けて、土壁の部屋に出た。


「ぷはっ!」

「ひゅー! 参上、ってね!」


 出た部屋では、すでに戦闘が行われていた。

 ふたりの魔族に、お姉ちゃんとエンシオがそれぞれ与している。

 リベラータさんは――ひとりのエルフを肩に抱えていた。もうひとりはどうしたんだ?


「センニ! こっちに加勢しろ!」

「らじゃー!」


 センニは即座にエンシオの方の魔族へと向かっていった。

 エンシオが言う前から向かっていた気がする。さすがは兄妹といったところか。

 そして、お姉ちゃんの方は――魔族と互角以上に戦っている。


「坊ちゃん! あたしは先に行くから後はよろしく! もうひとりはここにはいなかった!」

「了解! 無事に届けてあげてね!」


 さて、本来ならば加勢するべきなんだけど……。

 少し試してみるか。


『そこのふたり、止まれ!』


 魔族ふたりが僕の言葉で一瞬止まった。

 そして、飛び退く。

 どうやら魔族言語が通じたらしい。


「ロモロ?」

「お姉ちゃん、エンシオ、センニ。ちょっと待ってて。交渉してくるから」


 フードを被ったふたりの魔族。

 だが、その視線は僕を貫いている。


『……貴様、何者だ。人間のくせに、我々の言葉を?』


 ……口では喋らないか。

 通信魔法で喋るというのなら、別に構わない。


『僕の名前はロモロ。まあ、ちょっと色々とあって、貴方たちの言葉を知っている』

『それで? 言葉が喋れたからなんだと言うんだ? 命乞いか?』

『いえ、まさか。ただ、あなた方の態度次第でお仲間さんが大変なことになるというだけです。アルベルテュス、でしたっけ?』

『き、貴様!? アルベルテュス様に何をした!!』


 エンシオたちと戦っていた方が、叫ぶように言う。

 ビンゴ。ただのハッタリだったけど、やっぱりこのふたりと通じてたのは、アルベルテュスだったか。

 そして、お姉ちゃんと戦っていた方は苦々しい表情をしたのが、視線だけしか見えてないのにわかる。


 しかも、この反応からすると、やつがこの城にいる可能性も高そうだ。


『……要求くらいは聞いてやろう』

『僕らはエルフたちを無事に逃したいだけで、あなた方と戦う理由はありません。この場で見逃してくれるなら、魔導具の仕掛けを解きましょう。エルフの木を使って、ジワジワと絞め殺す魔導具のね』

『ふん。人間如きが、我々と交渉できるとでも?』

『その人間如きに先の戦いで撤退させられたのはどちら様でしたっけ?』


 魔族が目を眇めたのがわかった。

 やはり聞いている。そして、魔族とは交渉できるのだ。


『それで前回、やられた勇者……そこの女性相手に、もう一度戦っている、と。どんな奥の手を用意しているのか楽しみですね。まさか人間如きに無策で、再戦しているわけじゃないんでしょう?』

『……貴様。人間の分際でなぜ、どこまで知っている!!』

『さて? どこまででしょうね?』


 僕はこれ見よがしに肩を竦めた。

 とにかく、余裕そうに見せる。

 こっちははっきり言って何も知らないのだ。


 こっちが彼らの言葉を知っているという謎めいた雰囲気による、イニシアチブを取っているに過ぎない。

 とにかく相手に主導権を握らせるな。少しでも怪しまれたら終わりだ。


『あなた方が人間に影響を与えようとしているように、我々の派閥も当然、行使しているだけです。あなた方とやり方は違いますけどね』

『貴様、ディーデリックの手のものか』


 ……確か、講和派の代表、大魔王だったはずだな。

 カストがついている方だ。


『さて、どうでしょうね? 私の立場を主戦派の立場の人に上手く説明できる自信はないですけど』


 そして、魔族の片方はこれ見よがしに舌打ちした。


『それでどうです? 我々がここで戦う意味はありますか? 言っておきますが、戦うというなら受けて立ちます』

『……舐められたものだな』

『僕も、まあまあ強いですよ? なので、割に合わないと思いますけどね。エルフの人たちはもう全員逃走に成功していますし』


 マナを集めて、魔力を生成。

 風を想像して、適当に風を作り出す。


 無詠唱魔法。


 魔族にとっては基本らしいが、それでも人間が使うのは珍しいだろう。

 ある種の脅しにはなってくれるはずだ。


『……わかった。いいだろう。こちらもこんな場所で奥の手を使うのは、業腹だからな』


 そう言って剣を納める魔族。

 もうひとりもそれを見て、不承不承と言ったように矛を収めた。


『ええ、ありがとうございます。貴方の名は?』

『……教える意味があるのか?』

『僕は名乗りましたよ。それとも、名乗れませんか?』

『ブラム……。こっちがダーンだ』

『ありがとうございます。では、また機会がありましたら、お会いしましょう』


 僕はお姉ちゃんたちに向き直る。


「行くよ、お姉ちゃん。エンシオとセンニも」

「ちょ、ちょっとロモロ? 何したの?」

「交渉して見逃してもらうだけだよ」


 魔族のふたりが不意に襲いかかってこないか、警戒しながら僕らは部屋を出て、階段を上り地上へ向かう。


「あれ、魔族の言葉なの!? いつの間に、どうやって!?」

「魔族の協力者がいたことは言ったでしょ? 詳しい説明はあとで。今はまだ作戦の最中だから」

「う、うん……」


 まだエルフの解放作戦は続いてるんだからね。


「いやー、全然聞こえなかったけど言葉巧みに? 魔族と止めるとはやるねぇ。ロモロ君」

「こんなの一回しか使えない手だよ。二度は通じない手だ」


 幸運が重なっただけだからね。

 アルベルテュスの名前を出したのが上手くいった。

 それに、そのアルベルテュスが関わっているのも確信できた。

 得られたものは大きい!


 しかし――。


「……またも人間に負けたのですか? まったく力が強いだけで使えない連中ですね」


 地上へ出た瞬間――もうひとりの魔族。


「アルベルテュス……?」

「おや、こっちの名前を知ってるのですか。誰から聞いたんです?」


 一連の黒幕、アルベルテュスが僕らの前に立ち塞がった。

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二周目勇者のやり直しライフ ~処刑された勇者(姉)ですが、今度は賢者の弟がいるので余裕です~ 田尾典丈 @tamamo1988

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