夏が終わるまでに

天気晴朗(天気はるろう)

第1話

夏が終わるまでに


「風邪引いてしまうで、早うお風呂に入りんなれ」

夕立に追いかけられるように帰ってきた息子と葵ちゃんだったが、もうすっかり濡れ鼠だった。

「昌秋、もうすぐお客さんが到着するで、それまでに入りんや」

息子がお腹の中にいる頃に両親から小さな旅館の経営を継いで、かれこれ10年になる。

息子、昌秋は小学校4年生だ。

葵ちゃんは、高校時代をソフトボールに明け暮れて過ごした幼なじみの娘で、昌秋と同級生なのだが、身長差が20センチほどあり、どう見ても葵ちゃんがお姉さんにしか見えない。

子供たちは、もうそろそろ「思春期」を迎えるはずで、お互いに微妙な距離感を抱くはずなのに、まるで本当の兄妹のように屈託がない。

「マー君、お風呂で平泳ぎの練習しよっ!」などと、二人ではしゃぎながら浴場に走って行く。

 

 岐阜県郡上八幡は、長良川へ注ぐ支流である吉田川と小駄良川が合流する地に広がる城下町である。

 夏の「郡上踊り」、真冬の厳寒期に行われる「郡上つむぎの寒ざらし」などで有名で、「水の町」として多くの観光客が訪れる。

 町の随所を流れる用水路には、鯉が悠々と泳いでいたり、「水舟」といって、湧き水や山水を引き込む2層、3層からなる桶で、飲用・食器洗い・洗濯などと用途別に上手に水を使うためのものが設置されている。

 「水の町」と言われる所以である。

 また夏の風物詩として、小学生の子供たちが吉田川に架かる橋の上から川へ飛び込む姿を見かけることもできる。

 


「お客さん、浴衣が届きましたよ」

 夕食の世話をしてくれた仲居さんがそう言って、部屋まで浴衣を届けてくれた。

 この夏に郡上八幡を訪れ、旅館に入るには少し早い時間に到着してしまったので、旅館の駐車場に車だけ置かせてもらって、江戸時代から続くという古い町並みをぶらりと散歩したのだったが、「郡上踊りを浴衣でどうぞ!」という張り紙を見て、呉服屋らしい店に入った。

 なるほど、色とりどりの浴衣が店の中の衣紋掛けに吊るしてあり、レンタル出来るらしい。

 「気に入った浴衣で郡上踊りを見物に行こうよ」と僕が提案し、有輝子が選んだ浴衣は、紺地に桔梗の花が染め抜かれた、大人の女にこそ似合う浴衣だった。

 僕は旅館の浴衣で十分なので、有輝子のだけ頼んでおいたものが届けられたのだ。

 着替え終わり、「どうですか?」と気恥ずかしそうに聞く有輝子に、「うん。とても似合うよ。吉田拓郎の『旅の宿』みたいに、膝枕をしてほしいな」と照れて答えた。

 髪をアップに纏めた白いうなじが色っぽい。



風呂からあがり、厨房で母が用意してくれていた西瓜を食べている時だった。

「マー君、この夏休みの間に学校橋から飛び込むんでしょ?」

 「えっ、そうしようとは思っているんだけど…」葵に聞かれた僕は口を濁してしまった。

 「なーんだ。口先だけのことだったのね。昌秋が飛び込むって信也たちから聞いたから、クラス中の女の子に言い触らしちゃった」

 「どうしてそんなこと言い触らすんだよ。橋の上からは、6年になってからでいいんだぞ。葵のおしゃべり!お前のこと、誰かが洗濯板って言ってたぞ。洗濯板のおしゃべり女や。」

 そんなに酷い言葉を投げつけたと思ったわけではなかったのに、葵の顔色が変わり、そのまま何も言わずに厨房を飛び出していってしまった。

 西瓜を食べたら、運動会の「組み体操」の練習をしようと約束してたのに・・・

 この夏休みの間に、4年生から6年生は運動会で演技する「組み体操」の練習のための登校日が何度かあって、この日も午前中に学校へ行って来たところだった。

「おしゃべり女」って言ったのがいけなかったのかな。

 いや違う。たぶん「洗濯板」っていったのがいけなかったんだろうな。

 これも信也たちと、クラスの女の子のことを何やかやとしゃべっていた時に、誰かが「葵の胸は洗濯板や」と言って、背が高いのに全然胸のふくらみがないことを揶揄して言ったものだった。

 そうだった。クラスの女の子の誰がブラジャーを着けているだとか、ちょっとHな話になっていた時のことだった。

 信也は、「マーちゃん、『生理』って知ってるか? 女のあそこから血が出るらしいで」などといろいろなことを僕に教えてくれる。

 信也たちの何人かには兄がいるために、そういった情報が豊富だった。勉強はあんまり好きでないのにな。

 僕は一人っ子だったので、兄弟、特に兄がいる友達が羨ましかった。

 それにしても、「洗濯板」ぐらいで、あんなに怒らなくてもいいよな。

 クラスの誰よりも早く「学校橋」から飛び込むことは、心の中に秘密にしていたことなのに・・・

 信也に話してしまったことがいけなかったな。


「郡上の八幡出て行く時は、雨も降らぬに袖しぼる」という歌詞で有名な郡上踊りは、400年にわたって歌い踊り続けられて来たものだという。

 「やかた」と地元では呼ばれる「踊り屋台」の上では、唄い手の声とお囃子が息を合わせ、踊り手の下駄の音がそこに加わり、夏の夜31夜にわたって清流の町、郡上八幡にこだまする。

 圧巻は徹夜で踊る盂蘭盆の4日間だと。

 東の空が白む頃、踊りの調子は最高潮を迎えるらしい。

 今回、僕が郡上八幡を訪れたのは、以前にテレビ番組で取り上げられた、吉田川への小学生たちの飛び込み風景を観てみたかったことと、仕事から開放されて、情緒のある「東海の小京都」の料理旅館でゆっくりと有輝子と過ごしたかったからで、「郡上踊り」のことは、あまり頭の中になかったのだが、到着した日に「徹夜踊り」があると聞き、これは是非にも踊りの輪の中に入りたいと思ったのだった。



マー君の家から逃げるようにして帰って来てしまった。

自分の部屋のベッドに身体を放り込んだ。

まだ家には母は帰って来ない。

物心がついた時には、マー君の家で遊んでいるうちに、母が迎えに来て自分の家に帰って来るのが毎日のことだったのだが、小学校4年生になってからは、学校から直接家へ帰るようにもなった。

母は、隣町で小学校の先生をしている。

父はいない。

まだ、はっきりしたことを聞いたわけではないけれど、母と父は離婚したのだろう。

私には父の記憶はない。

腹が立ったわけではなかった。

「洗濯板」とマー君から言われた時には、顔からすーっと血の気が引き、何だか辛く、悲しくなってしまった。

目に涙が溜まりだした。それをマー君に知られるのが嫌だった。

友だちと比べて、気になっていたことでもあった。

母に話した時には、「大丈夫よ。もうすぐしたらちゃんと葵の胸もふっくらしてくるからね」と母は笑って答えてくれた。

そう言えば、母も背が高くて細っそりしているけれど、胸にはほんわりとしたふくらみがある。

でも、マー君に「洗濯板」とからかわれたのは、やっぱり嫌だ。

胸がキュンと痛い。

マー君のおばさんに挨拶もしないで帰って来たことも悔やまれる。

『マー君は、やっぱり学校橋から飛び込まないのかな』

自分の身体のことを考えていたはずなのに、気がつけばマー君が現れる。

この夏、マー君がクラスの誰よりも早く学校橋から飛び込むことばかりを考えてる。

夏の日差しの中で、欄干を蹴って宙に飛び出すマー君の姿を。

マー君は万歳をするみたいな格好で、川面に吸い込まれていく。

川面に白い水しぶきがあがって、バシャーと水面を叩く音が聞こえる。

暫くしたらマー君は水面まで浮上して、ぷぅわーって息を吐き出す。それから、にっこりと私に笑いかけてくれる。

そう。ベッドに入って枕を抱きしめながら・・・私はそんなことを想っている。



郡上八幡で育つ子供には、「通過儀礼」としての側面もある、川への「飛込み」がある。

郡上八幡の中心地の吉田川には下流から、「宮が瀬橋」「新橋」「学校橋」の3本の橋が架かり、学校橋周辺の高低差の異なる岩から飛び込みを始め、「学校橋」の欄干から飛び込むまでが、小学生の、特に男の子たちの夏の遊びの一つであるのだが、単なる「遊び」と違う点は、それが「大人になるため」の儀式的なものでもあることだ。

小学生の間に「学校橋」から飛び込み、中学生になれば「新橋」から飛び込むのである。

新橋の欄干から川面までは、ゆうにビルの5階分に相当する。

大人でも、その欄干に立ち川面を見下ろせば、足が竦む思いである。

しかも、その川面は渦を巻き、流れも速い。



信也の従兄弟の良平が名古屋から遊びに来たので、今日は友だちも誘って、学校橋の下で川遊びだ。

良平は、ちょっとデブっとした身体をしていて、泳ぐのが上手くない。

ヤスで鮎を突くことも全然できないでいる。

岩から飛び込もうと誘ったが、岩へ上る途中でへっぴり腰になって降りてしまった。

昨日のことがあるので、葵には直接声をかけなかったのだけど、クラスの女の子数人と遊びに来ている。平べったい大きな岩の上で休憩ばかりしてるけどね。

何で女の子は遊ばないで、話ばかりしているんだろう。

時々、クスクスと笑っては意味ありげに僕たちの方に視線を向ける。そしてまた自分たちだけで「イヤダーッ」などと笑いをさらに弾けさせる。

僕はちょっと気になるな。でも、知らん顔だ。

ところが良平は、川から上がり女の子たちの輪に近づき、「何か面白いことがあった? 僕にも教えてよ」と葵の隣に腰を下ろす。

女の子たちは、何だか歓迎ムードだ。

僕は良平が、とても嫌なやつに見えてきた。

ちょっと身体が冷えてきたので、女の子たちと距離をとって岩に上がり甲羅干しをする。

良平は何を話しているんだろう。

やっぱり、「イヤダーッ」とか何とか、顔を見合わせてクスクス笑う声が時々聞こえる。

良平も一緒に笑っている。



僕たちは、川面に近い岩場まで下りて行った。

 元気そうに遊んでいた子供たちの一団が、岩場に上がってきて甲羅干しを始めた。

 すると有輝子は、子供たちに近づき、声をかける。

 僕も決して人見知りするような性質ではないのだが、いつものことながら、有輝子が初対面の人とも一瞬のうちに打ち解ける技には脱帽する。

もう和やかに子供たちと談笑している。

子供たちは一生懸命になって、岩の名称などを教えてくれているようだ。



「ねぇ、君たち地元の子供たち?」と、いつのまにここまで来たのか、気がつくと白い日傘を差した奇麗な女の人と、そのすぐ後ろに男の人が立っていた。

声をかけてきたのは女の人だ。

「岩の名前をおばちゃんに教えてくれないかな」と聞いてきた。

思わず「はいっ」と答える。ちょっと胸がドキドキする。

「おじさんがね、ここの岩の名前を勉強したいのよ。いろんな名前がついているんでしょ?」

後ろの男の人を指して言う。

「さっきまで、君もいろんなところから飛び込んでいたよね。あの一番高い岩は何て名前?」

「あっ、あれは三角岩です。他に橋の向こう側に亀岩、沈み岩があって、三角岩の隣りがライオン岩です」

それぞれの岩には、その姿形から名称がある。

亀岩から飛び込み始めて、沈み岩、ライオン岩、三角岩と制覇していく。

亀岩は亀が首を上げているような風情の岩で、1メートルほどの高さで、飛び込む川面の流れも穏やかな初心者コースだ。

沈み岩は、水量の少ないとき以外は川の流れに隠れているのだが、そこを足場にして飛び込む。

川の流れが速いので、飛び込むのにはちょっとした勇気がいる。

次にライオン岩。ライオンが川面に向けて首を傾げているような形をしている。

高さは2メートルほどなのだが、ライオンの頭の部分から飛び込む時に、しっかりと前方へジャンプしないと着水できないから怖い。

そして、最後が三角岩。正三角形の頂点になる部分から飛び込むんだ。

高さは5メートルぐらいかな。

この高さになると、飛び込むのにかなりの勇気がいる。

僕が始めて飛び込んだのは、去年の夏休みだった。

そんなことを女の人に伝えた。

「君はあの橋から飛び込めるの?」と女の人が聞く。

「いえ、まだです。でも、あそこからは中学生になるまでに飛び込めるようになればいいんです。僕らまだ4年生なんです。」とへんな弁解をしてしまう。

「あの橋から小学生が飛び込むのを見たかったな」と女の人は言う。

「誰か、他のお友だちで飛び込める人はいないの?」と信也らに声をかける。

みんな、黙って首を振るばかり。

あの橋の欄干に立った時の、膝が震えるようにして足下から襲ってくる恐怖感は、地元の小学生なら誰でも知っている。

飛び込まないまでも、あの欄干に立ったことのある者が感じる恐怖感だ。

中には、欄干に立つことさえできない者もいるほどだ。

たとえ、欄干に沿って何本か設置されている街灯の柱を握りながらでも…

その時、「マーちゃんは、この夏中にあそこから飛び込むんやろ? それやったら、今飛び込んで見せてあげや」と、さっきまではここにいなかった良平が割り込んできた。

女の人は、「無理しなくていいからね。もちょっと大きくなってからね」と優しく微笑む。

「やってみます」僕の口は、そう言ってしまった。

「だめだめ。まだ君は小さいんだから…」と止める女の人の声を遮るように川に飛び込んで対岸へ泳いだ。



ところが何だか雲行きが怪しくなってきた。

 それは、有輝子が「学校橋」を指して何かを聞いた時からだった。

 子供たちが真剣な眼差しで首を横に振る姿に接した時には、有輝子が何か「タブー」に触れてしまったようにさえ感じた。

 子供たちの間で短い悶着のようなものがあった直後、ひとりの小学生が川へ飛び込み、対岸へ泳ぎ始めた。

 有輝子が懸命になって止めているが、子供は対岸に泳ぎ着き、「学校橋」へ上り始めた。

 有輝子が僕を振り返り、「あの子、初めて橋から飛び込むんだって。まだ小学校4年生なのよ」と悲鳴にも、泣き声にも聞こえる声で言う。

「どうしよう…」有輝子は涙さえ浮かべている。

「おーい。無理をしてはだめだよ。下りておいで」と僕も声を掛けるが、少年には聞こえていないようだ。

 いや、聞こえていないのではなく、無視している。

 平たい岩で休憩していた他の小学生たちが一斉に立ち上がり、少年を見上げる。

 心配そうな顔をした女の子たちの姿もあった。

 少年が欄干にすくっと立った時、岩場の誰もが息をのみ沈黙した。

 一瞬、少年は川を見下ろして躊躇したようだったが、仲間たちに視線を向けたかと思った直後、神々しいまでにきりっとした顔を見せ、飛んだ。



それから街灯の柱に捕まって欄干に立つまでのことは覚えていない。

やかましく鳴いていた蝉の声もまったく聞こえない。

膝がガクガクしだした時、葵の姿が目に入った。

胸の前で手を組んで、まるで祈るように僕を見上げている。

視線が交わった時には、恐怖感がすーっと引いていた。

欄干を蹴った。

蹴ったつもりだったが、足先には力が伝わっていなかった。

無様に万歳をしながら落下した。

血の気が足先から頭まで抜けたように感じた次の瞬間には、足の裏に「バシッ」と言う衝撃を感じて、水の中に吸い込まれた。

水圧によって、落下スピードが和らげられる。

水の底から川面を見上げると、白くまぶしい光が揺れている。

浮上を始めているはずなのに、なかなか水面に顔を出せない。遠い。

ほんの瞬間のことなのに、時間が長く感じられる。焦る。

水面がやっと割れた。肺の中の空気を吐き出す。

周りの音が聞こえてきた。

蝉の鳴き声も聞こえる。

見上げると葵が見えた。

葵の泣き出しそうな顔が弾けて、笑顔になった。

僕も笑っていたと思う。


 スローモーションだった。

 そこには音が存在せず、ただ夏の眩しい光だけがあった。

 突然、蝉の鳴き声や、子供たちの歓声がフェードインしたのは、少年の姿が川面を割って浮上した時だった。

 「プハァーッ」と息を吐いて、こちらを向いた少年の笑顔は誇らしげだった。

 有輝子が目をいっぱいに見開いて僕を振り返る。

 僕はただうなずくことしかできなかった。



マー君が欄干にすくっと立った時、私の膝がガクガクと震えだした。

マー君と目があったように思う。

次の瞬間には、マー君は飛び込んだ。

水しぶきがあがり、マー君は水中に吸い込まれていく。

川の流れが波紋を消した時、時間が止まった。

何の音も感じられなかった。

いったい何秒の出来事だったのだろう。私にはそれがとても長い時間に感じられた。

 川面が割れた。音も帰って来た。

「プハーッ」と息を吐き出して、こちらを向いた笑顔のマー君がいた。

でもその笑顔は、あのちっちゃくて可愛いだけのマー君の笑顔ではなかった。

とても誇らしいようなその笑顔…

突然、下腹部に熱い塊が生まれて、ゆっくりと下りていくような感覚が生まれた。

「これって、もしかして…」

私は慌てて水着をバスタオルで覆っていた。



 踊りのテンポが早いものに変わった。

 「郡上踊り」には、いったい何種類の踊りがあるのだろうか。

 ゆったりした踊りから、とてもアップテンポなものまであるのだが、踊る順番は一定しないようだ。

 輪の中の踊り手と「やかた」の唄い手、囃し手が、ジャズのセッションのように息を合わせて盛り上げていくようだ。

 僕たちは何度か休憩しながらも、夜更けの時間のほとんどを踊りの輪の中に置いた。

 有輝子は、さすがにダンスをしていたこともあって、指先の表情までがすでに「郡上踊り」の情緒をたっぷりと表現している。

 踊り始めこそ照れ臭くて、踊り方もぎこちない僕だったが、「踊り」が僕にもトランス状態をもたらした。

 それでも空が明るくなりかけて来た頃には、さすがに疲れ果てた。

 「徹夜踊り」はまだまだ続きそうだが、僕たちは踊りの輪を抜けた。

 

 「ねぇ、あなたもここから飛び込める?」

 宿へ帰る途中、「新橋」の欄干から薄暗い川面を見下ろした時に有輝子が尋ねた。

 「新橋」は「学校橋」よりひとつ下流に架かる橋で、ここからの飛び込みは、中学生からのもので、「学校橋」よりも高く、川の流れも激しく渦を巻くようだ。

 「若い頃なら飛び込めたかもしれないけど、今ではもう無理だな」僕は答える。

 「お昼のあの子の姿は凛々しかったね」と有輝子。

 僕は有輝子の腰を抱く。

 下着を着けていない浴衣は、しっとりと汗ばんでいる。

 丸みのある優しい腰だ。

 『有輝子、もう僕はお前という川に飛び込んでいるんだよ』心の中で呟く。

 さらに強く有輝子の腰を抱き寄せる。

 「宿に帰ろうか」有輝子の耳元に囁く。

 有輝子は人の妻だ。



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