第四話 『終死「ところでさ、異世界もので良く『私? 見ての通り盗賊さ!』っていう場面あるけど、あれってよくよく考えると変だよね?」 弟「ねぇちゃん、良いから早く宿題終わらせてよ……」』

 


 わたし、大和里おわり しのぶ! 中学校三年生の15歳!! みんなからは『終死おわし』って、呼ばれてるの!!

 今回のお話は『第二話』の続き、いっこも手をつけていない夏休みの宿題を、親友のはらさんと9歳の弟、まことを巻き込んでなんとかしようと行動を起こしてから、約二日後のことでございます。



「え? そうなの?」

「どうしたの? 誠」

「いや、対したことじゃ無いんだけど……ほら、前回の話がなんと言うか……時間軸に対して『第二話』よりも前になってたでしょ?」

「ああ、あの麦茶の話?」

「そう、それ。あれってさ、どこにでも組み込めるような話だったから、それだったら前回の話は普通に『第二話』の続きになるように組んだ方が、流れ的にも分かりやすかったんじゃないかな……って」

「大丈夫よぉ〜♪ 誠。このお話、あんまり読まれてないし、一話完結型だし」

「その言い方は、読者をないがしろにしいてると思うな。あと、全然一話完結型に見えないんだけど」

「それにね……誠」

「なに?」

「とうの作者が思いつきで書くもんだから、わたしたちにはどうしようも無いのよ」

「それは……なんともならな……いの?」

「と、いうわけで『終死ちゃん 第四話』、始まり、はじまり~♪」

「こんなはじまり方、見たことない……」
















 ……おわし……おわし……起きて……



「ここは死の世界……? あなたは神様……ですか? チート能力下さい」

「ここはおわしの部屋で、私は喜多原です! だから、チート能力はあげられません!! いつまでもふざけてないで起きて!!」

「だって〜毎日暑いし〜。やる気がでないのよ〜」

「ねぇちゃん、いいかげんにしなよ!! 夏休み、あと二日しかないってのに、半分も終わってないじゃないか!! どうするの!?」

「あ、その点については安心して。わたしあれだから。尻に火がつけばやる気がでるタイプだから。けつに火がついたら本気出す」

「ねぇちゃんの場合、尻じゃなくて全身だろ?」

「お? うまいこと言うねぇ、誠」

「なにもうまくないよ!」

「あ、そうだ」



 わたしは、あぐらをかきながら、なにか思い立ったように起き上がります。



「なあに? おわし。やっと、宿題やる気になってくれたの?」

「あのさ、異世界転生系の話でさ」

「またその話かよ。ねぇちゃん……」

「だって、急に気になり出したんだんもん」

「はあ……しょうがないわね、おわしは。それで? 異世界転生ものがどうしたの?」

「うん、異世界転生系の話でさ、良く主人公寄りのキャラクターが自己紹介するシーンがあるじゃない? 「私は、見ての通り盗賊だよ!」みたいな」

「うん」

「それが、なに?」

「あれってさ、よくよく考えると変だと思わない?」

「はあ? どういう意味さ?」

「ま、誠君……ちょっと落ち着いて……」

「だって、そうじゃない。目の前にいるのは、その世界で初めて見る相手なのよ? その世界で。初めて。なのに「私、盗賊ござい」って言われて率直に信じられる?」

「それは、あれだろ。ファンタジーものにもうとい読者にも、『この人は盗賊だ』って分かりやすく演出してるんだろ」

「あ、なるほど……」



 人差し指を下唇にあて、天井を見上げながら納得する喜多原さん。だ〜け〜ど〜♪ わたしは性格が悪いので、誠の説明にいちゃもんをつけます。それが、姉弟というもの。



「ええぇぇ〜〜?? でもさぁ〜? 現実リアルの世界でもさぁ~? そんな自己紹介されたら、警戒レベル上げない?」

「そりゃ、自分のこと盗賊なんて言われたら、警戒するに決まってんじゃん」

「そうよ、おわし。実際の世界で、自分のこと盗賊なんて言う人、いるわけ無いじゃない」

「いや、そりゃそうなんだけどさ。でも、例えば、例えばよ? 目の前にシスター姿の女性が現れたとするでしょ? でさ、突然「ワ・ター・シ、しすたーデース。お金寄付してちょ」って言われたら、あなたは素直に信じられますか? ってことよ」

「なんか論点がズレてる気がするけど……シスターの格好してるんだから、シスターなんだろ。というか、なんで途中から言葉がりゅうちょうになってんの?」

「喜多原さんは、どう思う?」

「へぇっっ?! 私……は、一概には信じられない……かな……? 詐欺師かもしれないし……」



 喜多原さんの言葉に、わたしは鬼の首を取ったように両手を広げ、おちょくるように誠に話しかけます。



「ほら、みなさい。まこと〜♪ 初めてあった相手の外見と言動をそのまま鵜呑みにするのは、危ないことなんでチュよ〜♪」

「いや……それは……」

「おわし! 言い過ぎよ!」




「で、でも、それはあくまでも例え話だろ!?」

「いや〜、どうかな~? 異世界の方がもっと、そういう人たちがいるかもよ??」

「た……確かに……おわしの言う通りかも……」

「ほら〜♪ 喜多原さんもそう言ってるでしょ〜?」



 まさに、ぐうの音もでないといった感じの誠。それでも、一生懸命に言葉を返してきます。



「じ、じゃあ、ねぇちゃんはあれなの!? 異世界で、もし弓と矢を持った人間にあったとしてさ、その人が弓師だとは思ったりしないの!?」

「あ~、もしかしたら、新手のガン使いかもね~♪」

「なんだよ! なんでそうなるんだよ!!」

「お、おわし……あんまり、誠君をいじめないで……」



 喜多原さんにそう注意され、身体をゆすられるも、誠がやっきになるのが可愛くて、つい、からかい続けてしまいます。姉弟なら分かりますよね? この気持ち。え? 分からない? そうですか。



「だいたいさ! 弓と矢だけで、どうやってたまを装填するのさ!?」

「それは〜♪ こうやって〜♪ たまを装填して〜♪」



 わたしは弓を引く仕草で答えます。じだんだを踏む誠がとても……良い。



「なんだよ、それ! 普通の弓師と変わらないじゃんか!!」

「いやいや〜♪ 矢の先端に、ちゃあんと薬きょうがくっついててね〜♪」

「そんなの屁理屈だよ!!」

「おわし、もう、いい加減したら……?」



 懸命に止めに入る喜多原さん。笑い疲れたわたしは、ようやくこの話にオチをつけようと、正座しながら目前の机に両肘をつき(あったんですよ。机が)、重々しい雰囲気をかもし出すように口元で両手を組むと、怪しい口調で話しだします。



「でもね……知ってる? ふたりとも。こちらの海には、現実世界の住人も、異世界の住人も、満場一致で認める、超一流の『ガン使い』がいることを……」

「……え?」

「……え?」



 息を飲む誠と喜多原さん。それを確認したわたしは、机に伏せ、真っ白のまま開きっぱなしのノートに、あるアニメのキャラクターを書き始めるのです。


「ねぇちゃん……?」

「おわし……? なにやってるの……」



 そして、再び顔を上げると、あるキャラクターに瓜二つな絵をふたりに見せて、こう言ってやりました。



「じゃ~ん!!」



 次の瞬間、喜多原さんが壊れます。



「きゅあー!! これ、今絶賛放送中のあのキャラクターじゃない!? おわし、この絵、もらって良い?!」

「どーぞ♪どーぞ♪」

「……で? ねぇちゃん。この絵と『満場一致の超一流のガン使い』が、どう関係あるの?」

「あら、まだわからない? まこと〜?」

「な、なにがさ……」

「今みたいに、本物に似せた絵の事をなんて言う?」

「が、贋作……?」

「そのとおり! つまり、『満場一致の超一流のガン使い』とは、贋作を描く人のことなのよ〜! なんちゃって〜!!」

「お……おわし……はぁ……」



 うまいこと言ってやった(はずの)わたし。その隣でため息をつく喜多原さん。そして誠は目の前で、敷布団と掛け布団をそれぞれふたつ折りにし、両手でよろしい感じにならします。



「ねぇちゃん。ちょっと、こっちきて」

「はいはい」



 そして……



「とあー」

「終死!!」

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終死ちゃん ネオ・ブリザード @Neo-blizzard

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