第五十六話 探索のタリアヴィル

「うーん、久々の外!そしてこの街の活気!外出してるって感じがするなー」


久々の休日、私は学園を出て、人で溢れる大都市タリアヴィルへフロノと共に足を運んでいた。

連日の、私にとっては過酷とも言える個人レッスンの数々で精神的に限界が近づいていたのを見てか、フロノが「一緒に出掛けない?」と誘ってくれたのだ。


「そうね、学園でも周りを散策したりはできるけど、何かがあるわけでもないし飽きちゃう」

「そうそう!それに入っちゃダメな場所ばっかりで、間違って足を踏み入れたらすっごく怒られるし、嫌になっちゃうのよね」

「昔はもう少しいろいろなところに行けたらしいけど、在学してた生徒達が危険なことや、危ない魔法実験を隠れて勝手にやってたらしくて、どんどん制限されちゃったって先生方から聞いたわ」

「そんな人達がいたの?まったく……そんな物騒なことを考える私達の先輩がいたなんて……あっ」

「どうかしたのエーナ?」

「いや……ううん、別に何でもない」


ふと頭の中に、そんなことをやらかしそうな大先輩――もとい師匠の姿が浮かんだなんて、とても口には出せない。


(アピロさんもまさか……いや、でも今まで聞いた話からすると、やってそうかも……)


「それでエーナ、どこから街を回るの?」

「ええと、そうね。まずは……うん、手紙に書いてあった古い本屋さんから行ってみようかな」


私はポケットから手紙を取り出して確認し、行き先を決める。

手紙の差出人はキャトルズ・バーウィッチ――キャトからだ。

屋敷に届いた私宛の手紙を、トラファムが学園を訪れた際に預けてくれたものだった。


手紙の中身は、私を気遣う言葉やキャト自身の近況報告……そして彼が調べてくれた、タリアヴィルのおすすめのお店や場所の一覧が記されていた。


『知り合いの協会の人達に聞いた、タリアヴィルの選りすぐりの場所一覧っす!もし行く機会があれば、気分転換にでも訪ねてみてくださいっす!』


「わざわざそんな手紙を書いて送ってくれるなんて、いい人なのね」

「うん、キャトはとってもいい子よ。王都に着いてからいろいろとお世話になったし、村を出てから初めてのお友達なの」

「そうなんだ。機会があれば一度会ってみたいかも」

「私もフロノのことをキャトに紹介したいから、今度会うときは呼ぶね」

「ありがとう、楽しみにしてる」


そんな他愛もない会話をしながら、私達は手紙に書かれた場所へと歩みを進める。


「そういえば、フロノは家には寄らなくてもいいの?せっかく街に来たんだし、顔を出したほうがいいんじゃない?」

「いえ、大丈夫。叔父様はああ見えていろいろ忙しいから、私が帰ったら……その、邪魔しちゃうから」

「邪魔って……フロノのお家なのに?」

「うん。ちょっと変かもしれないけど、あんまり家が好きじゃないの。長期の休みとかはたまに戻ったりするけど、なんというか……あまり居心地がよくなくて」


さっきまで明るかったフロノの表情は一変し、気まずそうに答える。


「ご、ごめんなさいフロノ。私、全然そんなこと知らなくて」

「気にしないで。エーナが気を遣って言ってくれたことはわかってるから。むしろ私のほうこそごめんなさい」

「フロノが謝る必要なんて全然ないよ!完全に悪いのは私だし」


まさかフロノにそんな事情があったなんて。

以前フロノのお家――ライハスさんの家に訪れた時、彼がフロノを邪険に扱っているような雰囲気は感じられなかった。むしろ気に掛けているようにさえ見えたけれど……何か言えない事情があるのだろう。


「ねぇエーナ、あの路地の先に見える建物……目的の場所じゃない?」


私が持っていた手紙を覗き込みながら、フロノが指を差す。


「えっ?」


視線を向けると、薄暗い路地の先に古びた建物がひっそりと佇んでいた。一瞬、廃墟かとも思ったが、入口の扉は開いている。煤けた看板が掛けられているが、文字はかすれて遠目には判読できない。


「確かに場所的にはあそこみたいだけど……なんというか、ずいぶん歴史を感じる建物ね。村で住んでた私の家より古いんじゃないかしら……」

「まあ、この街で本屋さんなんてやってる人は、大昔からいる変な人ばっかりだから。建物の内装や外観なんて、気にしてないのよ」

「そうなんだって……って、なんかフロノ、さらっと酷いこと言ってない?」

「とりあえず中に入ってみよう。エーナのお友達がおすすめするからには、何か理由があるはず」

「ちょっとフロノ、待ってよ!」


怪しげな建物の外観を気にも留めず、店に向かって歩くフロノの後を、私は慌てて追いかけるのだった。

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PRIMITIVE HOPE-少女の夢と最初の願い- アトルレラム @Atolrellum

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