13
「彼はブレイブセンターによって生産され、均衡を保たれた世界を嫌悪した。だから彼は生殖器が生殖器としての機能を果たす個体を作りたかったのです」
「遥か太古の世界に戻そうとでも思ったのか」
「えぇ、それが自然であり、彼が嫌悪した世界からの脱却であった。と、思っていたのです。でも出来上がったのは生殖機能を持たない個体だった。だから捨てたのです」
「はっ! なんと身勝手な。自らの望むものでないからという理由での廃棄処分とはな」
嘲るように笑った彼女を見つめつつ、彼は少しの沈黙の後、それに返事をすること無く話を続ける。
「……。廃棄したはずの個体でしたが、彼の考えるものと近しい存在が出来上がったのは後にも先にも貴女だけでした。そこで、彼は貴女の遺伝子を解析し、その中にあった可能性に気付き、別の個体を作り始めます。そこにある可能性を求めたのですが、それが間違いだったと気付くのはすぐでした。間違いを正さなければならない。しかし、その時点で彼の命はもう残り少なく、致し方なく彼は自分に全てを託し、朽ちていったのです」
「全てを託すって、私を探すことか?」
「はい、結果的に。自分は彼の意志に従って全てに終止符を打てる者をさがしておりました」
「終止符……」
「この世界にあるもの。生命を持つ者、持たない物、どんなものにも生まれて来た以上、終りは来ます。それが例え太古の昔とは違い、機械によって作り出され、生まれた時にすでに定めとしてその遺伝子に刻まれている割り当てられた終わりであったとしても。世界に有るものに永遠など無い」
「その言い分は、あくまで『普通』という概念の中の話だろう?」
哀しく、まるで自らに思い知らせるように言い放った彼女の言葉に、男は微笑んで頷き話しを続けた。
「そう、『普通』という概念であって、我等は当てはまりません。しかし、幾億年『普通』として存在してきたその行為を、ある人物が崩し去ってしまおうとしました。越えてはならぬその境界線を越えようとした」
「私を作り出した奴か?」
「いいえ。彼は間違いに気付き、そのモノを抑えこむことに努力した。其れが成功することはありませんでしたが」
予想外の答えに彼女は一瞬戸惑う。
自分を作り出すこと自体が「普通」という概念の一線を越えた行為。なのに、普通を崩しさろうとしていたのは自分を作り出した人物ではなく、それどころかその人物はそれを止めようとしていたという。益々理解できない男の言葉に彼女は疑いのまなざしを向けて聞く。
「おかしくないか? 私を作り出すこと、そして貴様のような存在を作ること、それは……」
彼女の言葉に男は少し目をふせ、薄く笑って頷いた。
死への渇望と肯定 御手洗孝 @kohmitarashi
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