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「そう思うなら何故手放したりした」

「ですから言ったでしょう? 彼にはやらねばならぬことがあったのです。目的のためには寿命は邪魔なものであり、時間が必要で、その為に永遠にこの世界に留まる器というものが必須だった。今までの知識を要しながらも状況を把握し、自ら考え自ら行動する非常に人間に近い人間そのものとも言えるような器。ただデータを残したいだけであれば機械で良かった。しかし機械で其れは無理、機械が其れを行えば自我が目覚める可能性があり、そうなれば彼自身が消えてしまう事になりかねない」

「本当に全く、理解に苦しむ」

「そうでしょうね。でも大丈夫です。理解してほしいとは思っていませんので」

 優しい微笑を絶やさず言う男。

 自分が人でもなければ機械でもない、言ってみれば中途半端な存在になったはずなのに、これっぽっちも其れを悲観する姿は無い。

「今すぐにでも自分をこの世界が手放してくれないかと思い焦がれているのに、自ら望んで世界から離れようとしないものになろうという気持ちは理解できないし、なぜその事実を悲しいと思わずにいれるのかもわからない」

「ですから、理解して貰う必要はありません。第一、悲観などするはずがないではないですか。自分は自身の其れが望んでそうなったのですから」

「そうだな、私とは違う。私は決して自らが望んだわけではない。今すぐにでも、この世界の全てを壊せば死をあたえてやるといわれれば、私はきっとこの世界全てを破壊する」

 彼女がそういった時、彼は酷く悲痛な面持ちで瞳を閉じ、小さく「すみません」と謝罪の言葉を口にした。

「別に貴様に謝ってもらおうとは思っていない。すでに起こってしまっていることだ、謝罪の言葉が私の望みを叶えるわけじゃない」

 大きなため息をついた彼女は男が出してきたお茶で喉を潤わせた後、男をじっと見つめて低い声を更に低くして聞く。

「そこまでして貴様がせねばならないものとは何だ? そして、私を作っておきながら長い年月放りっぱなしにした貴様が何故再び私を探していた。貴様の望みは一体何なんだ? そしてここは何処だ?」

 彼女が質問を投げかけると男は彼女の視線を跳ね返すように見つめて話し始めた。

「ここはブレイブセンター内です。今となっては誰もしらないセンター内の施設。最もブレイブセンターに出荷口はあっても出入口というのは表向きありません。ここに入るには断崖の中断にある一見してはわからない裂け目から地下に向かい、そのまま専用の通路でここにやってきます。今でこそ、管理者と呼ばれる生物がこの中で生産を行っていますが、それらが現れる前は人の手によって生産されていました。彼はそんな中の一人」

「なるほど、今となっては誰もしらないはずだ。その時の関係者は全て死んでいる」

「えぇ、その通り。正確には殺されたのですが、何にせよここで彼は貴女を生み出し、そして貴女を失敗作だと認識してブレイブセンター内に捨てました」

「殺されただと? それに私は失敗作だったのか?」

 話の流れから自分は成功例だと思っていた彼女は、自分が失敗作だと言われて驚いていた。

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