題名無し

第1話

登場人物

及川正木 突然母を亡くしたショックから将来を考えらなくなっている

笹木琳  パティシエになりたい 正木と同い年 

忍    正木の隣の席の人 正木に友達とは思われていないが本人は友達であると思っている なまっている

及川の父 母を失ったことでなかなか将来を考えられていない正木にイライラしている 元は東京の大企業の会社員 今は地元の漁師

及川の母(写真)以前から不治の病にかかっていたが正木の父に正木には黙っておくように

話す シングルマザー状態だった

笹木の継父 琳を東大に入れさせて大企業に就職させたい その思いには自身の記憶がある

笹木の母  病弱

高木    正木の前の席 教師の質問に答えに詰まる

教師 一人 国語科

女子1、2

生徒 34人 正木の同級生


場面

正木の家 リビング 正木の自室

琳の家 リビング 琳の自室 継父の自室 背景

正木の学校の教室

祭り

及川の帰り道


場所

海の街 正木が住んでいるところ

森の中 琳が住んでいるところ


あらすじ

正木は学校の授業でもう一人の自分について考えてみたらと言われ、そのことについて作文を書こうとしている時に琳のブログを見つける。一方琳も正木のブログからもう一人の自分像について考える。そしてお互いに相手への羨望からお互いのブログに誹謗中傷のコメントを書くが、次第に相手は自分と同じ境遇をしているのではないかと思い連絡を取る。しかしなかなか心は合わず仲違いする。しかし二回目にテレビ電話をした時琳の話と途中で連絡が途絶える。正木は続きの聞きたさと自分の幼さを恥じ、将来を決め琳のところに向かう。しかし会うことはできなかったがもう一人の自分とは何なのか気づき受験へ向かう

及川の学校 (午前中)

 現代文の授業中

 先生が黒板を書いている

 生徒は36人満席

 静かにノートを書いたり教科書を見たりしている

 及川の席は一番後ろの窓側

 忍は及川の隣

 高木は及川の前

 及川の机に乱雑に閉じいる教科書がある

 及川、窓の外、見ている


 先生、チョークサッシに置き、生徒たちに振り返る


 先生「ではなぜさつきさんは泣いたのですか?高木さん。(機械的)」

 高木「はい。(心配な顔)」


 高木、立つ


 高木「えっと―。(困惑)」


 高木、分からず、もじもじする

 及川、舌打ちする


 及「(心の中)速く言えや。」


 高木、教科書を見ながら


 高木「(自信のない声)さつきさんは僕にノートをぐちゃぐちゃにされたからだと思います。」

 先生「その通り。(機械的)」


 先生、黒板に向きかえり、板書する

 高木、胸をなでおろして、座る

 先生、生徒に振り返る


 先生「ではどうして僕はさつきさんのノートをぐちゃぐちゃにしたのですか?その後ろ。及川さん。(機械的)」


 及川、机に肘つく


 及川「僕が買えねえノートをさつきが持っていて嫉妬したから。(乱暴に)」

 先生「その通り。(機械的に)」


 先生、黒板に向き変える

 及川、心の中で舌打ちする


 及川「(心の中)こんな簡単な問題俺にあてるんじゃないよ。(嫌味多らしく)」

 忍 「やっぱりすっげーな。都会人は。(のんきな声)」


 忍、及川に小突く


 及川「そんなんじゃないよ。(誇らしそうに謙遜)」


 先生、生徒たちに振り向く


 先生「ではどうしてこの僕はノートが買えなかったのですか?その隣。(機械的)」

 忍 「金欠だからあ~。(バカっぽく)」

 先生「はい、その通り。でも丁寧な言葉を使いなさい。(呆れた声)」

 忍 「へーい。(笑顔)」

 先生「丁寧に。(笑顔)」

 忍 「はい。かしこまりました。(ふざけて)」

 先生「そう。(笑顔)」


 先生、板書する

 生徒たち、どっと笑う

 及川、窓の外見る


 及川「(心の中)もっと褒めろや。」


 先生、前の席の人に作文用紙渡す

 生徒たち、前の人が後ろの人に用紙を回す

及川のところにも作文用紙、来る


 先生「では、この文章のように君たちの未来でも書いてみましょう。物語風でなくてもいいから何か書いてみてね。例えば将来になりたいものとかやりたいこととか。欲しいものでもいいのよ。書くことがなかったらもう一人の自分についてでもいいんじゃないのかな。もう一人の自分をイメージすれば何か浮かぶかもしれないよ。期限は明後日まで。(早口)」

 及川「(心の中)俺は将来何になりたいんだろう。特にやりたいこともない。でも無性に東京に行きたい。特にやりたいことがあるわけでもないのに。」


 及川、殺伐とした冬の寒さが残る海の街、見る


及川の帰り道

 海が見える道路

 及川、一人で歩く


 及川「(心の中)将来なりたいもの。やりたいこと。」


 忍、及川の後ろ走り追いつく


 忍 「正木、お前は何を書くことにばしなったど?(純粋)」

 及川「まだ決めてない。(うつむき)」

 忍 「俺は剣道の選手になりてえ。なって世界大会に行きてえ。ってどうかど?(純粋)」

 及川「でもそれじゃ金は入らない。(うつむき)」

 忍 「金じゃのうて夢だよ夢。夢は自由じゃなか。そんで正木は?(純粋)」

 及川「…東京…に…行きたい。(動揺)」

 忍 「ほえ、東京か。何をしたいど?(純粋)」

 及川「…特にない。(自信なく)」

 忍 「ないんか。そう言えばお前さ。パソコン得意だったじゃん。それとか。どなったど?(興味深々)」


 及川、無言で早歩きする

 忍、追いつこうと走る


 忍 「どうばしなっだよ。(不思議)」

 及川「急用を思い出したんだ。じゃ。(早口)」

 忍 「なんじゃ、そりゃ。(不思議)」


及川の家

 及川、玄関の引き戸を開け、中に入る


 及川「(大きい声)ただいま。」


 及川、まっすぐに仏壇に向かう

 仏壇には母親の写真、飾っている

 及川、線香をあげ、手を添える

 及川「母さん。ただいま。(優しく)」

 ナレ「正木の母親は正木が10の時に病気で亡くなった。それから父親は東京での会社員としての仕事をやめ、こっちの海の街に引っ越してきて漁師をやっている。まるで現実から逃げているかのように。」


及川の家のリビング

 夕食がラップがかかって冷たい状態でおかれている

 ラップの上にメモ用紙がある

 及川、メモ用紙を手に取る


 及川「来週の土曜日は漁師になるための儀式がある。正木ももう18だ。漁師になるにはいい時期だ。どうだ。来ないか。」


 及川、メモ用紙握り占める


 及川「ふざけんなよ父さん。ほんと父さんは何にも分かっちゃいない。(悔しと怒り)」


 及川、静かに泣く


及川の家の自室

 及川、椅子に座り、机に作文用紙とスマホ置き、スタンドの電気をつける


 及川「ネットで適当に誰かの作品でも写しとくか。どうせ写したってばれないんだし。な

げやり)」


 及川、スマホで幸せな家族と検索する

 ブログのページがヒットする

 及川、ガッツポーズする


及川「これだ。リンていう人のにしよう。(嬉しい)何々題名私の幸せな家族。だからヒットしたのか。将来の夢はお父さんとお母さんと大きくて暖かい家に住むことです。(興味津々)そして両親を助けて行きたいです。(弱弱しい)だってさ。作文に完璧じゃん。(八つ当たり)」


 及川、作文用紙に書き写す

 及川、書き写しながら目に涙が浮かびだす


 及川「なんだよ、なんだよ。こいつなんて幸せなやつなんだよ。(八つ当たり)」


 及川、リンのブログの書き込み欄に誹謗中傷を書く

 及川「(泣き声)こんな幸せなやつ俺と同じ目に会え。」


 及川、机にふし、声を抑えて泣く


琳の家

 琳、家のドアの鍵を開ける


 琳「ただいま。(暗い)」

 母「お帰り。(優しい)」


 琳、顔を上げ、リビングに走る


 琳「お母さん居たの。(嬉しい)」

 母「琳、いい子にしてた。(言いきかせるように)」

 琳「うん。してた。(笑顔)」

 母「継父さんの言うこうは?(笑顔)」

 琳「絶対に聞く。(引きつった笑顔)」

 母「そう。いい子だね。(安心)」

 琳「…う…うん。」

 ナレ「琳の母は病弱でほとんど家におらず継父が琳の世話をしている。」


 琳、鞄を開ける

 琳、連絡ノート開け、閉じる(ノートの白紙に付箋で将来に自分について課題と書かれている。)


 琳「あのね。今日ね。学校の先生が将来の自分について書いてみよう。って言ったんだ。(元気よく)何を書いたらいいと思う?(疑問)」

 母「そうね。琳。ブログにいいこと書いてるじゃない。それでも書いたら。」

 琳「…う…うん。そうだね。書いてくる。(弱弱しい)」


 琳、鞄持ち、自室に入る


琳の家の自室

 琳、鞄をベットに投げ起き、スマホを持って、机に向かう


 琳「私のブロブわっと。(興奮)誰これ。(怒り)」


琳、正木が書いた誹謗中傷のコメント見つける


 琳「私だって好きで書いてるわけじゃないのに。(愚痴)あっ、この人、ブログ書いてるんだ。(意地悪い)」


 琳、正木のアイコンをタップし、そこから正木が書いたブログを見つける


 琳「こいつバカじゃん。(バカにした感じ)人のブログをバカにしておいてそんでもって私と同じブログのサイトを使っているなんて。(怒り)」


 琳、正木のブログ見る


 琳「何、この人も同じ課題出ているじゃん。(ばかしている)ふん、こんな幸せそうな毎日。羨ましいよ。(ひねくれ)」


 琳、机の家族写真見る


 琳「私だって本当のお父さんが欲しいよ。あんな金に権威を重ねる横暴な継父なんていらない。本当のお父さんはどこに行ったの?(悲しい)」

 ナレ「琳の父親はだいぶ前に継父の会社によって持ち会社を買収されその後一家は路頭に迷い琳の父親は失踪した。そして琳の母はその継父と再婚した。」


 琳、正木のブログに誹謗中傷のコメント書く


 琳「こんな幸せなやつ私と同じ目に会え。」


 琳、目から涙が浮かぶ


正木の学校の進路指導室の前の椅子

 正木、椅子に座っている


 正木「遅っせなー。(いらだち)」


 正木、鞄からスマホ取り出す

 正木、自分のブログ見る

 正木、琳からのコメント見る


 正木「誰だよ。こんなこと書いたやつ。(怒り)」

 正木、琳のアイコンをタップし、琳のブログ見る


 正木「なんだこいつか。俺も書いたしその仕返しと言うわけか。でもこいつのブログ写させてもらったしな。」


 進路指導の先生、正木を呼ぶ


 先生「及川さん。どうぞ。(優しい)」

正木「はい。」


 正木、進路指導の教室の中に入る


 正木「お願いします。」

 先生「よろしくね。(優しい)」


 進路指導の先生、正木の進路カルテ見る


 先生「君は東京に行きたいのかな?(優しい)」

 正木「(小声)…はい。」

 先生「どうして?ここの欄にその理由がないから教えてくれると嬉しんだけど(優しい)」

 正木「(小声)どうしてというか…その…どうしても行きたいです。」

 先生「どうして?(優しい)」

 正木「どうして…(返答に困る)」

 先生「まずはそこを考えないと。私だって君の進路に反対するつもりはない。でも何をやりたいかを明確にしないと後々困るわよ。(優しい)」

 正木「そうですね。」

 先生「何がやりたい?(優しい)」

 正木「…」

 先生「こう考えて見てはどうか?もう一人の自分だよ。(呼びかけるように)」

 正木「もう一人の自分?(疑問)」

 先生「そう。もう一人の自分を想像してみて。そこから何か浮かばないかな?」

 正木「もう一人の自分…(考える)」

 先生「有名な話なんだけど世の中にはね。自分と全く同じな人がもう一人いるって言われているんだ。それについて考えて見たら何か分かるんじゃないのかな?(優しい)」

 正木「その人とは会えるのですか?(純心)」

 先生「さあね。(あっさり)」

 正木「さあねって?(疑問)」

 先生「分からない。でも少なくとも私はまだ会えていない。(あっさり)」

 正木「ふーん。そんなもんなんだ。(バカにする)」

 先生「考えて見てね。今日はこれで終わり。(あっさり)」


 先生、席立つ


 正木「ありがとうございました。」


 正木、進路指導室から出る


 正木「もう一人の自分かあ。国語科の先生もおっしゃっていた。でもどういう意味なんだろう?先生でさえ会ったことがないのに。(疑問)」


正木の家の自室(夜)

 正木、布団の中でスマホ見ている


 正木、ネットの検索欄にもう一人の自分と入れる


 正木「もう一人の自分…意味?」


 正木、検索欄に意味と入れ、消す

 正木「とは。」


 正木、検索欄にとはを入れ、検索する

 正木、一番上のサイト、タップする


 正木「もう一人の自分とは今世の中で言われている言葉で、自分と全く同じ人物がこの世にいると考えられている。」


 正木、スマホ布団に置き、布団に倒れこむ


 正木「会ってみたいなあ。」


 正木、スマホ手に取り、琳のブログ見る


 正木「琳のブログよくできてるな。本当に幸せは女の子なんだろな。幸せでいいな。羨ましいよ。(泣き声)」


 正木、琳の新たな投稿に、誹謗中傷のコメント書く

 父親、正木の自室ノックする


 父親「正木、飯食うか?(上から目線)」

 正木「…(無視)」

 父親「何にも食べねえと死ぬぞ。(怒り)」

 正木「いい。食べてきた。(ぶっきらぼう)」

 父親「ならいい。(怒り)」


 父親、正木の自室のドア蹴る

 正木、琳のブログに誹謗中傷のコメント書く


琳の家のリビング

 継父、ソファに横になり、テレビ見ている

 琳、話しかける


 琳「あの、お義父さん。(遠慮)」

 継父「なんだね。(テレビ見ながら)」

 琳「(小声)あの…進路について…学校から紙をもらったんだけど。(恐々」

 継父「東京に行くんだろ。(テレビ見ながら)」

 琳 「え?(驚き)」

 継父「東京に行って東大に行って一流企業に就職するんだろ。(テレビ見ながら)」

 琳 「そんなこと一度も言ってない。(動揺)」

 継父「母さんが大変なんだから手伝ってやれ。(投げやり)」

 琳 「わ、私、料理の専門学校行きたい。行ってパティシエになりたい。」

 琳 「(心の中)やっと言えた。(笑顔)」

 継父「(低い声)専門学校で料理だと。(怒り)」

ァから起き上がり、怒って琳を見る


 継父「(低い声)料理だなんて下衆がやるようなもんのために大学に行くんでない。(怒り)」

 琳 「ご、ご

 継父、テレビ切り、ソフ

めんなさい。(恐怖)」


 琳、頭下げる


 継父「(怒鳴り声)だいたいな。そのまごまごした言い方気に食わないんだよ。(怒り)」

 琳 「(泣き声)ごめんなさい。(恐怖)」

 継父「(怒鳴り声)そんなにパティシエになりたいなら家の飯でも作れ。(怒り)」

 琳 「(泣き声)ごめんなさい。(恐怖)」


 継父、琳の頬叩く


 琳 「(泣き声)ごめんなさい。東京に行って東大に入ります。(恐怖)」

 継父「そうだ。それで。(満足)」

 琳 「一流企業に就職します。(恐怖)」

 継父「(怒鳴り声)そうだ。それでいい。お前の自室に行け。(怒り)」


 琳、無言で立ち去ろうとする


 継父「(怒鳴り声)返事。」

 琳 「(大きな声)はい。」


 継父、テレビつけ、ソファに横になる

 琳、速足で自室まで歩き、静かに部屋のドアを閉めてベットに寝転ぶ

 琳、スマホを手に取り、琳のブログを見る

 琳、正木からまた誹謗中傷のコメントが来ていることに気づく


 琳「なんでまたなんだよ。(怒り)」


 琳、正木のブログに誹謗中傷のコメントをく

 琳、正木のブログが更新されたのに気づく

 琳、更新されたブログ読む


 琳「世の中にはもう一人の自分がいるって進路の先生に言われた。でもそいつはまだ出会ったことないんだってさ。マジムカつくよな。(棒読み)」


 琳、布団にスマホを投げおく


 琳「もう一人の自分か、どんな自分なんだろ。(溜息)」


 琳、スマホ手に取る


 「でも進路が相談できる人がいるだけいいじゃん。羨ましいよ。(泣き声)」


 琳、正木のブログに誹謗中傷のコメントをく


正木の家の自室

 正木、ノートにもう一人の自分について書いてみようとしている


 正木「もう一人の自分か。まず人型を書いて。うーん。そうだな。お母さんがいて。怒らないお父さんがいて。それで東京で暮らしていて。お父さんは前と同じ会社員でお母さんは専業主婦。それで僕は…(独り言)」


 正木、静かに鉛筆を置く


 正木「だめだ。俺のところだけ書けない。(溜息)」


 正木、琳のブログが更新されていることに気づく


 正木「学校の友達と遊びに行きましただってさ。いいな。(羨む)」


 正木、誹謗中傷のコメント書く


琳の自室

 琳、ノート広げている


 琳「もう一人の自分、まずは人型を書いて。お父さんとお母さんと横に書いて。お父さんは小さい会社を経営している。お母さんは専業主婦でいつも笑顔で元気で。それで私はパティシエの大学にいて。みんな笑顔で。(独り言)」


 琳、静かに鉛筆置く


 琳「でも無理か、お父さんいないし。(冷めた声)」


 琳、正木のブログ見る


 琳「家から海が見えるよだって。いいな。(羨む)」


 琳、誹謗中傷のコメント書く


正木の学校

 忍、スマホみんなに見せて自慢している


 忍 「それでこれが隅田川で。これが国会議事堂で。これが官庁街で。(自慢)」

 生徒「すごーい。(褒める)」

 忍 「だろ。剣道の試合で行った時に撮ったんだ。(自慢)」

 生徒「(心の中)いいな、あいつは東京に行けて。(羨む)」


 正木、ブログのコメント見る


 正木「また来てる。しつけえやつだな。(うんざり)」


 正木、琳のブログに誹謗中傷のコメントを書く


琳の学校の帰り道

 琳、一人で歩いている横、数人の女の子、スキップで通り過ぎる


 女子1「私、地元の林業の大学に推薦してもらったんだ~(うれしい)」

 女子2「私も東京の農工大に親に志願届書いてもらったんだ~(うれしい)」

 琳  「(心の中)いいな。夢を叶えることができて。(嫉妬)」


 琳、ブログ見る


 琳「また来てる。しつこいな。(呆れる)」


 琳、正木のブログに誹謗中傷のコメント書く


 お互いに相手のブログに誹謗中傷のコメント書く


 正木、コメントを書く手、止まる


 正木「でもこいつも反論してくる。ていうことはもしかして琳もブログに事実でないことでも書いてるのか?ということはもしかしてこの人が僕のもう一人の自分。(言い切り)」


 琳、コメントを書く手、止まる


 琳「でもこの人も反論してくる。私も反論する。もしかしてこの人は私のもう一人に自分。(言い切り)」


 正木、ゆっくりマウスに手、伸ばす

 琳、ゆっくりマウスに手、伸ばす


 琳 「(チャット)あなたは誰?(問いかける)」

 正木「(チャット)琳さん、個人で話しませんか?(提案)」

 琳 「(チャット)私もそう思ってたところ。(ゆっくり)」

 正木「(チャット)俺。パソコンが得意で…だからゲームの中で話さないか?(提案)」

 琳 「(チャット)何て言う?」

 正木「(チャット)フロッグとスネークという蛇を追いかけるゲーム。めちゃ簡単、だけどそれだとチャット機能があるからそこから個人で話せばこのまま誰かを隠したままでも話すことができる。それにあなたがログアウトすれば履歴は残らないしもちろん僕がログアウトしても履歴は残らない。」

 琳 「(チャット)試してみる。(暗い声)」


 正木、ゆっくり布団に横になる


 正木「(独り言)本当にこれで良かったのか?(疑問)」


 琳、スマホにゲームを入れアカウントを作る


 琳 「でも本当にこれで良かったのかな?(疑問)」


 正木、はっとして起き上がる


 正木「ゲームだと個人特定ができない。(驚く)」


 琳、はっとして起き上がる


 琳 「ゲームだと個人特定できない。(驚く)」


 二人ともスマホのゲーム開く


 正木、公開チャットに“こんにちは”と打つ

 たくさんの“こんにちは”、帰ってくる

 正木、布団に寝転ぶ


 正木「これだと分からないではないか。(動揺)」


 琳、公開チャットのたくさんの“こんにちは”、見る


 琳 「きっと正木と言う人は私宛てに“こんにちは”って送ったのにみんながそれに返事してしまったんだわ。」


 琳、アイコン設定していないことに気づく


 琳 「ブログの写真から使うとするか。(事務的)」


正木の学校(朝)

 生徒、互いにおしゃべりしている

 正木、自分の机で横になっている

 忍、話しかける


 忍 「正木、お前どうした?(心配)」

 正木「あー、どうしよう。(悩み)」

 忍 「どうした?(心配)」

 正木「ネットゲームから個人を特定することってできないのかな?(疑問)」

 忍 「それができたら捕まってるよ。(バカにした笑い)」

 正木「どうしたらいいんだろう?(不安)」

 忍 「詳しく聞かせてよ。」


 正木、ためらってから渋々話し出す


 正木「あのな。このブログを書いている人とゲーム上で話そうてなったんだけど。(めんどくさい)」

 忍 「へえー。それで見つけたいの?(笑顔)」

 正木「どうしよう?(不安)」

 忍 「うーん。一回そのゲーム見せてよ。(笑顔)」

 正木「はい、これ。」


 正木、忍にゲームを渡す


 忍 「正木は群ちゃか。子供。」

 正木「なんだっていいだろ。アイコンなんだから。(いじける)」

 忍 「結構たくさんの人が利用しているみたいなんだね。」

 正木「お前、なんでさっきからそんなに笑顔なんだよ。」

 忍 「簡単だよ。」

 正木「どんな?」

 忍 「アイコンから探せばいい。」

 正木「でもこのゲームにはたくさんの人がいるから、アイコンで特定は無理だよ。」

 忍 「できるよ。正木がどうしてアイコン群ちゃにした?」

 正木「群ちゃが好きだから。」

 忍 「マジ子ども。」

 正木「うるせえ。好きなもんは好きなんだ。」

 忍 「それと同じだよ。だいたい人はゲームのアイコンはその人の好きなもののすることが多いから。そこ子の好きなものは?」


 正木、琳のブログ見る


 正木「この中にある写真から特定するしかない。」

 忍 「頑張れ。(笑顔)」

 正木「お前も手伝うんだよ。」

 忍 「はいはい。(笑顔)」


 忍「これか?」


 忍が正木に声をかける


 忍「アイコンは?」

 正木「ブログの中にあったものと同じ。」

 忍「じゃあ同じ人だ。」


 正木、アイコンの友達追加をタップする


 忍「んじゃ、俺はこれで。」


 忍は静かのその場を去る

 相手から友達追加を認証したという通知が届く


 正木y「これだ。」

 「こんにちは、僕は正木。あなたは?」

 「こんにちは、私は琳。ブログと同じ人。」

 「僕もだよ。」

 「何か話したいことでもあるの?」

 「そっちこそ前向きだったじゃないか。」

 「じゃあ聞きます。ブログの内容は嘘ですね。」

 「俺も聞く。あなたのブログは嘘ですね。」

 「嘘かもね。厳密に言えば。」

 「俺もだ。」

 「でもこう考えれば違う。もう一人の自分だよ。」

 「もう一人の自分?」

 「そう。あなたがブログに書いてじゃない。」

 「そうだっけ?」

 「忘れたの?進路の先生に言われたとかって。」

 「書いたかもしれない。」

 「だとするとあなたが書いているブログもそれでしょ。」

 「もう一人の自分…」

 「自分で言ったことじゃない。責任とってね。」

 「も、もちろんだ。」

 「では質問をします。あなたに両親はいますか?」

 「なんでいきなりそれ。」

 「答えて。そしたら私もあなたの質問に答えてあげる。だって聞きたそうでしょ。」

 「そうだけど。両親はいます。」

 「それは本当の親ですか?」

 「本当の親です、ただ…」

 「ただ?」

 「母さんはだいぶ前に亡くなっている。だから…その…ブログの内容は嘘なんだ。」

 「だからもう一人の自分て言えばいいじゃない。あなたからの質問は?」

 「あなたに両親はいますか?」

 「私と全く同じじゃん。」

 「ダメなのか?」

 「いや、いいけど。います。」

 「それは本当の。」

 「分かるから言わなくていいよ。いいえ、違います。本当のお父さんは私が小さい時に会社の倒産を気に失踪して今はお母さんは別の男の人と再婚しています。」

 「僕は、お母さんはだいぶ前に亡くなってそこからお父さんと海街に移って。」

 「では質問します。あなたは今幸せですか?」

 「違う。」

 「ではもう一人のあなたは?」

 「幸せ。」

 「私と同じ。私も今は幸せとは言えないけどもう一人の私は幸せ。確かに私の嘘もあるけど事実もある。それはあなたも同じでしょ。」

 「どういうことだ?」

 「あなたのブログにはお母さんのことは一切出てこない、でも内容とか背景がちぐはぐ。私のは。」

 「やめろ。」

 「え?」

 「確かに俺のブログには嘘がある。でもそれをお前に指摘される道理はないし、だいたい俺はもう一人の自分が幸せなだけで十分なんだ。」

 「私だってそうよ。だから…」

 「俺にはもうかかわるな。」


 正木、ゲームを閉じ、アンインストールする


 琳、正木との個人チャットに存在する人にしてくださいと出るのに気づく

 琳、ゲームをアンインストールする


 「私っていつもそう。ついつい言いすぎてします。この間お義父さんに怒鳴られたばっかりなのに。」


 琳、進路希望調査の紙を見る

 琳、ボールペンを手に取る


 「東大の…」

 琳、静かにボールペンを置く


 「続きが書けない。」


 琳の自室をノックする音がする

 琳、慌てて東大理三と書く

 ドアが開く


 「はい?」


 養父、ゆっくり中に入る


 「進路調査希望用紙を書いていました。あの何か?」

 「どこにしたんだ?」

 「東大の理三。」

 「よろしい。」


 養父、机に問題集をどっさりとおく


 「これと明日までにやっとけ。」

 「こんなにたくさん?」

 「当たり前だ。東大の理三は難しい。これでもかっていうくらいやらないと絶対に受からない。」


 養父、部屋から出て、ドアをピシャリと閉める


 「こんなにたくさん。」


正木の家のリビング

 正木の父親が無言で夕食を食べている

 正木、皿にメンチカツだけ残している


 「このメンチカツは俺が作ったんだ。どうだ?」

 「どうして作ったの?」

 「そりゃお前が前に食べたいって言ってたから。」

 「それ言ったのだいぶ前だよね、しかも父さんのメンチカツじゃない。」

 「誰が作っても一緒だ、レシピは同じだから。」

 「違う、そうじゃない。」

 「もういい。嫌なら食べなくてもいい。」

 「ご馳走様。」


 正木、父親と目を合わせずリビングを出る

 父親、正木が残したメンチカツを食べ、妻が残した晴ノートを見る


 「レシピは同じなのに。」


正木の家の自室

 正木、布団に寝転ぶ


 「はあ、さっきのメンチカツ味は母さんのと全く同じだ。でもどうして俺は受け入れることができないんだろう。」


次の日(休日)

 正木、リビングに下りてくる

 父親、スーツに着替えている


 「おお、起きたか。」

 「起きた。」

 「すまんな、せっかくの休日なのに急な商談が入っちゃって。」

 「いいよ。行って来て。」

 「朝食そこに置いといたから。」


 父親、テーブル指さす


 「うん。」

 「それとこれ。」


 父親、ポケットから模試の知らせのチラシを出す


 「学校から受けるように来ていただろ。申し込んどいたから。」 

 「ちょっと勝手に。」

 「それと今日だから。じゃ後はよろしく。」

 父親、正木に手を振って家を出る

 正木、チラシを見る


 「5月2日。今日じゃん。急がないと。」


 正木、急いで動き出す


琳の家の継父の部屋

 琳、ノックして部屋に入る


 「あの問題集は終わったんだろうな。」

 「終わりました。」

 「今日模試がある。受けてこい。」

 「模試ってそんな急に簡単に言われても。」

 「行けないのか?」


 継父、威圧的になる


 「行けます。」


 継父、笑顔になる


 「そうだ。それでこそ俺の娘だ。そうだ送っていってやろう。」

 「ありがとう。」


東京駅

 正木、丸の内を見渡す


 「ここがかの東京かあ。」


 正木、笑顔で歩く


 琳、丸の内を見渡す


 「ここが東京かあ。」


 琳、笑顔で歩く


 正木、歩きながら考える

 琳、歩きながら考える


 「(心の中)でもあの琳っていう人、続きなんて言おうとしたんだろう。」

 「(心の中)でもあの正木っていう人、私の話を遮ってまでしてなんと思ってたんだろう。」

 「(心の中)でも俺と境遇は似ている感じだった。」

 「(心の中)でも私と境遇は似ている感じだった。」

 「(心の中)ということは僕たち。」

 「(心の中)私たち。」

 「(心の中)会ったたらお互い分かるんじゃいの。」


 正木と琳、人込みの中すれ違う


 正木、少し歩いて立ち止まり振り向く

 琳、少し歩いて立ち止まり振り向く

 正木と琳、目が合う

 正木、人込みに流されてもつれるようにして歩いていなくなる

 琳、人込みに流されてもつれるようにして歩いていなくなる

 琳、正木に赤い箱で濃い赤の紐のついているのを投げる

 正木、つかむ


カフェ

 正木、窓側の席に座り、今日のテスト問題を広げている

 正木、ポケットから赤い箱を取り出す

 正木、紐を外す

 正木、箱を上げる

 正木、箱から鏡を取り出す


 「鏡?」


 正木、鏡で自分の顔を映す


 「それにしても傷一つない鏡だな。よくこんないいやつ見つかったよな。」


 正木、鏡を箱に戻し、ポケットにしまう


 「(心の中)落としたのかな?」


 琳、子供で溢れかえっている公園のベンチに座る

 琳、鞄から模試の問題用紙を取り出す


 「はあ、全然わかんなかったな。またお義父さんに怒られちゃう。」


 琳、ポケットからスマホを出し、ネットを付ける


 「だいたい持ってお義父さんはどうしてあんなに学歴にこだわるのよ。子供の話を全く聞かないで。」


 琳、検索ボックスで笹木辰と調べる

 すぐにヒットがかかる

 琳、画面見て驚く


 「これって‼」


 琳、スマホをポケットにしまう


 「(心の中)お義父さんのプロフィール、誹謗中傷のコメントで溢れている。確かにお義父さんは横暴かもしれないけど一度も手を挙げたことはない。それにいつも自室にこもっている。きっと相当な努力をされていらっしゃるんだわ。でもウキペディアには小中は地元で過ごし、お金持ちの家について海外に渡りそこの高校大学を卒業、教授の推薦により某有名企業に就職そこでも器量を見込まれ日本に帰国後不動産業を営んでいる。結構幸運な人だけどここには努力が隠れている。」


 琳、立ち上がる


 「(心の中)決めた、私お義父さんと真正面から話してみる。そしてどんなことが起きようとも事実を話す。」


病院

 正木、病院の正面玄関に立っている

 後ろから医師が歩いて来て正木に気づき話しかける


 「君はもしかして正木君かな?」

 「はい。」

 「やっぱりそうだよね。僕のこと覚えている?」

 「?」

 「やっぱそうだよね。もう10年も前のことだからね。」

 「あの…どなたですか?」

 「君のお母さまを診た茂木内科腫瘍専門医だよ。」

 「茂木先生…」

 「ここで会ったのも何かの奇遇だろう、どうだ中で話さないか?」


病院の懇談室

 茂木医師、正木に暖かいお茶の入ったマグカップを渡す


 「君はどうしてここにいたんだい?」

 「ひ、人を待っていて。」

 「そうだったのか、どのくらいで終わりそうなんだ?」

 「し、しばらくは…しばらくはかかりそうだって。」

 「そうか。いや、君のお母さまを本当に残念だったよ。」

 「あの…」

 「?」

 「一つ教えてもらってもいいですか?」

 「何なりとどうぞ。」

 「どうして父さんは母さんの病気のことをぎりぎりまで僕に教えてくれなかったんですか?それに母さんまで。」

 「それはやっぱり君がまだ子供だったからだよ。今病気のことを知ればお父様もお母様もきっと悲しむ。」

 「教えてくれた方が心の整理がつくではないですか、何も突然別れるようなことに。」

 「君は今でも子供なんだね。」

 「僕は今18です。選挙権だって持てます。クレジットカードだって作れます。それのどこが子供だと言うのですか?」

 「それを言っていること自体を子供だと言っているのだよ。あの時君のお母様はすでに末期がんで当時の医療では助かる見込みはなかった。お母様はそれを受け入れた。もしあの時の君がそのことを知ってしまい騒いだらお母様だって死ぬに死ねないではないか。」

 「でも。」

 「でもだよ。今の医療では完治までとはいかないが腫瘍を最小限まで抑えることはできる。人の命って何なんだろうね。」

 「あなたは母さんを何だと思っているのですか?」

 「クランケの一人だ。それしかない。でも君は18だ。これからのことでも決める時期だろ。」

 「はい。」

 「人生は一度切りだ。有意義なものにして欲しい。」

 「あの…もう一ついいですか?」

 「どうぞ。」

 「もう一人の自分…何だと思いますか?」

 「もう一人の自分?」

 「分からなければいいです。」

 「聞いたことはある。有名な先生がおっしゃった言葉だろ。俺は特に意味はないと思う。」

 「どうしてですか?」

 「自分はこの世に一人しかいない。だから。」

 「そうですか…あ、もうすぐ終わると思うので。」

 「そうか。お大事にて伝えておいて。」

 「はい。」


琳の家のリビング

 琳、リビングでテレビを見ている

 継父、話しかける


 「琳、テストどうだった?」

 「そこそこ良かったよ。」

 「〇か×かで聞いているんだ。」

 「〇。」

 「そうか。」

 「あのお義父さん。」

 「何だ?」

 「私やっぱり農学系の大学に行きたい。」

 「やめとけ。」

 「東京に農工大があってそこの農学部に通いたい。」

 「だからやめとけって言っているだろ。」

 「じゃあ東大の農学部は?」

 「どうしてそんなに農学部に入りたいんだ?」

 「どうしてお義父さんは農学部を嫌うの?」

 「それは。」

 「やっぱり自分が叩かれているから?」

 「は?」

 「それとも自分の努力を踏みにじられているから?自分をバカにされていると感じているから?」

 「…」

 「確かにお義父さんの経歴は運が入っているのかもしれない。でもそれはお義父さんの努力が入っているからでしょ。確かにお金持ちの家について海外に渡った。世間から見たらただの幸運だったにしか見えないかもしれないけど私は違う。某有名企業に就職できたのも力量を見込まれて日本に帰り不動産業をしているのも運じゃない。」

 「…」

 「全ては努力なんだよ。」

 「…」

 「そう、じゃないの?」

 「…そうだ…」

 「だったら。」

 「だからこそ君には有意義な人生を送って欲しいんだ。僕みたいに。ネットにいろいろ書かれるよりもきちんと努力をしていいところに入りいい仕事に付けばもう世間は何も言わない。僕の家庭にはお金はたくさんある。だったら人が羨むような、仕事をするべきだ。」

 「私がどうして農学部に入りたいって言っているか考えたことある?」

 「…」

 「ないでしょ。私は生物について学び本当のお父さんを探したいんだよ。かなり前になるけどお父さんが来ていた服が山の中で見つかったんだ。私は農学部の生物科に入り本当のお父さんを探したい。」

 「もう死んでいるのかもしれないんだぞ。」

 「それでもいい。」

 「勝手にしろ。」

 「お父さんはあなた見たいに人から何か言われることを恐れる、そういう人間ではなかった。もっとおおらかにしている人だった。でもあなたは?あなたは他人からの評価を重視していてまるで自分という人間がないみたい。」

 「だったら。確かに君と僕との間に血縁関係はない。好きにしろ。」


正木の家

 正木、家に着く


 「ただいま。」

 「お帰り、今餃子でもやってみているところだから。」


 正木、フライパンの蓋を取る


 「焦げてる。」

 「そうなんだよ、意外と難しいんだな。」

 「あれ晴ノートは?あれがないと。」

 「俺の手作りだ。味は確信できない。」

 「父さんが…父さんが作ったものは…何でも…おいしいと思うよ。」

 「そうか。」


 正木と父、焦げ焦げの餃子頬張る


 「焦げているところ嫌だったら残してもいいんだからな。」

 「いい、食べる。」

 「そうか。」

 「父さんさ。」

 「なんだ?焦げだったら。」

 「焦げじゃなくて。」

 「味がついてなかったか?」

 「いや、そうじゃなくて。」

 「じゃあどうした?」

 「父さんは僕のことを思っていたんだね。」

 「急にどうしたんだ?」

 「父さんは僕のことを思っていたからあえて母さんの病気のこと言わなかったんだね。」

 「急にどうしたんだ?」

 「今日実は病院に行ったんだ。母さんが入院していた。」

 「それで?」

 「あの時の医師に会ったんだ。」

 「何て言ってたんだ?」

 「父さんは僕と母さんのことを、母さんは僕のためを考えてあえて言わなかったんだね。」

 「あの時、正木とちゃんと向き合て話せなかったこと今でも悔やんでいる。」

 「ねえ、今だったら言える?どうして言ってくれなかったのか。」

 「もちろんだ。」


 父は静かに箸をおいた


 「あの時病気でもう治らないかもしれないと聞かされた時僕は正木をどうしようかと思った。それで妻と相談した時ぎりぎりまで知らせない欲しいと言われた。もちろん僕は理由を聞いた。妻は私のためであると静かそう言った。」

 「じゃあ母さんの言う通りに従ったということ?」

 「母さんの言う通りにすることが母さんのためになるそう思っていた。」

 「…」

 「そこまでは母さんの言う通りにしていれば良かった。でもいざいなくなった時、僕は料理が全くできなかった。今まで正木のことを母さんに任せっきりだったからだ。でもある時母さんが残した晴ノートを見つけた。それでそこに書いてあることを忠実にやったまでだ。」

 「ん?ちょっと待って。母さんの言う通りにしていただけだということ?」

 「そうだ。」

 「それは違うよ。父さんは何にも分かっちゃいない。母さんが残した晴ノートの意味。」

 「どういう意味だ?」

 「それは自分で気づいてよ。もういい。ご馳走様。」


 正木、椅子から立ち上がりリビングを去っていった

 父親は茫然として正木を見送った


正木の家の自室

 正木、布団に寝転ぶ

 電話が鳴る

 正木、電話に出る


 「はい。」

 「俺だ。忍だ。」

 「どうした?」

 「お前今ヤフーニュース見られるか?」

 「見れるけど?」

 「いいからみて見ろ。じゃあな。」


 電話、ガチャリと切れる

 正木、ヤフーニュース見る


 「何これ‼」

 ヤフーニュースには高校三年生が作文コンクールに応募した作品が高校生とは思えないくらい素晴らしいであると書かれている


 「どうして?」


 正木、記憶をさかのぼる


 「(心の中)でも前に僕が先生に提出した時、先生は別の人をほめていた。なのに僕の方が素晴らしいになっているどうして?」


 正木、琳のブログ開く


 「琳…これを見てどう思っているんだろう。」


琳の家

 琳、ネットニュース見ている

 琳、見ている手が止まる


 「なおどう学年の作品も最優秀賞に選ばれた。こちらの作品も前記に値するくらい素晴らしいものだとなっている。私の作品が選ばれた。」


 琳、正木のブログ開く


 「(心の中)私は彼のもう一人の自分を写して書いただげ。でも正木はこれを見てどう思うんだろう。」


 琳、正木のブログからテレビ電話を押す

 正木、琳のブログからテレビ電話を押す


 「もしもし。」

 「もしもし。」

 「あの…今暇?」

 「暇だよ。」

 「良かった。あの…その…話したいことが…」

 「私も、私もあなたに話したいことがある。」

 「作文の件はごめん。あれは君のブログを写したんだ。」

 「私こそごめん。あなたのブログを写した。」

 「え?」

 「あなたも?」

 「あと…この間のゲームの会話ごめん。ちゃんと君のこと理解していなかった。」

 「私こそあたかもあなたのことを全て知っているような振りして言ってごめん。」

 「でも大人たちは結局もう一人の自分を評価するんだね。」

 「私たち自身を評価しているわけじゃないのね。」

 「ねえ君ってさ、もしかして。」

 「あなたはもしかして。」

 「もう一人の自分ってさ。」

 「もう一人の自分は…」


 琳、テレビ電話が突然切れる

 正木、驚く


 「続き、何て言おうとしたんだろう。」


 正木、布団に寝そべる


次の日の朝

 忍、正木の布団はぎとる


 「おい、正木起きろ。」

 「何?人の部屋に勝手に入るなよ。」

 「聞いたか、明日は町の漁師になるための祭りだぞうだ。」

 「祭り?」

 「ああ、その祭りで今度漁師になるもんを紹介するんだべった。」

 「なぜ急になまる?」

 「いいから、それで?お前は来るんか?」

 「ん…」


 正木、リビングに下りる

 正木、テーブルのメモ用紙見る


 「これ何?」

 「何ってお前の父さんからじゃないのか?」

 「明日、西表岬で祭りがある。僕は手伝いがあるので、今日は帰れない。だから漁師になりたいなら明日の早朝に岬の神社まで来い。」

 「ほら、来る?来ない?」

 「俺、父さんと進路の話したことないんだ。」

 「え?マジで?」

 「マジの中のマジで。」

 「どうするの?」

 「父さんは俺が漁師になると思い込んでいるようだ。」

 「そうみたいだな。」

 「少し考えさせてくれないか?」

 「じゃあ夕方また来るな。」


 忍、家から出る

 正木、布団に横になる

 正木、スマホ見る


 「(心の中)琳は、何か言いかけて終わった。というか突然切れた。でもいきなりそんな切れ方するのか?もしかして何かあったんじゃ?。」


 正木、立ち上がる


 「俺は母さんを助けることができる医者になりたいんだ。そうだこれだ。これが俺がずっと悩んでいたものだ。そして琳のところに行って続き何を言おうとしたのか聞き行こう。それで父さんに俺の気持ちをきちんと話、東京に行こう。」

 「琳って誰なんだ?」


 正木、驚いて振り向く

 忍、部屋のドアに立っている


 「帰ったんじゃないのか?」

 「帰った。けど戻ってきた。忘れ物した。と言うよりわざと忘れ物した。」


 忍、机から自転車の鍵とる


 「正木が最近変だったからだよ。」

 「変?」

 「受業をやけに真面目に聞くし、スマホは良く見るし、かといっては進路は決まっていないって言うし。その琳って言う人に会いたいんだ。」

 「聞いてたな。」

 「お前の声がでけえだよ。」

 「琳に会って話がしたい。続きを聞きたい。けど…」

 「けど?」

 「場所が分からない。」

 「探してやろうか?」

 「え?」

 「その感じだと今まで一度も会ったことがない人と会うっていう感じじゃん。」

 「これなんだ。」

 「良くブログで会った人と会おうって思えるな。」

 「僕は続きを聞きたい。」

 「詐欺かもしれないんだぞ。」

 「それでもいい。僕は続きが聞きたい。」

 「分かった。写真を集めて場所の特定をしよう。」

 「分かった。」


 「この井戸は?」

 「お父さんらしき人とだな。でもそれだけじゃどこか分からない。」

 「でも森でも写真が多いな。」

 「森に住んでいるんじゃないのか?」

 「じゃあ森に行こう。」

 「日本の国土のどれくらいが森だと思っているのだ。」

 「4分の3。」

 「無理だ。もっと絞れないと。」

 「この野原綺麗だな。」

 「どれ?確かに綺麗だな…」

 「どうした?」

 「俺ここ行ったことある。」

 「え?」

 「ここ子忍び森じゃん。」

 「こ…」

 「子忍び森。俺が前に部活の大会でここの前をバスで通ったぞ。」

 「どこ?」

 「長野県の子忍び村というところのさらに奥の方に子忍び森というところがあってその前にバス停の最終地点でそこからさらに奥に入ったところにある。さらに奥に行くと別のバス停がある。」

 「そこまで行こう。」

 「行こうってどうやって?」

 「どうやってって?」

 「で、電車で。」

 「無理だよ。どうしてそこが子忍び森って言うか知っている?」

 「知らない。」

 「やっぱり、おじいちゃんが言ってたんだけど、おじいちゃんのお父さんつまりひいおじいさんが子供の時にそこの森で迷子になった子供がいてその子を近所中の人で探したんだけど結局見つからなかっただって。それでその子供の名前はりんて言うんだ。それでも行くと言うのかい?」

 「僕は…僕は将来医者になりたいんだ。なってお母さんのような不治の病の人を一人でも多く助けたい。それを琳に伝えたい。もう一人の自分が何なのか僕の考えをはっきりと伝えて。それから東京に行く。」

 「よし、そこまで言うのなら協力してやる。外に俺の親父の軽トラがあるからそれに乗せてもらって行け。」

 「最初っからそのつもりで。」

 「俺だってな近所に住む人として。同級生として。友として。正木を助けるよ。」

 「忍…ありがとう。」

 「お前の親父には学校の都合で行けず、しばらくは俺ん家でクラスって言うことにしといてやる。」

 「ありがとう。」


琳の家の前

 正木、琳の家の前に立つ


 「ここだ。」


 正木、チャイムに手を伸ばした時にノックに巾着がかかっていることに気づく


 「何だろ?」


 正木、巾着を開け、鏡を取り出す


 「鏡?」


 正木、上着のポケットから琳からもらった鏡を取り出す


 「これと似ているな。」


 正木、鏡どうしを合わせる

 鏡がつながる


 「正木、二面協。」


 正木、表札が地面に落ちているのに気づく


 「笹木。へえ~琳って名字笹木って言うんだ。二面鏡か、二面鏡って自分の顔がちょうど二面で映るんだよね…」


 部屋の中は真っ暗で中に家具があるようには見えない


 「引っ越しちゃったのかな?でも最後何て言おうとしたんだろう?二面鏡…は‼」


 正木、顔を上げる


 「もう一人の自分はずっと隠してきた本当の自分なんだ。」


 正木、軽トラに走る


 「おじさん。」

 「何だ?」

 「家に帰ろう。」

 「もういいんか?」

 「いい。言いたいことは分かった。」

 「そうか、乗って。」


祭りの中

 人込みをかき分けて正木は父親を捜す


 「父さん。」

 「正木、学校はいいのか?」

 「俺、実は学校に行っていないんだ。」

 「そうか。これ飲むか?」

 「飲む。」


 父、正木に缶コーヒーを手渡す


 「苦っ。」

 「ハハハ、まっだ子供だな。」

 「父さん、話したいことがある。」

 「僕もある。正木、母さんがもう治らないということをずっと黙っていて本当にすまない。確かに母さんが心配をかけるから黙ってくれと言ったことは事実だ。でも…母さんがもう助からないということを受け止めることができていたのは正木の方なのかもしれないな。」

 「父さん僕さ。医者になりたい。母さんのような不治の病を助けられるような医者になりたい。」

 「そうか。」


 父、正木に共通テストの受験票を見せる


 「今日、何日か分かるか?」


 正木、時計確認する


 「一月十四日。」

 「明日は?」

 「十五日。あ‼」

 「だろ。明日は共通テストの日だ。これを持って東京に行け。」

 「うん。」


 正木、玄関で靴を履く


 「正木、これ持って行け。」


 父、正木にお弁当手渡す


 「これ。昼飯。」

 「ありがとう。行ってきます。」

 「行ってらっしゃい。」


試験後

 正木、エスカレーターに乗っている

 反対側から琳、乗っている

 二人とも、お互いに気づく

 正木、鏡の半分を琳に投げる

 琳、キャッチする

 正木のスマホの通知音がなる

 正木、スマホ見る

 正木、琳のブログ見る


 題名無し


 正木、琳を見上げる

 琳、優しく微笑み、同級生達に混ざる

 正木、笑顔でエスカレーターを駆け降りる

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題名無し @reina0526

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