第22話 悪役令嬢への感謝

 お悩み相談の休みの日、


 私と殿下は、授業が終わると、ファセリア公爵家の馬車で、わが家に向かう。なぜなら、わが家には、ジュリアンが産んだ子犬がいるからだ。ジュリアンは、5匹の犬を産み、1匹を譲ってもらった。とても可愛いのだ。私は、溺愛している。その子犬を殿下も見たいというので、一緒に向かっている。


「子犬か・・・・。可愛いんだろう? 会うのが楽しみだ。・・・・で、何て名を付けたんだ? 」

 と殿下は微笑む。

「ディーです」

「ディー? 」

「えぇ、あのお悩み相談室にある犬のぬいぐるみを知っていますか? 」

「あぁ」


「ディーは、あの犬のぬいぐるみに、偶然にもそっくりなんです。私は、あのぬいぐるみに、アクターDと名をつけてました。ちなみに、Dは、ドッグ(犬)のDです。私のアシスタントにしようと思いアクターをつけDにしたんです。ですから、アクターDにそっくりなので、アクターをとって、Dにしました。ディーです」


「へぇー、そうなのか。いい名だな」

「ありがとうございます。本当に、すごく可愛いんです! 私、ディーと食事も一緒に取るし、湯あみも一緒にするし、夜、一緒に寝てるんです。もう可愛くって」

 私は、微笑む。

「それは、溺愛しているな。ディーが羨ましい限りだ・・・・。」


 と話していると、馬車は、わが公爵家に到着した。殿下が先に降り、私に手を出す。私は、その手を取り、馬車を降りた。


 すると、公爵邸の中から「キャン、キャン」とディーの鳴き声がする。いつものことだ。私が帰って来たことがわかるようなのだ。ディーは、小さい体を一生懸命使って、私のところに走ってくる。この姿、涙が出てしまいそうなほど、愛おしく、可愛いのだ。私の足元のところへ来ると、しっぽを一所懸命振って、私を見上げる。ディー、可愛いわ。

 ディーを抱き上げ、抱きしめ、ディーの頬にキスをする。すると、横にいた殿下が、「ディー、いいな~」とぼそっと言った。私は、聞かなかったことにする。


 それから、私は、ディーと殿下と庭園にあるテラスに行き、お茶にする。

 ディーは、殿下に抱っこされ、静かにしているが、殿下の顔を見ない。私の方を見るのだ。そして、うるうるした瞳で私に助けを求めるのだ。私は、心が痛む。そのため、ディーを殿下からすぐ回収した。殿下は、少ししか、ディーを抱っこすることができなかった。ディーは、ずっと、私の腕の中や膝の上にいた。


「ディーは、エミリアが大好きなんだな」

「えぇ、私もディーが大好きですもの。可愛くて・・・・」


 ディーがきてからわかった。ソニア様があんなにジュリアンを溺愛していることが・・・・。ソニア様もジュリアンが子犬の時から飼っていたと言っていたわ。今ならわかるわ。ジュリアンの気持ちになって、相談しに来てしまうのが・・・・。だって、可愛すぎるんですもの!


「ディーが羨ましい限りだ」

 と殿下は、笑う。私は、顔が赤くなる。殿下は婚約破棄後、変わった。最近の殿下は、気さくになり、愛情表現をするようになった。私は、まだそれに慣れない。


「エミリアは、優しいからな。ディーも慕うのだろうな」

「そんなことないです。私、優しくないんです。だって、私、お悩み相談に来た方の悪役令嬢をやってるんです。意地悪してるんです」

 殿下に真実を話す。


「名前をアクターSにしてたのも、悪役令嬢の悪を使って、アクターとしてたんです」

「ははっ、そうだったのか。エミリアは知らないのか? 今は、皆、アクターS♡ のことを カミターS♡ と呼んでいるぞ。カミタ―のカミは神だ」

「えっ、知らなかったわ」


「アクターS♡ 様のところに相談に行くと、お悩みがスッキリすると言って、神のようだ。ってところから、いつの間にか、神タ―S♡ 様になっていたぞ。良かったな、皆に、感謝されてるぞ」

「えっ、そうだったんですか。全く知りませんでした。私は、意地悪しているつもりなのですが、なぜか、皆に感謝されてしまっていたんです」


「なぁ、エミリア。物語には、主人公がいて、悪役がいるだろう。物語の悪役の役目ってなんだ? 」

「そうね。物語の憎まれ役でしょう」

「そうだな。憎まれ役だな。でも、その憎まれ役がいるからこそ、主人公が引き立ち、物語がおもしろくなるわけだよな」

「そうね」


「私たちの人生という物語では、自分が主人公だろう。その自分の人生という物語に悪役がいたら、その悪役は、その自分という主人公の人生を引き立ててくれるわけだ。だから、悪役は、そんなに悪い奴ではないんではないか? 私も婚約破棄をし、エミリアの人生の悪役令息になったわけだろう。エミリアの人生を引き立てたのではないか? 」


 本当は、殿下は、私にとって悪役令息ではなかった。私は、あの時、婚約破棄したかったのだ。でも、そんなことは、言えないわ。


「えぇ、なったわ。悪役令嬢になるきっかけになり、今があるわ。今、とても楽しいわ。本当の友達もできたし・・・・」

「悪役令息になった私を感謝してるか? 」


「そうね。今になって思えば、感謝しているわ」

 確かに・・・・。あの婚約破棄があったからこそ、パキラという本当の友達もできたし、悪役令嬢しながら、お悩み相談の経験もできたわ。


「そうか。つまり、エミリアの悪役令嬢も相談者の人生を引き立てたのではないか? だから、相談者に感謝されたのではないか」


「そうなのかしら。そうだといいわ」

 悪くないのね、悪役令嬢って・・・・。

 これからも続けたいわ!




 私は微笑みながら、膝の上にいるディーを撫でた。ディーは寝ているようだった。

 私と殿下は、ディーの寝ている可愛い姿を見た後、顔を見合わせ、微笑んだ。




 そんな私と殿下の様子を公爵家の中で、父と母、兄、そして陛下が微笑んで見ていたそうだ。




「殿下、ところで、私は、もうお悩み相談できないんでしょうか? 」

「なんで? 」


「だって、殿下の婚約者に返り咲いたんですよ。王太子妃教育をまた受けなくてはならないでしょう? 」

「あぁ、それなら、問題ない。エミリアは、王太子妃教育はもう終了だそうだ」

「えっ」


「そもそも、あと1カ月で、王太子妃教育のカリキュラムは終わる予定だったらしい。それと、学院の理事長が、エミリアは、王太子妃教育はもう受ける必要はない。と助言してくれたんだ。充分、王太子妃としての資質が身についてるってな」

「えっ、そんなに理事長って偉いの?」


「えっ、エミリア知らないのか? 理事長は、私の祖母だ。つまり、王太后だ」

 えー、なんてこと! 王太后をロベリアお婆さんなんて呼んでしまっていたの。顔が真っ青になる。

 殿下は、笑いながら言う。



「引き続き、お悩み相談をしてほしいそうだ」

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婚約破棄された悪役令嬢は、『あなたのお悩み解決しません! 』 さくらのあき @hako03

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