第21話 お悩み内容:他国に行きたい R.S
さぁ、今日は、どんなお悩みが聴けるのか楽しみだわ。
カレンダーの今日の日付の下には、R.Sと書かれていた。今日は、R.S様が来られるのね。
・・・・で、なぜか私の横に殿下が座っている。殿下もお悩み相談を受ける側をしたいのだそうだ。S.S様だった時の顔全体を隠す仮面と黒髪のかつらを着けている。そして、私と同じように鼻をクリップでつまんでいる。
ドアが開き、ドアにつけてあるベルがチリンチリンと鳴る。R.S様が部屋に入ってくる。男性だ。R.S様は、目の周りと鼻を隠す仮面をしている。
「どうぞ、お座りください」
私は、座るよう促す。私の机の先にある革張りの1人掛けのソファにR.S様が座る。
「R.S様、私は、アクターS♡ です。今日は、よろしくお願いします。そして、横にいるのは、私の弟子のアクターP♤ (スペード) です。勉強のためにご一緒したいと言ってるのですが、よろしいでしょうか? 」
殿下も名前が欲しいということでアクターP♤ とした。Pは王子のプリンスのP。♤ は、殿下が♡ は嫌だと言うからだ。♤ は、強そうだからということで、殿下の要望でなった。お悩み相談に強いも弱いもないのだけれど・・・・。
「はい、私は、構いません」
とR.S様は、私の方を向き答えた。
「よろしく頼む」
と殿下が言う。
「では、今日は、どういったお悩みで来られたのですか? 」
「はい、私は、この国が嫌いなんです。だから他国へ行きたいんです」
ギクッ。よりによって、殿下がいるときに、このお悩みですか・・・・。きっついわ。殿下、怒らないといいけど・・・・。ちらっと殿下を見る。R.S様を見て、黙っている。殿下、静かにしててよ。と心の中で言う。
「R.S様のお悩みは、他国に行きたいっていうことですか? 」
「はい、そうです」
うふふ、他国に行きたいのね。でも、私は、あなたの人生の悪役令嬢よ。他国に行かすなんてことさせないわ。この国に、一生いなさい。そして、どうか、無事にお悩み相談が終わりますように・・・・。とまた、ちらっと殿下を見る。なんで、こんなに緊張しながら、お悩み相談しなきゃならないの!
でも、
私は、『あなたのお悩み解決しません! 』と心で言う。
「なぜ、この国が嫌いなんですか?」
「私は、嫡男なんです。嫡男だから、親の爵位を継がなければならないんです。私は、爵位を継ぎたくないんです、それなのに、この国は、嫡男が継がなければならないなんてバカげた法律がある」
あわわわ・・・・。私は、動揺する。バカげた法律を作った王族が私の横にいる。私は、また、ちらっと殿下を見る。黙っててね。と心の中で、殿下に言う。
「なぜ、爵位を継ぎたくないんですか? 」
「勉強が苦手なんです。特に領地経営で必要な計算が・・・・。先日の試験では、計算が20点しか取れなかったんです」
「ふっ」
殿下が鼻で微かに笑った。私には聞こえたが、R.S様には聞こえたかわからない。私たちとR.S様とは距離がある。聞こえなかったことを祈る。私は、殿下の足を踏み、睨む。「黙ってて下さい! 」と口だけ動かし、殿下に伝える。あっ、でも私、ベールしてるから殿下には見えないのよね。殿下は、私を見たが、なんせ顔全体を隠す仮面をつけてるのだ。表情が見えない。殿下に伝わったことを祈るしかない。
「まぁ、すごいですわ。20点も点数が取れたんですね」
「「えっ」」
R.S様と殿下が私を見る。
「そうでしょう。20点分も正解してたんですよ。凄いではないですか? あと、80点とれば、満点なんですよ! 」
プラス思考よ・・・・。R.S様、自信を持って! 殿下の足を自分の足で叩く。前の私では、こんなこと殿下にできなかったわね。
「あぁ、すごいではないか。20点も正解して・・・・。ところで、平均点はいくつだ? 」
殿下が言う。もう、殿下は! 平均点聞いてどうするのよ? あっそうか。平均点が低かったら、もっと持ち上げやすいものね!
「平均点は、82点です」
えっ、平均点高っ!
「勉強したのか? 」
「いえ、私は、小説を書くのが好きなんです。実は、親に内緒で小説本を出してます。それで、原稿を書く時間に多くとられ、勉強する時間がとれないのです」
「まぁ、小説を書けるんですか。凄いですわ。それに、勉強する時間が取れなくて、20点も取れたんですもの。凄いですわ」
「そうでしょうか? いつも、勉強する時間は、10分
「まぁ、10分
「そうですか? 」
「はい、10分
「全く勉強しなくても20点もとれるんだ。苦手なんではないんではないか? 10分もやればそうだろうな」
「そうですね。10分、計算の勉強してみます。それと、私は、「婚約破棄された魔法少女たちは幸せになる」という小説を書いているのです。おかげさまで、人気になり、シリーズ化もされています。ですから、爵位を継がず、小説家としてやっていきたいのです」
なんですって! 私のお気に入りの本の作者がこの目の前にいる方なの! 学生だったの! これは、だめよ。絶対、他国に行かせてわ! だって、他国に行ったら新刊が入ってくるまでに時間がかかるじゃない! 私が、その本のファンなんですと言おうしたら、
「ならば、特例措置を使えばいいだろう」
「「特例措置? 」」
何それ? 私とR.S様は、殿下の顔を見る。
「嫡男が、爵位を継ぐのは、法律で決まっているが、特例措置として、学術等で一定の成果を治めている者は爵位継承を他の者に譲ることができるとあるぞ。学者で、嫡男だが、爵位を継いでない者も今までにいるぞ。シリーズ化されるだけ人気のある書物を書けるのであれば、特例措置にあてはまるのではないか? 確認してみるとよい」
「本当ですか? はい、確認してみます」
私、知らなかったわ。さすがだわ、殿下。
「他には、何かあるのか?」
なぜか、殿下が主動になっている。
「はい、この国の殿下は、面前で、婚約破棄をしたんです。この国のトップとなる者が、そんな浅はかな態度をとるなんて、この国の行く末が不安です」
あわわわ・・・・。また、私は、動揺する。婚約破棄した張本人がここにいるわ。私は、また、ちらっと殿下を見る。黙っててね。と心の中で、殿下に言う。
「まぁ、面前で、婚約破棄したなんて、勇気のある、決断力のある方ですわね。これから、この国を引っ張っていくのに様々な決断をしなくてはいけないわ。それを勇気をもって決断してくれるはずだわ。とても頼もしいではありませんか? 」
「「えっ」」
殿下とR.S様が私を見る。ポジティブ思考よ。
「婚約破棄を言い出したのには、きちんとした理由があり、浅はかな態度をとったことは、その婚約者に謝罪し、和解し、元の婚約者同士に戻ったと聞いていますわ。きちんと反省し、和解もできるお方ですよ」
「そうでしたか・・・・」
そう、私は、殿下の婚約者として返り咲く選択をしたのだ。
パキラのポジティブ視点から、殿下のいいところを知ったら、なんか殿下に愛着がわいてしまったのだ。
なんだかんだあっても10年も婚約者だったのだ。殿下に少なからず愛着があるようだ。
それに、誰にでも間違いはある。反省し、謝罪してるんですもの許してあげてもいいわよね。
いい感じね。もう少しね。
「この国の殿下は、勇気があり、決断力もありながら、きちんと非は認め、謝罪し、和解をすることもできる頼もしいお方ですよ。不安ですか? 」
「そうですね。大丈夫そうですね」
「どうですか? 他国に行きたいですか? 」
ドキドキしながら聞く。
「いや。この国は、自分の生まれた国です。家族や友人もいます。爵位を継がず、小説家としてやっていける方法がありそうですし、頼もしい次期、国のトップがいる国です。この国に居たいと思います。他国には行きません。すっきりしました。ありがとうございます」
やったわ! 他国に行くことを阻止したわ。
これで、新刊はすぐ手に入るわ。
「それは、良かったわ」
私は、笑顔で言う。
うふふ、R.S様は、他国には行きませんと言ったわよね。
R.S様のお悩み、解決できなかったわ。
私、R.S様の
うふふ、これで、私は、あなたの人生の悪役令嬢になれたはずだわ。
おほほほ・・・・・・。
心の中で、悪役令嬢らしく高らかに笑う。
でも、完璧な悪役令嬢にはなりきれず、実は、今日も心の奥底で、ごめんなさいね。と謝っている。
殿下、静かになってしまった。
「殿下・・・・」
「エミリア・・・・。ありがとう」
「いいえ。殿下、誰にでも失敗はあります。これを学びとし、成長していきましょう! 」
「あぁ、そうだな。ありがとう」
「お互いの足りない部分は、補っていきましょうね! 」
私は、殿下の肩をポンポンと叩き、微笑んだ。
今日は、このお悩み相談室と理事長室の間のドアは、少し開かれていた。
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