脆くて弱い時計
青斗 輝竜
第1話
僕の時間は止まっている。
針は後ろに傾くばかりで前に動ここうとはしない。
誰かのせいじゃない、誰のせいでもないのだ。
それでもどこかで、自分が悪いのだと思ってしまう僕がいて――
「母さん……」
あの日、母が死んだ日から僕は一歩も動き出せずにいる。
いつも優しくてよく笑う……けれどおっちょこちょいで天然な人。
今日は一年忌。
母が死んでからちょうど一年が経った。
休日ということもあり、見知った顔もいれば全く知らない顔の人もいる。
中にはあの日から全く話さなくなった幼馴染の顔もあった。
「あ……」
彼女を見ていたら目が合った。
僕は気まずくなりその場を立ち去る。
こんな自分が嫌で嫌で仕方がない。
母が死んだ。そっとしておいてくれ――
僕はその日から全く人に関わろうとしなくなった。
ずっと仲良かった人も今ではただの他人だ。
――母が死んだから。
違う。
――母が死ななかったら。
違う。母さんのせいじゃ……。
――僕は一人にならなかった。
……違うんだ。
違うって分かってる。
僕が皆を遠ざけた。
分かっているのに頭のどこかで母のせいにしようとする自分がいるんだ。
非常にむかつくし滑稽だし虫唾が走る。
僕はどうして母のように上手く立ち回れないんだろう。
いつまで母の背中を追いかければ済むんだろう。
「――くん? ――くん!? 」
遠くで名前を呼ばれて振り返る。
……どうしてこうもタイミングの悪い時に見つかるんだ。
後一歩踏み出せば母さんと同じ場所に行けたのに。
――でも、ちょっと嬉しかった。
久しぶりに名前を呼んでもらえたことが、しっかりと目を合わせることができたのが、見つけてもらえたのが。
その子は僕を見つけるや否や、手を掴んで僕を引っ張る。
力は女の子にしては強くて僕なんかは簡単に引き寄せられてしまった。
彼女に触れたのは一年ぶりだろうか。
僕は彼女の胸の中にいて何も見えない。
「そんなこと絶対させないから」
震えた声で君が言う。
背中に温もりを感じ、僕も反射的に抱きしめてしまった。
けれど彼女は嫌がる素振りを見せず、より一層力を込めてくる。
「人ってこんなに暖かいんだね」
彼女は何も言わずただ僕を抱きしめ続けた。
どうしようもなく嬉しくて僕は一年ぶりに涙を零してしまう。
頬を伝い彼女の肩を濡らした瞬間、カチッという音がした。
何かつっかえていたものが取れたような時計の針が動いたような、そんな音。
脆くて弱い時計 青斗 輝竜 @KiryuuAoto
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