第6話 元冒険者の造る剣

 ――王都ローアン。

 巨大な城壁にぐるりと囲まれた城塞都市であり、その中で老若男女問わず莫大な数の人口が暮らしている。


 そんな都市の中にある、とある武器屋の店内。

 一組の冒険者パーティが陳列された刀剣をしげしげと眺めていた。


「うーむ……やはりこの店も……」


「やっぱりイマイチ?」


「ああ、あの剣より優れている物は置いてない」


 比較的身なりの整った彼らはAランククラスのパーティで、メンバーの誰もが相応の手練れであることはすぐにわかる。

 そんなパーティの剣士は、どうにも納得のいく一振りが見つけられないでいた。


 パーティ一行は武器屋を出て、次の店に向かおうとする。


「やれやれ……こんなことならカミルから買ったあの剣、製作者の名でも聞いておけばよかったよ」


「あれは安物なのにかなり上等だったよね。確か、元冒険者の武器職人が造ったってカミルが言ってたっけ?」


「ああ。よく斬れるし、多少荒っぽく使っても折れる気配すらなかった。まるで使う人間の、俺たちのことを考えて造ってあるような、そんな感じすらあったな。あれは確かに、元冒険者でないと造れないだろう」


「いい買い物だったのに、どうして酒場なんかでられるかね」


「し、仕方ないだろ。飲み比べでベロベロになってたんだよ……」


 ぐうの音も出ない剣士。


 実は彼は、少し前にレジンが造ったロングソードをカミルから購入していた。

 二束三文で買い取ったため当初こそ使い捨て同然にする気でいたが、いざ使ってみるとこれが実によく手に馴染む。

 軽過ぎず重過ぎず重心位置も完璧で、振るえばよく斬れ、それでいて耐久性も非常に高い。

 強いて欠点を上げるなら、見た目があまりに質素で地味だったことくらいか。

 だがそれすらも「冒険者の剣に煌びやかさなど不要」という製作者のメッセージが込められているようで、この剣士は好感すら覚えたほどだ。


 が、そんな一振りを彼はよりにもよって酒場で盗まれてしまう。

 泣く泣く代用を探しに来たのだが、どうしてもあの剣の代わりを見つけられない――というのが現状であった。

 それほどまでに、剣士はレジンの剣の虜になっていた。


「やっぱカミルが王都に戻ってくるのを待ったら? とりあえず妥協して一本買っといてさ」


「う……むぅ……しかしなぁ……」


「――なんだよアンタら、オレをお探しか?」


 剣士が苦悩し始めた矢先、そんな声が彼らの耳に入る。

 声のした方向を向くと、そこには荷馬車を引くカミルがいた。


「おおカミル! 戻ってきてたのか!」


「ああ、思わぬ収穫があったもんでな。飛ばして来たんだよ。それで、武器を探してんのか?」


「そうなんだ! 以前お前から剣を買っただろ? また、あれと同じ製作者の剣が欲しいんだよ! 売ってくれないか!?」


 カミルを見るや否や飛び付くように言う剣士。

 そんな剣士の言葉に一瞬ポカンとするカミルだったが――その顔は、すぐに含みのある笑みを浮かべる。


「へえ……あの製作者のなぁ……。まあ、あるけど? それも新作・・が」


「なに!? い、幾らだ!? 譲ってくれ、言い値を出そう!」


「まーまー慌てなさんなって。まずはそこいらの酒場にでも入ろうぜ? お披露目してやるからさ」


 カミルは荷馬車を停め、剣士たちを連れて付近の酒場へ入って行く。

 だがその入り口で立ち止まり、


「ところで……お前さん、本物の〝魔剣〟って見たことあるか?」



 ――カミルが王都に戻ったこの日より、一部の冒険者たちの間でとある噂が広まる。

 曰く――「〝魔剣〟を量産できる武器職人が現れた」と。


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魔材収集から始める武器職人の異世界ライフ メソポ・たみあ @mesopo_tamia

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