第5話 初めての〝魔剣〟

 こいつを初めて見たカミルは、期待通りの表情をしてくれた。


 剣身部にワイバーンの鋭い牙と爪が幾つも埋め込まれ、どことなく鎌やノコギリを彷彿とさせるデザイン。

 やや湾曲した剣身は撫で斬りに特化し、ダメージを倍増してくれる構造。

 さらに剣身の強度を上げるため、鱗や被膜を巻きつけてある。


 まさに戦うための一振り。

 荒々しい姿形で煌びやかな直剣の類とは似ても似つかないが、実戦で使われた時の破壊力は相当なモノだろう。


「こ、これが……」


「そ、俺が鍛えた〝魔剣〟の処女作。持ってみ?」


 俺はカミルに〝魔剣〟を手渡す。

 柄を握った彼は、


「……確かに、微弱だけど魔力が宿っているのを感じる。ってことは――」


「ああ、魔物モンスターが生きてた頃と同等の品質を実現した。威力を見せてやるよ」


 カミルから〝魔剣〟を返してもらい、工房の外へ赴く。


 俺がいつも切れ味のテストに使っている打ち込み台。

 十字の木の杭にはプレートメイルの胸当てが備えられており、俺はその前に立つ。

 そして――


「ハア――ッ!」


 〝魔剣〟を振り抜く。

 分厚い鋼で出来たプレートメイルが、まるで紙切れのようにズタズタの八つ裂きになる。

 これなら上位ランクの魔物モンスターの鱗でも喰い破れるかもしれない。


「ワイバーンの素材でもこれだけ威力があるんだ。さらに上位ランクの魔材を使えば、とてつもない業物になるだろう」


「す……凄ぇな……」


「名付けて〝翼竜鉈ワイバーン・マチェット〟ってところかな。試行錯誤はあったけど、とりあえず魔材さえあれば製造できる状態にはなった。……それもこれも、全部マルベリーがいてくれたお陰だよ」


 俺は工房の中へ戻り、長椅子に横たわって「すぅ……すぅ……」と小さく寝息を立てるマルベリーの頬を撫でる。


 彼女はこの二日間文字通り俺に付きっ切りになり、〝翼竜鉈ワイバーン・マチェット〟を仕上げるために尽力してくれた。

 魔力が武器から逃げ出さないよう最後に封印シールを行うまでほとんど休息も睡眠も取らず、俺の隣にいてくれたのだ。

 最後には魔力を使い果たし、疲れ果てて倒れるように眠ってしまった。

 全てが手探り状態だったので仕方なくはあるが、この製造工程もまだまだ改善の余地ありだな。

 ともかく、彼女にはもう感謝しかない。

 後でしっかり労ってあげないと。


「そうか……嬢ちゃんも頑張ってくれたんだな」


「……で、どうだ?」


「どうだ、って……」


「この〝翼竜鉈ワイバーン・マチェット〟、売れるだろ? お前なら」


 ニヤリと笑ってカミルに言う。

 そんな俺の言葉を受け、カミルは「はあああぁ~~」と長いため息を漏らしてしゃがみ込む。


「んん……むぅ……そりゃ売れるかもだが……ちょっと想像と違い過ぎるというか……いくらなんでもデザインが独特すぎる……。大雑把すぎて貴族や騎士にはウケないだろうし……。いや、コレクターならあるいは……? むむむ……」


 長考するカミル。

 まあ、こうなるだろうなと予想はしてた。


「なあカミル、出来ればこいつは冒険者に売ってほしいんだ」


「冒険者に? ま、待てよ、確かに実戦的な得物だが、それ以前にこれは〝魔剣〟だぞ!? それがどれだけ貴重かわかってて造ったんだろ!? なら積極的に金持ちに売るべきだ! 多少値切られたって、冒険者に売るより――!」


 俺は首を左右に振る。

 それは俺の望む形ではないからだ。


「……俺はやっぱり、武器ってのは実戦で使われてこそだと思う。確かに金は欲しいが、それ自体が目的なワケじゃない。今回こいつを造って思ったけど、俺は多くの冒険者に〝魔剣〟を供給できる武器職人になりたいんだ」


「…………〝魔剣〟が造れるなんて、どこぞのお抱えになれる可能性もあるぞ。権力者がバックに付けば、武器職人ギルドに睨まれる事態になっても動きやすくなる。これは友人としての忠告アドバイスだ」


「心配してない。俺にはお前がいるからな」


「あのなぁ、オレは真面目に――……いや、そうだわな。お前は昔からそういう奴だったわ」


「信ずるは頼れる仲間、だろ」


「へーへー、オレみたいないい仲間を持ったお前は幸せ者ですねっと」


 どこかふっ切れた様子で、カミルは立ち上がる。

 そしておもむろに髪をかき上げ、


「任せておけよ。現役バリバリの冒険者に、精々安値で売り付けてやる。継続的に納品できる契約先も見つけるつもりだから、覚悟しておきやがれ」


「そりゃ楽しみだ。こいつは忙しくなるな」


 俺とカミルは笑い合い、互いの手をがっしりと握った。


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