第4話 武器商人カミル
――時刻はまだ昼間。
ミードの町中は少ないながらも人が行き交い、穏やかな雰囲気を醸し出している。
数日前にワイバーンの襲撃があったなんて嘘のようだ。
そんな町の中、荷馬車に乗って通りを進む一人の商人の姿。
まだ若い商人は男性で、この町の人間でないことはすぐわかる。
彼は酒場の前で荷馬車を止め、馬から降りると入り口の扉を開く。
「よう旦那、景気はどうだい?」
「む、なんだカミルか。まあぼちぼちってなとこだな」
「なんだとはご挨拶じゃねえか。一杯飲みに来てやったのに」
カミルという商人は店主の前のカウンター席に座ると、はちみつ酒を頼む。
ミードのはちみつ酒は極上と名高く、町の名産品としてよく知られている。
なんならミードという町名自体が
カミルはそんなはちみつ酒をぐいっと煽ると、
「それにしても、この町は平和だねぇ。オレみたいな武器商人は商売あがったりだぜ」
「そうか? 農具の類は買ってやっとるだろうに」
「農具は武器とは言わねぇんだよ」
そんな答えを受けてハハハと笑う酒場の店主。
カミルは武器専門の問屋であり、所謂武器商人として生計を立ている人物だった。
だから武器が売れない町に行っても稼ぎにならない。
もっとも彼がミードを訪れているのは、売るためではなく仕入れるためではあるのだが。
「でもよ、そんな平和な町でもつい三日前くらいにヤバいことがあったんだぜ? 町の中にワイバーンが降りて来やがったんだ」
「! ワイバーンって、マジか? 何人やられた?」
「いや、誰も死ななかったよ。マルベリーとレジンのあんちゃんが手際よく倒してくれたんだ」
「ああ……マルベリーの嬢ちゃんはともかく、レジンの奴がいたか。あれでも王都じゃそこそこ名うての冒険者だったし、まだ腕は衰えちゃいないみてーだな。これで武器職人として有名にでもなってくれりゃ、こっちは付き合いを続けてる甲斐もあるってもんだが」
カミルはレジンの冒険者時代からの付き合いで、当時のレジンは彼から武具を購入していた。
そして立場が変わった今でも付き合いは続いており、今度はレジンがカミルに造った武器を卸すようになったのだ。
とはいえ、正直レジンの武器はまだまだ大きな稼ぎにならない。
こうして辺境の町まで仕入れに来てるのも友情が半分、未来への先行投資が半分というのが本音。
質のいい武器は造れるから、いつかは評価されるだろうが……それも何年先になることやら。
そんなことを考えながら、やれやれとはちみつ酒を飲むカミル。
すると、ふと店主が思い出す。
「そういえば、倒したワイバーンをレジンのあんちゃんが引き取ってたな。なんでも
「っ!? ぶふぅっ!?」
聞いた瞬間、カミルが吹き出す。
「お、おいなんだよ!? 汚ねえな!」
「ま、魔材で武器だって!? アイツ、マジで言ってたのか!?」
「ああ、ここ二日間は工房に籠りっきりだったけど……」
唖然とするカミル。
彼は魔材で造られる武器の価値がわかっていた。
その希少性も製造の困難さも。
仮に珍しくもないワイバーンの素材だったとしても、本物であったなら欲しがる冒険者はいくらでもいるはず。
王都の武器職人ギルドがいちゃもんをつけてくるかもしれないが、カミルにだって独自に築いてきたパイプがある。
売り物にすることはできるだろう。
闇オークションにでもかければ、物好きな貴族たちが無限に金額を上乗せしてくれる可能性だってあるのだ。
途方もなく夢のある話である。
もっとも、それも全ては本当に造れればの話。
レジンの奴は魔術なんて専門外だったはずだが……。
ともかく現物を見てみないことには始まらない。
カミルは適当に掴み出した代金をカウンターに叩きつけると、
「あんがとよ旦那! 釣りは取っといてくれ!」
酒場を飛び出し、馬に跨る。
そして荷馬車を引く馬を急がせ、町の隅に建てられた小さな工房へと向かう。
あっという間にカミルは工房に到着し、下馬するなり中へと飛び込んだ。
「おいレジン! ワイバーンの素材で武器を造るって聞いたが――ッ!」
工房内にはレジンの姿があり、まさに今の今まで作業をしていたという様子。
彼はニヤリと笑ってカミルへ振り向くと――一本の〝片手剣〟を掲げて見せた。
「待ってたよ、カミル。丁度
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