第3話 初めての魔材
ワイバーンを倒した後、俺は町長と相談して亡骸の処理を任せてもらった。
そして件の出来事の翌日――
「よし、まあこんなとこかな」
自分の工房で風呂敷を広げ、俺は手に入れた素材たちをしげしげと見つめていた。
「お疲れ様ですレジンさん。解体の方は終わられました?」
「ん、ナイスタイミングだなマルベリー。今呼びに行こうとしてたとこだよ」
丁度いいタイミングでマルベリーもやってくる。
今から始めることには彼女の力も必要だったろうから、まさにジャストタイミングだ。
「それで、これが……」
「ああ、ワイバーンの牙に爪、尻尾、鱗と皮、それと飛膜……。だいたい取れるところは取り終えた。使えそうもない部位は解体場のおやっさんに任せたよ」
俺とマルベリーの前に並ぶのは、ワイバーンをばらして剥ぎ取った部位の一覧。
現状、俺が
ワイバーンの骨は飛行するために軽くて脆いから、使えそうなのは牙と爪くらい。
もっとも、これも早く処理を始めないと役立たずになるだろうけど。
「でも……本当に造るんですか? 〝
「ああ、本気だ。やるだけやってみる」
「そもそも
「いや、正確にはごく少数存在してる。所謂〝魔剣〟とか〝魔槍〟なんて呼ばれる物だ。ただ貴重すぎて、並の冒険者じゃ手にすることすら不可能だろうな」
「それってやっぱり――」
「理由は色々ある。でも一番は魔材の加工が難しいからだ。マルベリーも、魔術師なら知識はあるだろ?」
「魔材には基本的に
「あっという間に脆くなって使い物にならなくなる。このワイバーンから剥ぎ取った素材も、あと二日もすればダメになるはずだ。この加工難度が大量流通を許さない一番の原因。それで二番目の理由は――」
「製造工程に必要な魔術師と、武器職人の確執ですか?」
「正解。流石はマルベリー」
「えへへ……ありがとうございます」
「武器職人と魔術師っていうのは、どちらも伝統を重んじる技術職だからな。互いの領分に強いプライドを持ってる。武器とは鋼を槌で鍛えるべき、魔術とは魔術書と杖に宿るべき、手を取り合うなんてまっぴらごめん、ってさ。魔術師と繋がりを持つ武器職人なんて王都じゃ変人扱いだし、魔術に精通した武器職人ともなれば国中探して一人いるかどうか……」
「それに仮に手を取り合ったとしても、王都なんかじゃギルドの利権も絡んでくるでしょうからね……。武器職人ギルドは特に保守的だって聞いたこともあります」
「それも俺が辺境で武器職人をやる理由だな。ま、俺は元冒険者だから確執なんて気にしないけど」
そこまで話して、俺は改めて彼女へ向き直る。
「さて、ここまで話せば俺がマルベリーを呼びに行こうとした理由もわかってくれるんじゃないか?」
「はい! レジンさんが魔材で武器を造るのを、お手伝いすればいいんですよね!」
マルベリーは意気揚々と言ってくれる。
流石、察しが良い。
この子の協力的な姿勢は、本当に助かるな。
「そうだ。マルベリーには作業中に魔材へ魔力を送り込んで品質を管理、完成したら魔力が逃げないように封じ込めてほしい。できるか?」
「や、やってみないことにはわかりませんが、理論上はできると思います! いえ、やらせてください!」
「ありがとう。やっぱりマルベリーがいてくれて、本当によかったと思うよ」
「そ、そんなぁ……うぇへへ……」
「勿論手伝ってもらうからには、きちんと対価を支払う。それと丸二日は俺に付きっ切りになるかもだけど、そこは勘弁してくれ」
「へ……? そ、それってつまり、二日間もレジンさんのお家にお泊りになるってことですか!?」
「まあ、そうなるな」
「しょ、しょんな……! レジンさんのお家に泊まって、二日間もずっと一緒だにゃんてっ……! わ、私平静を保てるかどうか……!」
「あー、その、出来るだけ汗臭さみたいな匂いは気をつけるから、な?」
「いえ、大丈夫ですからどうかお気になさらず! むしろ気をつけないでほしいと言いますか……!」
「う、うん……うん……?」
なんだかよくわからないが、やる気があるのは確かなようだ。
さて――問屋のカミルがやって来るのは三日後くらいか。
アイツが完成品を見たらどんな顔するか、今から楽しみだ。
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