第2話 魔物襲来

 町全体に響き渡るように、そんな声が響く。


「い、今のは……広場の方からです!」


魔物モンスターだって……!? どうして町の中に……!」


 魔物モンスター――その単語に、俺とマルベリーは息を呑む。


 言うまでもないが、町の中に魔物モンスターが出没するなんて極めて稀だ。

 少なくとも俺がミードに来てから一度もない。

 

「と、とにかく行ってみましょう!」

「おう!」


 俺は鍛えたばかりのロングソードを手に工房を飛び出し、広場へと走る。


 冒険者を引退してから数年のブランクがあるため昔のように身軽ではないが、それでもマルベリーに遅れを取るほどじゃない。


 そして俺たち二人が広場に着くと、そこには――


「ワイバーン!? 群れからはぐれたか!?」


 一匹の翼竜ワイバーンの姿があった。

 そいつは大の大人よりややデカいくらいで、ワイバーンとしては小型な方だろう。

 

 ワイバーンは基本的に群れを成すため、一体だけ現れるというのは存外珍しい。

 とはいえ周囲の空を飛び回る仲間の姿もないことから、群れを見失ったか群れから追い出されたか――。


 どちらにせよ、一匹だけなのは幸いだ。

 今この場で戦えるのは俺とマルベリーくらい。

 こんなのが十数匹もいたら、俺とマルベリーだけじゃ手に負えないからな。


『キシャアアアアアアア!』


 ワイバーンは大きな翼を羽ばたかせて飛翔しようとする。

 幸運にもまだ町に被害は出ていないようだが、わざわざ人里に降りてくるくらいなんだから相当に腹を空かせているはず。

 逃げるつもりはないだろう。

 となれば、飛ばれると厄介だ。


「マルベリー! 奴を飛ばせるな!」

「は、はい! 氷よ――〝アイシクル・スピア〟!」


 マルベリーは魔術を詠唱し、氷の槍を射出。

 それはワイバーンの片翼に大穴を空け、飛ぶ力を失ったワイバーンは大きくバランスを崩して地面に倒れる。


「よくやった! 後は任せろ!」


 俺はロングソードを逆手持ちすると、一気に間合いを詰める。

 そしてドン!と地面を蹴って跳躍し、


「ハアアアアアッ!」


 ワイバーンの背中へ、ロングソードを突き込んだ。

 自らで鍛えた鋭い切っ先は、ワイバーンの鱗を容易く貫通。

 そして的確に心臓部へと滑り込む。


『キシャ……ア……』


 一撃で致命傷を与えられたワイバーンは、為す術もなく絶命。

 そのまま動かなくなる。


「ふぅ……どうにか一撃で仕留めたな……」


「レジンさん! ご無事ですか!?」


「ああ、造った剣が折れなくて良かったよ」


「け、剣もそうですが、レジンさんはやっぱり凄いです! あのワイバーンを一撃で仕留めちゃうなんて……私、ワイバーンと戦うのなんて初めてで緊張しちゃって……」


「……初めてだったの?」


「はい! なんなら、見るのも初めてです!」


「そ、そっか……」


 まあ確かに、この辺じゃあんまり見かけない魔物モンスターではあるが……。

 上手く倒せて良かった……。


 俺たちがそんな話をしていると、町の人々がぞろぞろとワイバーンの回りに集まり始める。

 彼らはワイバーンを迎え撃った俺とマルベリーに感謝を口にし、安堵の笑顔を見せてくれた。

 この人々を守れただけでも、身を挺す価値はあったと思う。


 それに俺はこの町で武器職人を続けていくつもりだし、皆との信頼関係があるならそれに越したことはない。


 とはいえ見世物でもないし、こいつの亡骸もさっさと処分しちまおう……。

 そう思って、俺はワイバーンからロングソードを引き抜く。


 その時――ふと、ばっくりと開いたワイバーンの口元に目がいく。

 より正確に言うと――口元に並んだ鋭い牙・・・に。


「……? どうされたんですか、レジンさん?」


「え? ああいや、ちょっと思ったんだけど……こいつの牙とか爪って、武器に使えるんじゃね? ……ってさ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る