お悩み、異世界放送局!

菓子ゆうか

第1回放送――異世界転移者が異世界人と意思疎通できる理由?

「アリスさん準備できていますか?」


「もちろんに決まってるでしょ? これが初めての私の番組なんだからね。逆にあんた達が失敗でもして、私に恥でもかかせてみなさい、天界から追放するわよ!」


「またまた、アリスさんが僕たちを追放できるほど、力ないじゃないですか。だいたい、有能な我々を追放って、アリスさんは馬鹿なんですか?」


「冗談よ、そんなことわかってるわ。私が天界放送局てんかいほうそうきょくの新人の分際でザコなことは……。だから成り上がるのよ! この第1回放送が私の成り上がり物語のスタートなのよ!」


「番組統括責任者も番組が成功すれば、大いに喜ぶはずです。そうすれば、アリスさんがやりたいこともいずれ出来るようになるでしょう」


「ええ、その通りね。私の声を、私の美貌を、私の神々しさを。全宇宙の端から端まで轟かせる。私が本当の神の中のゴットゥーなことを分からせてあげるわ」


 天界放送局のとある部屋で、番組の準備がなされていた。


 慌ただしく走り回る天使たち、白磁色の玉座に腰を下ろす神兼ディレクター。


 そして、『お悩み、異世界相談局』の看板となる女神――アリス・スケアクロウである。


 席についたアリスを数台の神具天映時機じんぐてんえいじきが向く。


 神具天映時機は人間界でいうカメラのことである。


 カンペを持った天使が配置につき、照明や音響担当の天使たちも持ち場につく。


「アイスさん、スリーカウントで行きます。準備の方はよろしいですか?」


「ええ、当たり前でしょ! 私が緊張などするはずがないわ。初めてちょうだい」


「分かりました。現場の皆さん、撮影開始します。3、2、1、――」



「皆さん~、早朝の人はおはようございます! お昼の人はこんにちは! 深夜の人はこんばんは! 天界放送局の新人――アリス・スケアクロウです、どうぞよろしくお願いいたします~」


「今回から始まる『お悩み、異世界相談局』は、異世界転生や異世界転移の不思議なことや、異世界への疑問を女神視点から、お悩み解決する番組となっています」


「どうしてこのような番組に決まったかはプロデューサーさんにハガキを送ってください~」


「カンペに、えーと、プロデューサーさんによりますと、異世界物の作品が増えている星があるそうで、そちらを対象にした番組を思いついたということらしいです。ははっ、どうやら今回の番組は壮大な宇宙にある一惑星をターゲット層にしているようですね」


「だからって番組変えないでください! 他の星に住む人間さんにもこれから異世界ブームが到来するかもしれません。その時のために予習しておくのも面白いと思いますよ」


「番組の説明も長くなっては鬱陶しいので、早速第1回のお悩みを、アリスちゃんが解決していきたいと思います」


「ペンネーム――『ドーナツの穴だけ残せないさん』。お便りありがとうございます」


「第1回の放送なので身近な疑問を送ります。異世界転移した人間が異世界人と会話の成り立つ理由が知りたいです。なるほど、『ドーナツの穴だけ残せないさん』、ありがとうございます! なかなか面白い疑問ですね。それではアリスちゃんが解決していきましょう!」


「まず、異世界転移とはなにかから説明しましょう。宇宙Aの人間が宇宙Bへと移動することです。もう少し簡単に説明しますと、現在いた世界から別の世界に飛ばされるものです」


「これは、宇宙のバグとして起こってしまうことがあります。神様のおちょこちょいと言えばそれまでなのですが、神ルールブックには『神は、完璧な存在、世界、物を創造することを禁ずる』と書かれています。残念ながら、バグは意図的なものですが、発生の可能性は宇宙が始まって、終わる間に生命体の中から神が誕生するほど低い確率になります」


「わかりにくいですよね。地球と呼ばれる天体で言いますと、地球に落ちた隕石が転がって、人間全員を貫いて殺害する確率になります。そんなこと万に一つあり得ないことです。そんな天文学的など鼻で笑ってしまうぐらい異世界転移は不可能一歩手前の現象なのです」


「すみません、話が脱線してしまいしました。なぜ、異世界転移した人間が異世界人と会話が成立するかでしたね。転移原因で異なりますが、今回は省かせてもらい、1番カジュアルな物を説明することにします」


「簡単に言いますと、転移者と神が会話できるよう、人間に全ての人類言語をインプットするからです。神の言葉を人間が理解するには、既存の言語を大量にマスターする必要があるからです。さすがに、1から天使が先生の真似事をして教えるわけにもいきません。まず、人間さんの寿命が尽きてしまいます」


「神様と人間が会話する理由は、色々手続きがあるためです。詳しくは、異世界転移してからどうぞ」


「転移者は宇宙全ての人類文化で発展した言語をマスターすることになります。どうですか? そうすると異世界の言葉が理解できても不思議ではないでしょ」


「ここで問題になることが3つあります。人間の脳が膨大な情報を保存できないこと。そして2つ目、話すことはできますが文字としての知識がないので、異世界で文字が読めないという現象に見舞われてしまうこと。3つ目に、初めから神の言語だけをインプットすればいいという、3つについて説明していきます」


「1つ目の人間のキャパシティー問題は、魂に情報を保存することで解決しています。魂はもとより情報体でありますから、キャパシティーは膨大ですし、最終的には綺麗さっぱり浄化しますので問題ありません」


「2つ目は、神との意思疎通に文字は不要なので、文字に関する情報を人間さんに与えることはしていません。言葉が通じれば、文字ぐらい異世界人が教えてくれるでしょうから」


「3つ目の神の言葉だけをインプットすればいいという問題です。簡単なことで、神の言語をインプットするより、人類文化で発展した言語の全てを記憶する方が時間も労力もかからないからです。種族の違いは大きな壁となります。人間がペットにひたすら言葉を浴びせるよりも、動物的コミュニケーションを活用した方が意思はしっかり伝わるようなものです」


「しかしここで疑問が生じる人間さんもいるはずです。異世界転移した中には、意思疎通できない奴もいたぞ! 反対に文字も読める奴がいたぞ! そのような疑問が浮かぶのも理解しています。では続きを説明していきましょう」


「文字が読める転移者から行きますね。とても簡単な話で、親切な神がおまけにプレゼントしただけです。担当の神様に感謝ですね。作品で異世界語や文字が読者の世界にある文字に変換されているのは、エンターテインメントのためです」


「次に意思疎通ができない理由を説明しましょう。さきほど全ての言語をインプットすると言いましたが、神の中には、元から持つ言語以外を消してしまう方もいます。そういう神は頑固な神様に多いです。その他にも人間さんから消して欲しいと言い出す人もいますし、神に喧嘩を売って消された人もいた気がします」


「説明は以上です。どうでしたか、納得していただくことはできましたか?」


「それでは、第1回『お悩み、異世界相談局』はお開きとなります。説明をさせていただいたのは、アリス・スケアクロウでした」


『アリスさん、カンペカンペ』


「すみません、視聴者さんが天界放送局に鬼電してきたようです。内容は、『神様との会話をおぼえてない転移者はどういうことですか!』とのことです」


「う~ん、神様視点で考えてほしいのですけど、神だけが知る機密情報をバンバン皆さん言いますから消すほかないのです。反対に記憶が残される場合は、神様が何かしらのお願い事をすることが多いです。お願いしたのに記憶がなければ、達成できませんから」


「なのですみません! いきなり転移した方の中で、何が起こったか理解できないまま、異世界に飛ばされた人間さんは、担当の神様がとても口が軽くて世界の真実や人間に眠る9つの能力などを漏らしてしまったのでしょう。神様は人間さんと話すことが大好きな方が大勢います。だいたい、転移者受付をしている神が人間嫌いなことは稀でしょう」


「鬼電された人間さん、理解できましたか? そうだと嬉しいです」


「では、第1回『お悩み、異世界相談局』はお開きとなります。説明をさせていただいたのは、アリス・スケアクロウでした。皆さまもいい異世界転移ライフを~」


「※解決に使われた説明は、天界5番の内容であり、他の天界のルールと異なる場合があります。転移してしまい、話が違うと問題が生じた場合、天界放送局5番本部は一切の責任を取らないことをここに宣言します。こちらの番組はエンターテインメントになっておりますので、信じるのも信じないのも人間さんの自由です」

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