第11話 願うわくば
荘厳な一室。銀の鍵爪のような装飾がまるで首を掻き斬る刃に見え、赤いカーペットの触り心地はいつもより足にへばりつくように思える。アルトリウスとテオディウスの前には国王であり、双子の父親であるライヴァン、その妃グレイシア、そして双子の教師であるアンデルセン。だが皆ライヴァンは目尻を吊り上げ、グレイシアは涙をためている。アンデルセンも怒っているのだろうが、生憎人の良さそうなその顔立ちでは迫力も何もあったもんではない。
そんな緊迫な空気のなか、ライヴァンが口を開く。
「アルトリウス、テオディウス。何故このような行為を行ったかもう一度聞かせてもらおう」
俯き顔で恐る恐る自らの父親を見上げる。
アルトリウスとテオディウスはこれで二度目となる叱責を受けている理由を話し出した。
「この間出会ったルカ君に謝るためです……」
「それは彼から言われたのか」
「自己判断でいきました……」
テオディウスの言葉にライヴァンは苛つきを吐き出すように溜め息をつく。
「何故アンデルセンに黙っていた」
「これは僕の問題であって、アンデルセンさんには関係ないと思ったからです……」
「関係ない訳ないだろうッ! 」
ライヴァン国王の怒号が王の間に響き渡る。一室の前で警備をしていた騎士もあまりの声にびくりと震えていた。
「テオディウス、アルトリウス! お前達はこの国を背負う人間なんだぞ! だというのに私やグレイシア、アンデルセンに何も言わずに城外にでるなど言語道断! 王族としての立場を考えなさい! 」
びりびりと回りが震え、その怒号を受けていた双子はあまりの恐怖に涙目になっていた。
「いいか! 今度またこのようなことを犯すのならばそれ相応の罰を──! 」
途端、言葉を遮るようにライヴァンは激しい咳を繰り返し始めた。苦しそうにする様子にグレイシアが心配そうに近づく。
「陛下、大丈夫ですか……? 」
王の背を撫でながら訪ねるグレイシアにライヴァンは頷きながら少しずつ呼吸を取り戻していった。
「ごほ、げほ。ぁ、あぁすまない……。グレイシア。心配しなくともよい」
ライヴァンはグレイシアに笑いかけると双子へと向き直る。しかしその顔も青ざめており、体調がよいとはいえないほどだ。そんなライヴァンの目に心配そうにこちらを見る双子の姿が映る。その姿を見て怒りの熱が冷めたのか落ち着いた姿勢で声をかけた。
「……今日はもう部屋に戻りなさい。アンデルセン、頼んだぞ」
「仰せのままに」
アンデルセンは胸に手を当て、頭を下げると双子を引き連れて王の間をあとにした。荘厳なる王の間は王と妃だけになってしまった。静かな空間ではあるが外からの陽の光が美しく反射し、王の間を白く染め上げる。
「グレイシア」
ライヴァンの自分の名を呼ぶ声にグレイシアは目線を合わせる。グレイシアの目に宿るのは煩慮の感情だった。
「私は父としてあの子達のそばにどれほど居られるのだろうな」
その言葉にグレイシアは否定をせず、涙を溜めながら自身の伴侶の手を握る。上部だけの否定を彼が嫌うことをグレイシアは妃として王宮を訪ねるまでに理解していたからだ。
・・・
王の間をあとにしたアンデルセンと双子は白亜の廊下を歩き、自身の部屋へと戻っていた。分かりやすく落ち込んでいたアルトリウスとテオディウスのためにアンデルセンは明るい口調で話していた。
「怒られてしまいましたね」
「……」
「ですがあれは愛故の怒りということをどうかご理解なさってください」
「……」
「きっとライヴァン国王陛下もお辛い思いを押し殺して
「……」
だがうまくいかず、だんまりとしたままの双子の様子にアンデルセンも困ったのかため息をついた。
アンデルセンの健闘空しく部屋についた双子はアンデルセンに頭を下げると静かに部屋へと入っていく。
「……まあこれも経験ですね」
アンデルセンは教育者としてまだ幼い二人の子供の成長にとってよりよい経験になるよう、特に信じてはいない神へと祈るのだった。
境廻のツインテイル 野良黒 卜斎 @1004819
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