第8話 ストーリーはまとまらない

「お、雫さん」

「こんにちはー」

「うーっす」

部室に入ると山下先輩のノーパソを一ノ瀬先輩と睨めっこしていた。

「ストーリー進んでます?」

「いやぁなかなか難しいね。簡単には意見がまとまらないよ」

「だぁかぁら!私は王道ストーリーがいいの!松尾芭蕉が出るなら徳川家康と俳句バトルさせないと!」

「......主にこいつが」

と言いつつもまんざらでもなさそうだからあまり気にならない。

「こんにちは〜。あぁ松本さん、もうきてたのね」

「うん、早めにホームルーム終わったから」

「さっそくだけどストーリー案出し合いましょうか」

「じゃあわたしから......」

カバンからノートパソコンを取り出して開く。デスクトップにある「雫文学」と名付けたメモ帳を開く。


『A君は暗い山奥できつねの嫁入りを見つける。

その時獣の群れが狐の行列を襲う。A君は嫁入りするはずだった狐のBさんを助ける。

狐と交わった人間は現世には帰れない掟がある。

そして8日目の月が沈むまでに狐の世界から抜け出さないと死んでしまう。

現世を抜け出すには稲荷神の許可を得るしかない。

Bさんと協力し、なんとか現世に戻る。』


「なるほどね。なかなか妖しい世界観で面白そうじゃない」

「ありがとう。結構良くない?」

「心配なのは世界から抜け出す部分のストーリーがファンタジーチックになってしまっては純文学とは言えないものになってしまうところがきがかりね」

「確かに......結構ざっくりだったからあんま考えてなかったなぁ」

「私のもいいかしら?」


『卒業まで残り2週間。

Aは物静かでクラスでは空気のような存在だった。

もちろんクラスの青春している人たちが羨ましかった。

しかし突然クラスの人気者BがAを盛り上げようと遊びに連れて行ったり一緒にBと行動し、Bにべったりに。

なぜならBは......だったからだ。

こうしてAは満足して高校生を終えた』


「いいねぇ」

「少しストーリーが薄いし、未完成のところもあるから全然納得いってないけどこれならもっと改善の余地はあるかなって」

「でもこれだとくっつけるのは難しいね。ファンタジー風と現代風って絶対マッチしないよね」

「わざわざくっつけようとしなくていいじゃない。コンペにしましょう。先輩と先生集めて」

「コンペ?」

「そう。他者に決めてもらうの」

「でもそれじゃあ私たちだけで作ったって言えないじゃん......」

「いや私はありだと思うよ」

「え......?」

「作品は他者から評価されて意味があると思う。妥協するぐらいだったらしっかり作ってほしいし。私たちもできる限り協力し合おうよ。お互い様さ」

「ですよね。じゃあコンペ形式で決定ね。お互いのストーリーをしっかり作り直して来週の金曜日にコンペにしよう。先輩、お願いできますか?」

「あぁ、わかった。来週の金曜は先生も来させるよ」

「わかりました......」

非情だけど、小説だって競争社会だ。良い作品だけが生き残って行くのは当然といえば当然だけど......

「......そういえば登戸先輩は?」

「みなちゃんは毎週火曜日は校舎裏で猫と戯れてるよ。気晴らしにでも見てきたら?」

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ぶんがくガールズ! あおい @aoi_dream

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